砂上の楼閣 7
「死にたくない」と呟き続ける少年の身体の震えはどんどん強くなっていく。
先程から、その調子だったので様子がおかしい、ということに気付くのも遅れた。
「? ……ッ!?」
少年の身体の振動に合わせてFPも小さく振動していることに気付き、トゥーリアはほぼ反射的に地面に倒した少年の身体から離れた。
「死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない」
少年の身体の震えは止まらず、同時にFPも小さく振動を続ける。
ありえない。
少年はつい先ほどまでFP能力者ではなかった。
確実に。
それが、何故FP振動を生み出せる。
それを起こせるとすれば――。
蹲るように地面に蹲る少年の胸元から光が漏れていた。
真っ白な、それでいて不思議な不気味さのある光。
『オーブ』。
所有者の歪な願いを、歪に叶える球体。
「チッ……!」
対処が遅れた自分自身に対して吐き捨てるように舌を打つ。
迷っている暇は無い。
瞬時にFPを練り上げ、周囲の空気を『射出』させる。
少年の体ごと吹き飛ばす強烈な突風が、風の無いはずの地下空間に生みだされる、その手前。
「死にたくない……!!」
少年の大きな叫び声が地下一杯に響き、目を開けていられない程『オーブ』が強く輝いた。
おもわず、トゥーリアは腕で両目を覆った。
遅れて突風が吹き荒れた。
トゥーリアと少年の位置はそれほど離れていない。
少年に、至近距離で放たれた突風を防ぐ方法はなく抗う術はないはずだった。
先程まで。
突風と『オーブ』の放つ不気味な光が弱まるのはほぼ同時だった。
トゥーリアは警戒の一切を解かず、眼前を覆っていた腕を下げた。
瞬間。
巨大な物体がトゥーリアに向かって、迫っていた。
「ッ!!」
正体はわからない。
速度が速い。
こちらを確実に狙っている。
回避が間に合わない。
差し込んだ刹那の思考で咄嗟に真後ろにステップ。
瞬間的にFPで肉体を強化。
直後、想像以上の衝撃がトゥーリア襲う。
その威力の高さに驚愕するが、その力に出来る限り逆らわず、後ろ、線路のある方へ吹き飛ばされた。
トゥーリアの身体は数メートル宙を舞い、やがて壁に激突。
地面へと落ちる。
「グッ……!?」
喉の奥から苦しそうな声が漏れたが、ダメージ自体はかろうじて最低限に抑えることが出来た。
壁に激突した際の衝撃で口の中を負傷したのか、血の味が広がる。
血混じりのねばねばとした唾液を地面に吐き捨て、改めてホームの上を見た。
そこには華奢で小さな少年などいなかった。
真っ黒な体毛を生やした三メートル近い巨体の化け物が佇んでいた。
その異様な出で立ちに、元の少年の面影は無く、トゥーリアの脳裏に浮かんだのは――。
「――まるで悪魔、ですね」
そんなどうにも面白みのない感想だった。
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