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著…辻一弘 構成…福原顕志『顔に魅せられた人生 特殊メイクから現代アートへ』

 こんばんは。

 「今は自己肯定感が低いけれど、いつかは自分を好きになりたい」と思っている方におすすめの本をご紹介します。

「今回の受賞で一番嬉しかったのは、生まれて初めて、本当に素直に喜ぶことができた、ということ。実は子供の頃にけなされて育ったので、いつも何か良いことが起こったら、絶対すぐに悪いことがある、と思う習慣がついていた。(中略)それが今回のアカデミー賞の受賞後は、会う人会う人におめでとうと言われる。どこに行っても言われるし、誰からも言われる」
(P21から引用)

 という著者の言葉を読み、わたしまで嬉しくなりました。

 この本を読むと、著者が子どもの頃、母親から常に周りと比較され「あの子はようできるのに、あんたは全然あかんなあ」と言われて育ったことが伝わり、心が痛くなります。

 人前でも構わず罵倒されたそうですし、父親はアル中だった上、著者を車の中に放置して馬券を買いに行ってしまうような人物だったそう…。

 周りの人たちから劣等感を植え付けられる子供時代を送った著者が、映画と出会って特殊メイクの凄さを知り、人生の転機を得るくだりは、読んでいるこっちまで励まされます。

 まず、高校三年生の時に特殊メイク界の第一人者ディック・スミス氏へ「アメリカで特殊メイクの仕事がしたい。どうやって学べば良いのか」と手紙を書いた、著者の行動力が凄い!

 もし手紙を書かずに、周りの人間からの「あんたは全然あかん」という呪詛のような言葉を信じて「どうせ俺なんか」と自分まで自分のことを諦めていたら、その後の人生は全く違っていたでしょう。

 そして、日本から届いた、見も知らぬ高校生からの手紙に「君が作ったものの写真を送ってくれれば、それを見てアドバイスするよ」と返事を書き、親身に文通を続け、実際に会ってくれて、一緒に働けるようにしてくれた、ディック氏の懐の深さも凄い。

 人と人との出会いは奇跡だし、その縁を繋げていけるのもまた奇跡だと気づかされます。

 残念ながら子どもは生まれる時に親を選べないので、著者のような子ども時代を送る人は沢山います。

 わたし自身も親との関係性に長年苦しんでいます。

 けれど、今から子ども時代をやり直すのは不可能…。

 だからせめて、著者のように勇気を出した若者を受け入れて、その若者が羽ばたいていけるようサポート出来る器の大きな大人に、わたしもなりたいです。

 また、わたしはこの本で初めて知ったのですが、著者は『メン・イン・ブラック』の農夫エドガーの特殊メイクも担当していたのですね!

 『メン・イン・ブラック』シリーズはわたしの大好きな映画の一つで、これまで何度も観ています。

 エドガーがエイリアンに生皮を剥がれてズルズルな感じになっているのを「特殊メイクって凄いなあ。腐敗した死体なのに歩いてる、って不気味さがよく分かるなあ」と観る度に驚かされていたのですが、日本人の方が携わっていたなんて感激です!

 また、著者がリンカーンのポートレイトを作った時の、

「リンカーンの顔を研究するうちに、顔の左右がかなり非対称であることに気づいた。精神的にストレスを抱えて生きた人は、顔の左右のバランスが崩れてくることが多いのだ。歯ぎしりをしたり、無意識のうちに片方の歯を食いしばったりすることが多いので、顎や頰のバランスが崩れてくる。私は、彼の顔においてそこに一番惹かれた。私自身の顔もかなり左右が非対称なのだ。表ではあれだけ立派なことを成し遂げた偉人も、内部ではたくさんのストレスを抱えて生きている。それが表れるのが顔なのだ」
(P164から引用)

 という文にもわたしはホッとしました。

 わたしの顔もかなり非対称で、それがコンプレックス。

 勿論、生活習慣といったものも影響しているでしょうが、この顔もこれまで自分が歯を食いしばって生き抜いてきた証だと言ってもらえたような気がして、読んでいて嬉しかったです。

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