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小説

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自作の小説です。 最近はほぼ毎日、500〜2000字くらいの掌編を書いています。
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#ファンタジー小説

世界茸(後編)

世界茸(後編)

 岩盤はさらに抉られ、生白い茸の脚が人工の光に晒されていた。ぬらぬらとしたその根の内部を今も蒸気となった魂が流れ、母となる者の内に生命を宿している。

「王は狂っていると思われますか?」

 俺の問いかけに博士は巨大な茸から視線を下げて俺を見つめた。

「この決断は理に適っていると思うよ。この先も戦いが長く続くなら、かつ敵国を徹底的に滅ぼしたいのならね。まぁ、狂人扱いされてるあたしが言っても仕方な

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世界茸(中編)

世界茸(中編)

 巨人が大地を叩き割ろうとした跡のような裂け目が木の根に半ば隠されて口を開けていた。それが冥界の中枢への入り口だった。

 まずは博士と俺が中の確認に入ることになり、ゴーグルと命綱を装着した。

「こんな軽装で大丈夫なんでしょうか?」

「あたしは何度か入ってるけど平気だったよ。冥界は生者には干渉しないから」

 博士は事もなげに言って、岩の隙間をひょいひょいと下りていった。

 博士に続いて湿気

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【小説】大いなる砂の民(砂でできたヒトの話)

【小説】大いなる砂の民(砂でできたヒトの話)

 雨が流れていく。

 砂の身体を構成する粒子の隙間から染み通り、無数の小さな川となり、大地を覆う大いなる砂へ。

 少しずつ少しずつ、身体が浸食される。水が粒子を揺り動かし、私の外へと運んでいく。質量がわずかに減った私の意識が拡散する。

「あの……」

 顔に降り注いでいた雨が遮られた。大地に寝転がった私の上に一人の同胞がかがみ込んでいる。

「少し、手を貸してもらえませんか?」

 いいです

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【小説】悪女の尋問(信用される人とされない人の話)

【小説】悪女の尋問(信用される人とされない人の話)

 どうしてそのようなことをお尋ねになるのでしょうか?

 ああ、吾作さんが。

 それで合点がいきました。

 おっしゃる通り、わたくしはここ最近の神隠しがあの化け狐の仕業だと存じておりました。

 この目で見たのでございます。ひと月ほど前のことでした。

 わたくしが畑から帰ろうとしていると、格子縞の着物を着た弥兵衛さんが峠からぶらぶら歩いてきたのでございます。

 弥兵衛さんがおっしゃるには、

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【小説】意味(囚われの人魚姫の話)

【小説】意味(囚われの人魚姫の話)

 水の出ない円形の噴水で、螺鈿細工のような鱗が煌めく。

 王子を誘惑したかどで捕らえられ、脚を奪われた人魚姫は、気怠げに淀んだ水の上を巡り続けている。

 噴水の端には白い壺が置かれている。反対側には黒い壺が。

 人魚姫は白い壺から貝殻を取り出し、噴水の中を這って行き、黒い壷に運ぶ。一度にたくさんは運べない。溜まった水は泳ぐには浅過ぎて、移動のために片手が必要だ。欲張って取り過ぎた貝をこぼせば

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