父の車をまだ名義変更できずにいる一周忌
胸元をそっと触って鼓動を確認するようになった12歳の朝
夜。それまでしんとしていた空間が揺らいだ。コンサートが終わったのだ。雪がちらつく今宵の夜は寒く、会場内に密集していた熱気が外気に触れて、白く淡く人々を包んでい…
紗耶の朝は、戦場のように騒がしい。 食卓でぐずる者。早々に朝食を食べ終わったかと思ったらリビングのおもちゃ箱にダッシュする者。もう家を出る時間が迫っているのに、…
風が頬を凪いで目が覚めた。真夏の、まるでフイルムが白飛びしているような光の中だった。窓は少しだけ開いていて、閉めていたはずのカーテンが風ではためいていた。 …
最近、耳鳴りがするようになった。同時に耳に水が入ったように自分の声がくぐもるようになったので、忙しい合間に休みをとって美季は病院に行くことにした。 この歳で外…
パステル色のブルーとピンクが交じりあったような海の色だった。空も海と同じ色をしていて、ずっと歩いていると自分がどこにいるのか分からなくなる。 たすきがけにした…
のはら
2024年1月22日 02:15
2024年1月19日 22:09
2024年1月19日 21:18
夜。それまでしんとしていた空間が揺らいだ。コンサートが終わったのだ。雪がちらつく今宵の夜は寒く、会場内に密集していた熱気が外気に触れて、白く淡く人々を包んでいた。 赤いりんごのようなほっぺをしたたくさんの人の中に桜と蓬もいた。人いきれの中、ぶつからないように器用に地団駄を踏んだり両手をぶんぶん振ったりと忙しい。「もうもう、最高だったね!」「かっこよかった! てかさ、席すごくなかった!?」
2024年1月13日 23:35
紗耶の朝は、戦場のように騒がしい。食卓でぐずる者。早々に朝食を食べ終わったかと思ったらリビングのおもちゃ箱にダッシュする者。もう家を出る時間が迫っているのに、パジャマのままで走り回る者。自由奔放に行動する3人の子どもたちから片時も目を離せず、紗耶は絶え間なく声をかけ続ける。この日は朝、テレビをつけたのがいけなかった。数日前にオープンした遊園地の特集に、3人の目が釘付けになった。「みわ! こうじ
2024年1月10日 23:44
風が頬を凪いで目が覚めた。真夏の、まるでフイルムが白飛びしているような光の中だった。窓は少しだけ開いていて、閉めていたはずのカーテンが風ではためいていた。 私はゆっくり起き上がる。いつもこうして、休日は昼寝をしてしまう。特にこの一週間は、毎日こうして午後の遅い時間に目が覚めた。心地よい日だまりの中ゆっくりと意識が遠のくのは至福なのだが、いつも目が覚めるとすでに陽が落ちていて、部屋の中は暗く音
2024年1月10日 11:16
最近、耳鳴りがするようになった。同時に耳に水が入ったように自分の声がくぐもるようになったので、忙しい合間に休みをとって美季は病院に行くことにした。この歳で外耳炎になるなんて面倒だなあ。美季が思ったのはそれくらいのことだった。 美季は数年前に、岐阜の山深い街から東京に出てきた。今はブックデザイナーの仕事で生計を立てている。 ブックデザイナーの仕事は、美季がずっと夢見ていたものだった。岐阜に
2024年1月10日 11:12
パステル色のブルーとピンクが交じりあったような海の色だった。空も海と同じ色をしていて、ずっと歩いていると自分がどこにいるのか分からなくなる。 たすきがけにした大きなカバンの肩ひものところを握りしめて、ヒムカがまっすぐ海の上を歩いて、梯子のところにやってきた。 梯子はずっと上まで一直線に伸びている。どこまで続いているのか、ヒムカの場所からは見えない。 ヒムカはカバンが背中に来るようにちょ