柚森いちか

落日、あとに、星月夜。 BLを中心とした小説を書いています。傷ついた子と、支えてくれる…

柚森いちか

落日、あとに、星月夜。 BLを中心とした小説を書いています。傷ついた子と、支えてくれる子を書くのが好きです。 有料でリクエスト小説を受け付けています。リクエストはメールからどうぞ。 メール:rakuzitsu_yuzu◯yahoo.co.jp ※◯を@に変更ください。

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記事一覧

ある日の始まり

無口な不器用×喘息もちのお話。

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何度でも、何度でも

『傷痕依存症』というお話に出てくる先生と生徒の、共依存のお話です。 ※一部死ネタに近い表現がありますので、ご注意ください。 ※『傷痕依存症』が未読でも大丈夫です…

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森のほとりで

優男×喘息もち サイトで公開していた「夜明け前」のリメイクと、その続きです。 「けほっ……っ、げほっ」  苦しそうな声が聞こえて、遼生は目を覚ました。身体を横た…

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やさしさのあじ

世話焼き×食が細い子のお話。

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夏の匂いの人9

 こういう品評会に訪れる者の平均年齢は高く、圧倒的に女性が多い。フォーマルに見えるよう、白いシャツと黒のスラックスというシンプルな服装で訪れた國谷は、けれど若い…

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夏の匂いの人8

 あれから、時雨は逃げるように遠方のオファーを受け、屋敷から離れるようになった。これまで敬遠していた雑誌などの取材も受けるようになり、各地での教室や展覧会など精…

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夏の匂いの人7

 品評会の打ち合わせのために街を訪れた時雨は、予定を終えて國谷が働く花屋に向かっていた。いつもは配達をお願いするため、店に行くことはそう多くはない。  前も同じ…

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夏の匂いの人6

 夕暮れ時の風が、さらりと時雨の頬を撫でた。秋が近づき始めて、微かに冬の匂いがする。人通りの少ないこの屋敷の周りには虫の鳴く声だけが響いていて、そこに混じるバイ…

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陽が落ちて、6

「落ち着いた?」  奈津の頭の中がクリアになった頃、自室のベッドに横たえられていたことに気付いた。傍らには航が座っていて、霞みがかった記憶を奈津はゆっくりと呼び…

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黒猫の散歩道5

 撫で続けていた綾の背中が熱いことに、涼は気付いていた。今朝は一旦微熱程度に下がっていたのに、長くこんなところにいたからぶり返したのだろう。その証拠に涙が徐々に…

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透明人間4

「遅くなってごめんね」  そういって蓮はベッドに真新しいシャツを置いた。これまで瑠依の分の服が無く、サイズが大きすぎる蓮の物を着せられていた瑠依は、けれどそれが…

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夏の匂いの人5

「すみませーん」  花の配達がある時間には、自然と麦茶を準備するようになっていた。けれど聞こえてきた声は、いつもと違うもので時雨は戸惑った。  普段なら、國谷は…

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春のまぼろし

一匹狼×病弱(年上)のお話。 ※病気の描写があります ※死を匂わせる表現があります(ハッピーエンドです)

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眠りの森3

 学校にほとんど通っていない那月にとって、制服を着る行為はある種の儀式だった。制服以外に着るものがないのも理由の一つだったが、なんとなく、朝起きたら制服を着ると…

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黒猫の散歩道4

「どこ、行くの」  涼が身支度を済ませ、玄関に向かっているときだった。寝室から顔だけ出した綾が、小さな声で問いかけた。 「え、仕事」 「働いてたんだ」 「俺を何だ…

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夜の向こう側10

 寝室の窓は広く、夜空が見えた。満月はベッドに横になって、涙で滲む視界の中で、カーテンを締め忘れた窓の向こうを見ていた。  夜は、明るい。けれど目を瞑ると真っ暗…

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何度でも、何度でも

何度でも、何度でも

『傷痕依存症』というお話に出てくる先生と生徒の、共依存のお話です。

※一部死ネタに近い表現がありますので、ご注意ください。
※『傷痕依存症』が未読でも大丈夫ですが、既読の方が設定等はわかりやすいかと思います。

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森のほとりで

森のほとりで

優男×喘息もち
サイトで公開していた「夜明け前」のリメイクと、その続きです。

「けほっ……っ、げほっ」

 苦しそうな声が聞こえて、遼生は目を覚ました。身体を横たえていたベッドの上で右側を見ると、ぽっかりと暗闇しかなかった。

「いち?」

 なんとなく声を潜めて遼生が名前を呼ぶと、咳き込んでいた苦しそうな声が一瞬びくりと止まって、けれど耐えられないように、続いた。

「っう、けほっ……」
「大

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夏の匂いの人9

夏の匂いの人9

 こういう品評会に訪れる者の平均年齢は高く、圧倒的に女性が多い。フォーマルに見えるよう、白いシャツと黒のスラックスというシンプルな服装で訪れた國谷は、けれど若い男という会場では異質な存在であるということを周囲の目線で感じ、気後れしながら足を踏み入れた。
 最近は遠方で仕事をしていた時雨の華が、近場の展覧会に出展されると聞いた。そこで会えるとは思っていなかったけれど、あわよくばという気持ちがあったの

