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生産理論について:TPS(前編)

新卒でメーカに入社後、最初の数年は生産技術と品質管理が混ざったような仕事をしていました。正直に言うと「技術屋」と胸を張って言える仕事ではなかったですが、担当型式の構造や英語には詳しくなれました。(ほぼ毎日、英文の技術文書を読み解きしていたため)

また、頻繁にExcelを使う職場でもあり、ある先輩の”神業ショートカットキー”に魅せられ、見よう見真似し、習得できたのも財産かと思います。

その後異動を経験し、生産性向上のチームに配属されました。ここで、生産技術、生産管理的な知識を身につけられました。

異動当初の業務内容は、構想段階のものが多く、抽象度が高く、雲をつかむような感じで大変苦しい思いをしました。しかし、石の上にも3年、抽象を具体化でき、新たなアイデアによる生産性向上にも取り組めるようになりました。

今回は、生産技術業務を通して学んだ生産理論について、持てる知識を駆使してアウトプットします。今回はトヨタ生産方式(TPS:Toyota Production System)について書きます。続編の制約条件の理論(TOC:Theory of Constraints)とも関連させていますので、ぜひご覧ください。


トヨタ生産方式(TPS:Toyota Production System)

1. 概要

トヨタ生産方式(以下TPS)はトヨタ自動車工業(現トヨタ自動車)の副社長、大野耐一さんにより体系化された生産理論です。

TPSを一言で表すと、「非原価主義」に基づいた生産方式と言えます。自動車に限らず、良い製品・サービスを市場が求める値段で販売し、継続的に利益を得るための生産方式と理解しています。

原価ありきで売値を考える「原価+利益=売値」ではなく、売値ありきでいかに利益を創出するか、つまり「売値-原価=利益」ということです。

特にコモディティティ化したものを消費者に買ってもらうためには、コストを下げるしかないです。GAFAに代表されるディジタル・ディスラプターは「無料」という顧客体験をもとに、市場を席捲してきました。非原価主義は、極論を言うと「無料」という世界になるはずです。(以下を参照しました。)

つまり、TPSの考え方では、コストを下げるには、徹底した原価低減しかないということです。作る側の都合で製品・サービス値段を吊り上げることはできないし、そうしたところで結局は顧客は逃げていくと思います。

ではコストだけが価値なのか、というとそうではないと思います。良い製品・サービスには、「顧客が求める機能が備わっていること」または「それ以上の機能が備わっていること」も必要です。

製品・サービスのコストが下がり、機能が向上すれば、その価値は大きく向上します。製品・サービスの持つ価値を、機能÷コストの関係性で表し、システム化された手順に沿って価値の向上を図る手法をVE(価値工学:Value Engineering)と呼びます。TPSとVEは親和性のある考え方と言えます。VEの詳細を知りたい方は以下をご参照ください。


2. 「ムリ・ムラ・ムダ」について

TPSでは「3ム」または「3M」と呼ばれる「ムリ・ムラ・ムダ」という概念があります。

ムリ

ある作業を実行するにあたって、肉体的、精神的に厳しい状況を指します。安全衛生上の問題が隠れている場合もあり、放置すれば労働災害にもつながりかねません。

例を挙げると、重量物の運搬、外観目視検査などの継続的に集中力を要する作業の連続、突発的な作業変更の連続、毎日の深残などが該当すると思います。この状態が継続すると、作業者の安全や製品の品質に悪影響を及ぼします。

安全は品質に直結するという考え方がありますが、これは「物理的な安全」「精神的な安全」の2つを指すのだと思います。この両者が脅かされる状況では良い製品・サービスをつくるのは一般的に難しいと考えて良いでしょう。

ムラ

作業にあたる人、日にち、時間帯、製品、ロットによって出来高や品質が変化する状態です。いつでも、どんなときでもアウトプットは一定に保ちたいものです。なぜなら、後述する7つのムダの発生に直結するためです。

また、TPSでは「標準なくしてカイゼンなし」という言葉があります。今日必要な出来高や過不足のない品質、標準作業といった基準があり、基準からの乖離を把握しない限り、良くなっているのか、悪くなっているのか、判断がつきません。

基準からの乖離を把握することで「ムラ」がわかり、改善のためのアクションにつなげられます。以上の内容は標準化につながります。

ムダ

「ムダ」を最後にした理由は、「ムリ」と「ムラ」ありきで「ムダ」が発生する場合が多いからです。

一番最初に「ムダ」に手を当てる人が多いように思えますが、まずは「ムリ」「ムラ」に焦点を当てるのが良いです。「ムリ」「ムラ」が分かれば自然と「ムダ」が見えてきます。そして、TPSでは「ムダ」は7つに分類されます。


3. 7つのムダのついて

TPSでは、ムダは7種類あります。私が重要と考える順番に並べると、

3.1. 「不良をつくるムダ」
3.2. 「つくり過ぎのムダ」
3.3. 「在庫のムダ」
3.4. 「手待ちのムダ」
3.5. 「加工そのもののムダ」
3.6. 「動作のムダ」
3.7. 「運搬のムダ」

となります。

この順番で、ムダの詳細とムダを排除するためのアクションを説明します。後編に続きます。


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