学食へ行こう 5

 「部長はどうします?」
 伊吹先輩はまだまだ時間が掛かりそうなので先に部長に声を掛けた。
 「あー……」
 部長はちらと券売機を除き込んでから、財布から五千円札を取り出してこちらに差し出した。
 「海老天そばにしろ」
 「オッケーです」
 お札を受け取り、券売機に飲み込ませ、海老天そばのボタンを押す。
 すぐに機械が指定した食券を吐き出した。
 取り出した食券を部長に渡す。
 「周も早く決めろ」
 部長が券売機を指差した。
 券売機には部長のお金が入ったままなので、奢ってくれるということだろう。
 部長はそういうことに一々拘泥するタイプではないし、こういう時に早く決めない方が機嫌を損ねるので特に何も言わずに券売機を見る。
 前回はカツカレーを食べたのだったな、と思い出す。
 そういえば、あの時白澤先輩はラーメンと唐揚げ定食を食べていたな。
 ラーメンの欄を見る。
 炒飯セットが目に付いた。
 悩むのも面倒なので、醤油ラーメンとのセットを押した。
 機械がまたしても食券を吐き出した。
 「ごちそうさまです」
 「おう、感謝しろ」
 一応、感謝を告げれば横柄な態度で返事が来た。
 ここで文句を言うのも違うと思うので大人しく黙る。
 「で、湊は決まったか?」
 「も、もうちょっと待って下さい」
 伊吹先輩の方を見れば、未だ決めかねているらしく真剣に券売機を覗き込んでいる姿が見えた。
 そんな姿も絵になるのだから美人ってすごい。
 「私らは別にいいが、早くしないと後ろの連中が困るからな」
 「わ、分かってます! もうちょっとだけ! もうちょっとだけ待って下さい!」
 実際には後ろに並んでいる生徒たちも悩む伊吹先輩の姿を温かい目で見守っているので、特に困ってはい無さそうであったが、おそらく伊吹先輩に発破をかけるための部長の方便だろう。
 学食の中を眺めてみる。
 まだまだ昼休みは始まったばかりなので、テーブルは疎らにしか埋まっていない。
 少し遅れてやってきた前回はほぼ満席状態だったので時間によって大きく変わるものだ。
 こうしてぼうっとしている間にも次々と生徒たちが学食にやってきて、俺達の列の後ろに並んでいく。
 並んでは、伊吹先輩の姿に驚き、注目して、隣に居る俺と部長の姿を見て顔を逸らす。
 改めて、居心地が悪くなってきた。
 「おい、湊、まだか?」
 「うー……」
 苦しそうに伊吹先輩が小さく唸り声を上げた。
 数瞬そうしてから、やがて諦めたようにため息を吐いて、目が合った。
 「周くん」
 「はい」
 「その、ハンバーグ丼の定食セットというやつをお願いします」
 控えめに、何故か恥ずかしそうに伊吹先輩は告げた。
 「了解です」
 二つ返事で返答して、ハンバーグ丼・定食セットのボタンを押した。
 すぐに発券された食券を取り出して、それからお釣りのボタンを押した。
 千円札数枚と小銭も忘れず取って、部長に返す。
 「さっさと次行くぞ」
 すぐに歩き出した部長の後を追う。
 
 


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