砂上の楼閣 3
窓から飛び出したトゥーリアの身体を重力はすぐに掴まえた。
落下が始まる。
地上七階からの自由落下は、人間一人を破壊するには十二分だろう。
何もしなければ。
トゥーリアは静かに、そしてごく自然にFPを瞬時に練り上げた。
生み出した効果はすぐに現れる。
落下を始めているトゥーリアのコートの裾を風が揺らした。
初めはフワリと、そしてやがて突風に変わり、トゥーリアの落下を受け止め始める。
完全に落下を止めるには至らずとも、FPによる身体強化を加味すれば、問題無い。
トッ、と大きな音を立てることもなくトゥーリアは地面に降り立った。
しかし、気は抜かない。
すぐに道路の側、地上から突き出すように存在する建物に身を隠す。
遅れて、身を隠したばかりの壁の端を銃弾が削った。
二発、三発と続いて、銃撃が止んだ。
諦めたのか、こちらの様子を伺っているのか。
周囲に関してはFPによる探知を行ってはいるのだが、トゥーリアは比較的探知に優れたFP能力者であると自負しているが、それでも探知出来る範囲は限られている。
それでも相手の位置を探知できていない、ということは相当遠距離からのスナイプであることと、FPによる攻撃でないことを加味して、『オーブ』側の相手だと予想できた。
その辺の石ころでも拾って反撃してやろうか、という思考も一瞬巡るが、すぐにやめた。
まともなスナイパーであれば攻撃を外した時点で場所を移動している。
この距離であれば相手がこちらを何者か把握しているということでもないだろう。
反撃せず立ち去るのが得策、と答えを出してトゥーリアは反撃を諦め、身を隠した建物を改めて確認した。
建物は道路から生えているように立っていて、その内側は下に下る階段になっていた。
地下室か地下道、給水か排水関係の施設か、或いはーー
「ーー地下鉄、の可能性もあるでしょうか……」
廃棄されるような街、それも砂漠のど真ん中に作られたような場所で地下鉄を作るだろうか、という大きな疑問はある。
しかし、事前に確認した街の計画書には地下鉄の計画が小さく記載されていた。
小さな記述だったので、まさか実現しているとは思わなかったのだが、トゥーリアが立っている建物は地下鉄の地上口に見えなくない。
「……」
進むべきかどうか、束の間、思考が止まった。
『オーブ』の連中が地下に隠れている可能性が大いにあるからだ。
どこまで張り巡らされているのか、予想がつかないが地下鉄網を把握しているなら、街のあちこちを移動するのにそれほど便利なものはない。
思考したのは一瞬だった。
もし、この先が『オーブ』の根城になっているのなら、この先に重要な情報がある可能性が高い。
場合によっては、それが『オーブ』を主宰する者の情報の可能性もある。
答えは一つだった。
単純明快。
トゥーリアは迷うことなく目の前の階段を下っていく。
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