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夏の匂いの人8

夏の匂いの人8

 あれから、時雨は逃げるように遠方のオファーを受け、屋敷から離れるようになった。これまで敬遠していた雑誌などの取材も受けるようになり、各地での教室や展覧会など精力的に活動した。花の注文はそれでストップしていたから國谷と会わざるを得ない状況になることはなかったし、それでも國谷は屋敷に来るかもしれないとなんとなく思ったから、時雨が屋敷を離れた。
 全く帰らなかったというわけではなかったけれど、ゆっくり

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夏の匂いの人7

夏の匂いの人7

 品評会の打ち合わせのために街を訪れた時雨は、予定を終えて國谷が働く花屋に向かっていた。いつもは配達をお願いするため、店に行くことはそう多くはない。
 前も同じことしたな、と回顧しながら、時雨は店には入らずに遠くから店内を覗き見た。
 花屋に似合わない長身が見えた。店には父親と母親と小学生くらいの少女がいて、國谷は膝に手をついて何かを聞いていた。
 少女が笑って、いくつか花を指さし、國谷が抜き取っ

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夏の匂いの人6

夏の匂いの人6

 夕暮れ時の風が、さらりと時雨の頬を撫でた。秋が近づき始めて、微かに冬の匂いがする。人通りの少ないこの屋敷の周りには虫の鳴く声だけが響いていて、そこに混じるバイクの音に、時雨は静かに顔を上げた。
 正座していた足を崩して立ち上がると、じわりと脚に血流が戻る感覚がする。軽く伸びをして、切った花と鋏を片付ける。
 じゃりじゃりと、庭の砂利を踏む足音がした。彼はいつだって、玄関ではなく縁側からやってくる

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陽が落ちて、6

陽が落ちて、6

「落ち着いた?」

 奈津の頭の中がクリアになった頃、自室のベッドに横たえられていたことに気付いた。傍らには航が座っていて、霞みがかった記憶を奈津はゆっくりと呼び起こした。

「……僕、」
「混乱してたみたいだから、ゆっくり休んで」

 はい、と航が手渡したのは、温かいココアが入ったマグカップだった。ゆっくりと上半身を起こして、奈津はそれを受け取る。

「あ、りがと」
「ん」

 こくりと一口呑み

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黒猫の散歩道5

黒猫の散歩道5

 撫で続けていた綾の背中が熱いことに、涼は気付いていた。今朝は一旦微熱程度に下がっていたのに、長くこんなところにいたからぶり返したのだろう。その証拠に涙が徐々に止まってきた綾は、今は熱い息をふうふうと吐きながら涼にもたれかかっていた。
 くたりと身体の力が抜けている綾を抱えて、寝室に向かった。ベッドの上にそっと下ろすと、とろりと目が伏せられていた綾の目が大きく見開かれて、

「ひっ……」

咄嗟に

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透明人間4

透明人間4

「遅くなってごめんね」

 そういって蓮はベッドに真新しいシャツを置いた。これまで瑠依の分の服が無く、サイズが大きすぎる蓮の物を着せられていた瑠依は、けれどそれが自分自身のための服だとは理解していなかった。

「瑠依の服用意したから、着替えようね」

 瑠依の風邪が治り、ようやく着させてあげられると、蓮は心の中で喜んでいた。何も持っていない瑠依に『瑠依だけのもの』を与えられることが嬉しかった。
 

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夏の匂いの人5

夏の匂いの人5

「すみませーん」

 花の配達がある時間には、自然と麦茶を準備するようになっていた。けれど聞こえてきた声は、いつもと違うもので時雨は戸惑った。
 普段なら、國谷は縁側に来てくれる。声は玄関からで、縁側の方にいた時雨が慌てて玄関の戸を開けると、國谷よりも若い青年が花を抱えていた。

「配達ですー」

 伸びた語尾が、若さを感じた。時雨が抱えるには重すぎるので、縁側に回ってもらい、準備していた麦茶をつ

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春のまぼろし

春のまぼろし

一匹狼×病弱(年上)のお話。

※病気の描写があります
※死を匂わせる表現があります(ハッピーエンドです)

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眠りの森3

眠りの森3

 学校にほとんど通っていない那月にとって、制服を着る行為はある種の儀式だった。制服以外に着るものがないのも理由の一つだったが、なんとなく、朝起きたら制服を着るというのが日常化されていた。
 那月は骨董店の二階に住んでいる。もとは両親が喫茶と古物商を営んでいたが、それはほんの数年前までのことだった。今はもう、両親はいない。天涯孤独になった那月の後見人となり、古物商を継いだのは、那月の父親の古い友人だ

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黒猫の散歩道4

黒猫の散歩道4

「どこ、行くの」

 涼が身支度を済ませ、玄関に向かっているときだった。寝室から顔だけ出した綾が、小さな声で問いかけた。

「え、仕事」
「働いてたんだ」
「俺を何だと思ってる」

 ひょこひょこと足を引きずって綾が出てきたけれど、警戒心は未だに解かれていない様子だった。

「夜には帰ってくるけど。……ま、適当にしとけば」

 出て行きたければ出て行けばいいし、さして盗られる物もない。なんてことを

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夜の向こう側10

夜の向こう側10

 寝室の窓は広く、夜空が見えた。満月はベッドに横になって、涙で滲む視界の中で、カーテンを締め忘れた窓の向こうを見ていた。
 夜は、明るい。けれど目を瞑ると真っ暗で、今日も眠れないんだろうなとぼんやり思う。
 いつまでこの生活が続くのか、満月はもう考えられなくなっていた。頭の中が霞がかったようで、考えることさえ、疲れていた。
 恭平はいつまでも満月を追ってくる。追えば追うほど、不幸になる。
 出会わ

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