小説

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ライフインホワイト 10

 「宇野……君」
 「有村会長……」
 そこにいたのはよく見知った女性だった。
 有村夕夏。
 宇野耕輔の通っていた高校の一年先輩で、生徒会長を務め、そしてかつて『宇野耕輔』の仲間だった女性だ。
 俺が彼女の姿を見たのは実に彼女の卒業式以来のことで、三年近く会うことはなかった。
 「……」
 「……」
 お互いに気まずい沈黙が流れ、思わず顔を逸らしてしまった。
 何故三年も顔を合わせることがなかっ

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ライフインホワイト 9

 綾瀬さんの捜索を始めて既に数時間経っていた。
 雨は止む様子もなく、気温も徐々に下がっているのが体感でわかるほどだった。
 正直に言って限界を感じていた。
 宛もなく捜索するには、俺は綾瀬さんのことを知らなさすぎる。
 なんとか記憶の中にある綾瀬さんとの会話を思い出して、探し回ってみたがなんの手掛かりも得られなかった。
 焦燥は募るばかりだが、それに囚われてしまえば足も動かなくなってしまう。
 

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ライフインホワイト 8

4/
 「クソ……っ!!」
 ポツポツと控えめに降り出した雨に打たれながら夜の街を駆ける。
 宛てがあるわけではない。
 思い付く場所をしらみつぶしに走り回るしかなかった。
 少しづつ衣服が湿っていく気持ちの悪い感覚もあったが、強い焦燥と着実に溜まっていく疲労がそれを意識させなかった。

 着信があった。
 清景の家で晩飯を食べ終わり心の余裕が幾分か生まれていた。
 綾瀬さんに関しては明日から一人

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ライフインホワイト 7

 自宅のアパートに戻ってきた。
 ポケットから鍵を取り出して、差し込む。
 それを回す直前に、そういえば晩御飯が何もなかったということを思い出した。
 冷蔵庫がからっぽで、買いだめしていたインスタント食品や冷凍食品を食べ尽くしてしまった。
 帰りにスーパーかコンビニにでも寄ってくるべきだった。
 面倒だが今から改めて行くしかない。
 なんとかならないだろうかと隣の部屋を見てみた。
 明かりがついて

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ライフインホワイト 5

3/
 ガチャリと目の前の扉を開けた。
 「おう、宇野」
 横柄な声と半ば本と本棚に埋もれたような室内が俺を出迎えた。
 「お疲れ様です、会長」
 返事をしながら室内を見渡すが部室にいるのは椅子の上で器用にだらけながら本を読む金江会長だけであった。
 聴こえないように小さくため息を吐いて、それから近くの椅子に腰かけた。
 会長の方を見る。
 会長の目の前の机の上には数冊の本が積まれており、それを次

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ライフインホワイト 2

 サークル棟は相変わらず騒がしかった。
 多くの学生がたむろしているロビーを抜け、階段を上がる。
 階下の喧騒から少しだけ離れるが各部室からは賑やかな声が聴こえていた。
 既に斜陽が指し始めるこの時間は、自分と同じように一日の講義を終えた学生も多くなってくる。
 そうなれば必然的にサークルに訪れる者も増えるわけだ。
 そんな騒がしい部室を尻目にサークル棟の階段をさらに上がり、そして奥へと進む。
 

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ライフインホワイト 1

 「んぁ……」
 頭の近くに置いてあったスマホがピリリリ……とアラームを鳴らしていることに気付き半ば強制的に覚醒することになった。
 なんとも清々しい朝である。
 カーテンを開けてみれば、心地の良い晴天と冬場特有の冷気がさらに心身の覚醒を促した。
 「あー……」
 おはよう、という相手もおらず言葉にならない声を発した。
 一人暮らしなのだから当たり前である。
 だんだんと明確に覚醒しだした頭にはス

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シャチ

 ピピピピピ……――
 枕元に置いてあるスマートフォンが軽快な音を立て、曖昧な微睡みの中から現実へと引っ張り上げてくる。
 おそらく、多くの人間がそうであるようにいくら私と言えど決していつも通りの充分な睡眠とは言えない状態であっては目が覚めることを本能的に拒否してしまうものだ。
 スマートフォンのアラームを無視してそのまま微睡みの中に戻ってしまおうと、もぞもぞと芋虫のような緩慢な動きで布団を被りな

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魔王の話 8

2/
 「ギィィ!!」
 目の前の黒い塊、体長1,8mはあろうかという巨大な蟻が視線にこちらを捉え、唸りながらその強靭な顎で噛み砕かんと、その体躯をしならせた。
 しなった体が動くと同時にこちらに飛びかかるようにして素早く接近してくる。
 「ッ!!」
 その直線的な動きを見逃さず、ステップで躱し、躱しざまに手にしたなんの変哲もないロングソードで切りかかる。
 「ギッ……ギィィ!!」
 一瞬、蟻が苦

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魔王の話 7

 部屋にいてはどうしようもないので仕方なしに夜風にでもあたろうかと、何も考えずに部屋を出た。
 そこまではよかったが怜音はこの城について大した知識がないうえに夜間であるために暗く道が一切わからなかった。
 それに城から外へ出るわけにもいかない。
 結果その辺をうろうろしていたのだが、結果として迷ってしまったようで部屋に戻れなくなった。
 どうしようかと悩みながら歩いていると見覚えのある中庭にたどり

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