反物質と哲学

昨日のNHK『サイエンスZERO』は、雷特集だった。

番組名を見ると、科学性がゼロなのかと思ってしまうが、ちゃんとした科学番組である。

番組によると日本海、とくに金沢沖上空の大規模な雷では、「反物質」が出現し「対消滅」が起こっているのだという。

 

この物理学的に画期的な事実が明らかになったのは、2017年のことだそうだ。

私は今まで全く知らなかった。

ふだん文系分野に親しんでいると、こうした情報には疎かったりする。

文系の世界では、反物質の話題は盛り上がりにくいからだ。

しかしながら巨大なエネルギーの源であり、宇宙の始まりに関わっている反物質を無視するわけにはいかない。

なんとか文系方面からもアプローチできないだろうか。

 

文系の世界には、「反物質主義」という言葉がある。

ただし、これは反物質=主義ではなく、反=物質主義である。

物質を重んじ、精神や人間性を軽んじる物質主義に反対しているわけだ。

要するに文系人間は反物質の前に、そもそも物質が苦手なのだ。

マルクスの唯物論は例外的に、物質に着目している。

また、20世紀になって、デカルト以来の「精神」の優位性に対する批判が巻き起こった。

だが、そこで称揚されたのは「身体」「肉体」であり、いわゆる物質ではなかった。

 

ウイルスは生物のようだが、定義上は物質に分類される。

物質を無視していては、ウイルスについて語ることはできまい。

反物質の観測成功とパンデミックを機に、21世紀は文系分野も物質にもっと注目すべきではないか。

それはもしかしたら、ソクラテス以前の「自然哲学」への回帰のような形をとるかもしれない。

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