砂上の楼閣 4
階段を下りきったトゥーリアの目の前には広い空間が広がっていた。
照明の設備は無いのか、あっても電気が無く機能していないのか真っ暗な闇が広がるばかりで、空間が広いということも自分の足音の反響具合とFPによる大雑把な走査で得た情報だった。
『運び屋』は様々な環境に身を置きながら、様々なモノ、或いはコトを運ぶのでこういう時の装備も最低限は備えてある。
数秒、耳とFP感覚を澄まして少なくとも周辺に人の気配がないことを確認してからコートの内ポケットにしまってあるライトを取り出した。
スイッチを入れる。
大きさにしては強力な明かりがトゥーリアの前方を照らし出した。
「……なるほど」
無意識に、小さく呟いた。
目の前に広がっているのは、普通の地下室や駐車場のような空間とは違う。
そこは恐らく地下鉄の駅だろうということが窺える作りだった。
様々な設備、例えばベンチだとか券売機だとか改札だとかが無いので判断に迷いはあるが、しかしそのつくりは確かに『駅』というものを彷彿とさせてくる。
自分の推測が当たったであろうことに、今更大きく反応することもなくトゥーリアは足を進める。
改札が入る予定であったのであろう場所を抜け、動かないエスカレーターを下る。
暗闇の空間にトゥーリアの足音だけが響く。
エスカレーターを下りきると、そこはまさしく地下鉄のホームだった。
左右には線路がある。
ここにも線路以外の何かは無かった。
この施設は、その全体が地下鉄として使われたことは一度も無いのだろう。
考えてみれば、不思議な感じがした。
トゥーリアは改めて自身のいる空間をぐるりと見回した。
数回そうしてから、改めて頭の中に地図を思い浮かべた。
街の計画書の端にあった地下鉄の計画の、さらにその中にあった小さな地図。
地下鉄の路線が書かれていた。
「……この線路を辿れば街の中央に着ける、はずですね」
確証は無かった。
街の計画が変わっている可能性がある。
地下鉄のトンネルはそもそも途中で掘削をやめているかもしれない。
そもそも、求めているものが街の中央部にあるとは限らない。
あらゆる可能性がある。
決めきれず立ち尽くしている間に、ズンと空間全体が揺れた。
遅れて空間のFPも低く、大きく振動した。
「……地上の戦闘は激化しているようですね」
先程の振動規模から察するに、相当強力なFP能力が使用されたのだろう。
それがどちらの陣営のものなのかは計りかねるが、どちらにせよこの放棄されたはずの街での戦闘は『戦争』と呼ぶに相応しい規模になりつつあるということだ。
再び、空間とFPの双方が振動する。
細かく数回、大きく二回。
「最悪、生き埋めになりそうです」
悠長に考えている時間は無さそうだ。
諦めるようにホームから線路に降りて、歩き出そうとした時だった。
視線。
咄嗟に、ホームと線路の間の隙間に身を隠した。
数回、銃声が響いた。
そのうちの一発は線路に当たったようで耳障りな甲高い音を立て、暗い空間いっぱいに反響した。
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