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「暑い」なら「暑さ」を読んでみて。~星新一「暑さ」より~

以前、夏の終わりだなんだ散々書いて参りましたが、僕の住んでるクマモトタウンの昼はまだ、いと、蒸し暑うしていたりです。

太陽もその鋭意を綻ばせることなく、燦々とこの身を焼き付けます。
残念ながら暦の上では十分「秋」でも、十二分に「暑さ」は健在です。


そうそう「暑さ」といえば、
ショートショート界のパイオニア、星新一先生の「暑さ」というお話を思い出します。

星新一先生はご存知ですか?

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星新一先生は、日本で最初のSF誌「宇宙塵」の制作に携われた方々の中の一人で、ショートショートというジャンルを、文学界に築き上げた立役者でもあります。
なんと、ご生前に手掛けられた作品数は1,001編。まさしくショートショート界の、起源にして頂点に立つお方なのです。

中学生時代に僕は、星新一先生の作品に身も心もどっぷり浸かってしまい、先生の真似事をして書いて、大量の黒歴史を生産するマシーンになっていました。


さて、今回はそんな星新一先生の、数ある名作の中から、「暑さ」という物語について、ご紹介したいと思います。

「暑さ」

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この物語は、うだるような暑さの日に、一人の青年が交番へ訪れてくる場面から始まります。
何でもこの青年は、「自首しに来た」とお巡りさんへ言うのです。驚いたお巡りさんが訳を聞いたところ、青年は


「まだ何もしていないが、このままだと自分が何かをしてしまいそうなので逮捕してほしい。」

という、要領を得ないこと言いました。お巡りさんはこの青年を「頭のおかしいやつ」と断定し、その後の青年の語りにも耳を貸そうとしません。
しかし、物語の最後、青年が放った一言で、事態は一変、背筋の凍るようなラストを迎えるのです。

と、ここまで聞くと、何が何だか分からないと思いますので、ネタバレが嫌な方は、この投稿に「スキ」を押した上でご退席ください。

この物語は文庫版「ボッコちゃん」に収録されています。「暑さ」の他にもたくさんの名作を読むことができますので、ぜひ読んでみてください。



※注意!ここから先はネタバレを含みます。※


さて、青年が言う「なにか」とは何なのか。
それは青年の、語りの中にヒントが隠されていました。

青年が交番に訪れたのは、夏の暑い日でしたが、彼は幼い頃からそういった「暑い」日が嫌いで、いつもいらだちを覚えていました。
そんな中、青年はいらいらのはけ口を見つけ出すのです。
それは、「蟻を潰す」ことでした。
蟻を潰すと不思議と気分が晴れ、その夏は清々しく過ごせたとのこと。
しかし、次の年の夏、同じように蟻を潰してみても気分が晴れなかったのです。青年は困ってしまいますが、暑さの絶頂の中、偶然にも再び解消法を見つけ出すことができました。
それは、「カナブンを潰すこと」でした。
そしてその次の年は「カブトムシ」を。次第に、命を奪う対象は徐々に大きくなっていきました。
そして、青年が交番に訪れた年の二年前には、「犬を殺す」ことで、暑さによるいらいらを解消しました。こうなると、青年も慣れてきたようで、その年の秋には、次の夏に向け準備をするようになったのです。
そして、その年の秋、青年はサルを飼いました。
青年は殺すつもりでサルを飼っていましたが、飼っていると案外可愛いもので、とても殺す気にはなれなかったようです。

しかし、次の年の夏、青年は「暑さ」から「サルを殺した」のでした。

ここまでくると、青年の狂気じみた行動は、明らかに危険なものとして見て間違いはありません。
しかし、この話を聞いていたお巡りさんは、最初から青年のことなど、まるで相手にしていません。

そして再び青年は、自分を逮捕するようにお巡りさんへ申し出ました。しかし、お巡りさんはやはり断ります。殺したとはいえ、ペットなのです。人道的に許された行為ではないにしても、逮捕することなどできないのでした。

青年は仕方なく、交番を後にします。
最後に、お巡りさんがふと気になって、家族はいるのか尋ねてみました。

その問いに対し、青年はこう答えました。

「ええ、昨年の秋に結婚して……」

一体青年はその夏、何の命を奪うつもりなのでしょうか。

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ここまで読んでくださった方、いかがだったでしょうか?
物語の題材は「暑さ」ですが、この物語は思わずヒヤッとする展開になっています。

このようなダークで、皮肉に満ちたストーリーも、星新一先生の魅力の一つです。
しかも、この物語、なんと読むのに5分もかかりません。余計な情報を省き、伝えるべきことのみをストレートに伝える構成力、文章力は読んでいてまさしく圧巻です。

ぜひ、星新一先生の作品を読んでみてくださいね。
きっと、あなたの日常がいつもより特別なものになるはずです。

さて、今日も最後まで読んでいただきありがとうございました。
ちなみに僕は、あまりに暑い日はむしろ外に出て遊び、体温を外気に順応させるようにして、熱中症になりかけていました。エアコン最高、文明の利器最高。

#眠れない夜に

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