【USER'S REPORT】風景写真家 : 井上嘉代子
早速だが、H&Y角型フィルターシステムを使用することで生まれる撮影体験を豊かにするメリットを紹介したい。
朝や夕方、太陽が自分の目の前にあるようなシチュエーションで輝度差が大きいシーンでは白飛びや黒つぶれが発生してしまう。その様なシチュエーションでは、GNDフィルター(グラデーションNDフィルター)を使って被写体間の輝度のバランスをとることで解決できる。
私は現場の状況に応じて適切なフィルターを選んで撮影を楽しむ為、撮影時にはかなりの数のフィルターを常時携帯している。(ミラーレスが主流になったことで、フィルターの調節効果をリアルタイムで確認できる為、フィルターを非常に使いやすい時代になった)
フィルターワークは自分の創りたい作品へ追い込むためには必須であり、私は基本的に現場でほぼ作品を作り上げ、撮影終了後のパソコンを利用した編集では微調整程度しか行わないスタイルだ。そして、それは活躍している多くの風景写真家の皆様も同じだと思う。
つまり、自分の作品に盛り込みたい表現を不満なく創っていくには、クオリティの高いフィルターが必要だ。やはり、レンズの先に1枚のガラスを挟むことは画質に影響(フレアやゴーストなど)が出る可能性がある為、平凡なフィルターでは足を引っ張ってしまう。
その点、H&Yフィルターは冒頭でも紹介した通り、画質に全く影響がなく、ナチュラルに自然を表現することができる。また、システムの使いやすさについても特筆ものだ。H&Yフィルターはフレームがついている為、そこを持って装着や普段のメンテができる為、指紋が非常につきにくい。ゴリラガラスで傷や落とした際の衝撃にも強い現場でも心強い存在だ。冬は手がかじかんで掴みにくかったり、力がはいりにくい、そんな時にも有効である。
私が高頻度で活用している角型フィルターとしてバランサーGND16がある。バランサーGNDフィルターは写真全体の露出バランスをナチュラルに整えることを目的に開発されたということもあり、フィルター面の約70%の部分に緩やかにグラデーションがかかっている。
元来、GNDフィルターではND箇所から透明箇所にグラデーションしていく領域が短く、急であるために境目が気になってしまうというケースもシーンによってはあったのだが、それを見事に解決した優れたフィルターだ。私は水平線の下部まで広範に明るさがくる海辺などでよく使用している。
実際の撮影風景を紹介したい。これは伊豆半島の夕景である。波を長秒露光で撮りたいが、この程度の明るさだと長秒にすると空も海が明るくなり過ぎてしまう。さらに海に走る太陽の筋と砂浜のディティールも出したかった。
そこで、バランサーGNDを使用して、空と海辺の輝度さを埋めつつ、ND効果で長秒露光を行った。
これは大洗海岸だ。太陽の形を残しながら、穏やかな波になるように長秒を行った。
こちらはリバースGNDを使用して撮影した上高地の大正池。リバースGNDは、最上部が少し明るくなっており、そこから下部に向かって徐々にNDが掛かっているフィルターだ。
山と湖水に映る山を綺麗に撮りたかったが、太陽に当たっている上部の山と空と、山が映る水面の間はかなりの輝度差があった。明るい空を残しつつ、山と水面も綺麗に撮りたかったのでリバースGNDを使用した。
こちらは北海道の留萌の海岸。フィルターなしの場合、長秒で撮ってみると昼間の海のような明るさになってしまう。
バランサーで太陽の明るさがある辺りまでNDを掛けた。しっかりと青空と夕日と映り込みを表現できた。
こちらは兵庫県のシワガラの滝だ。いくまでも大変だが、滝の方をみると、明るい光が奥から入ってしまい、滝の上の部分や岩の部分がかなり白飛びしてしまう状況だったので、数時間良い光になるまで粘った。
そこで、ソフトGND8とドロップインCPLで上部の露出を抑えつつ、水面と緑の反射を抑えた。そして、10秒間の長秒露光で糸の様な滝を表現した。画面上ではわかりにくいが、黒い部分の岩の質感しっかりと表現できている。
次に、各地で撮った作品を紹介したい。角型フィルターは様々な使い方ができるので、その醍醐味が伝われば幸いだ。
夕日が高い位置にあった為、緑色の木がある部分が白飛びしていたので、斜めにかけた。また、順光だったので桜の色をCPLで引き出した。ソフトGND8とドロップインCPL使用。角型は回転させて使えるので一部分の減光にも有効。
フィルターなしだと太陽付近に露出を合わせると草原部分がかなり暗くなってしまう。そしてソフトのみだと太陽の部分に対してのND効果足りない状態になった。そこでソフトGND8とセンターGND4を2枚重ねた。
色と立体感を増感させるために、ドロップインCPLのみを使用。マイナス10度以下の場所で、手袋をしたまま円形のPLを回そうと思うと、うまくいかないが、ドロップインCPLなら手袋をしたままでも調整ダイヤルをくるくると回すだけで大丈夫だ。
風景が主役で星が脇役というスタンスで撮影をしている。緑や黄色っぽい光害が見られる。水蒸気等に街のあかりが反射してこうなる。これを抑えたい。
星景写真では、ピントと構図を追い込んだ後にフィルターを装着することになるが、従来の一般的なフィルターでは、装着の際にそれらがズレてしまうことがあった。H&Yフィルターはナイトフィルターもマグネット式でワンタッチで装着できる為、そのようなストレスがない。また、ホルダー全面にフィルターを持っていけばカタッとすぐに装着が完了するので暗闇の撮影現場でも非常に使いやすい。
こちらは、ナイトフィルターを使って光害は抑えたものの、街方面で開催されていたナイトイベントの光が入ってきてしまった(左下部分)12時を過ぎると天の川が立ってきてしまう一方、左下部分がずっと明るい状態だったので焦りがあった。
そこで、ナイトフィルターとソフトGND8を併用して左下のとても明るい部分の露出を抑えた。そして少し編集で黒い部分を立ち上げることで全体のディティールを引き出せた。また、ナイトフィルターを使用したことで、青、ピンク、赤など星の色がきちんとでてくれた。
-おわりに-
今回、各地での撮影を通してH&Yフィルターの様々な撮影現場への対応力の高さを感じた。
ドロップインCPLはダイヤルがついている為、ファインダーを覗きながら簡単に撮影効果を見て、クルクルと調整できる。さらに、ND64/CPLのようなND一体型のドロップインフィルターを使用すれば、一般的なフィルターであれば既に2枚重ねる必要があるが、それが1枚で済む。
目の前に段差があったり、三脚を渓流の中に立てていてこれ以上前に行けないような状況でも、前面に角型フィルターをかざすだけ(より効果が欲しい場合も、同じようにフィルターを2枚程度重ね付けが可能)でマグネットの力で簡単にホルダーに装着できる。市場に溢れる一般的な角型フィルターであれば、上部から強く押して装着と調整を完了する必要がある為、三脚や雲台がズレて構図が崩れる恐れがあった。
そして、現場への対応力という観点で言うと、-10℃の環境ではレンズ同様、フィルターも凍結してしまう可能性があるが、このような100mm K-Series専用のヒーティングホルダーもある。霜などが付くのを防いでくれる冬の撮影には欠かせないアイテムだ。