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近代能楽集(三島由紀夫) を読んで「だから何?」は練習できない好意だと、知る

近代能楽集(三島由紀夫)の読書感想文です。5項目に分けて書きます。タイトルの意味は4の最終行にあります。もし面白ければフォローお願い致します!

1.きっかけ
2.あらすじと解説を探すならここ
3.面白かったところ
4.だから何?の答え
5.備考


1.攻殻機動隊 SAC 2ndGIGをきっかけに読みました。


2.あらすじと解説ならここ
①本書巻末の本人によるあとがきが良いです。ドナルド・キーンさんの解説も付いています。
②やはりWikipediaさんは優劣ですね。
③あと、the 能.comというサイトはすごく助けになりました。

 私の細々とした読解力では原作(能の演目としてのあらすじと見どころ等)に当たらないと意味が分からなかったんです。


3.面白かったところ
戯曲集なのでほとんどの文がセリフです。戯曲と能は違いますが、ドナルド・キーンさんの解説によると、能の心にインスパイアされた新作、だそうです。

①「卒塔婆小町」のセリフが哲学的で目を止めます。
もともと能が当時の生を芸能として表現するからこそ、形而上学的なテーマを含み、ギリシアの古典戯曲と共通する、らしいです。

②「班女」の例えに唸る。
片想いの男性を待ち続ける女性の話の中のセリフ

私、体のなかが、待つことで一ぱい。夕顔には夕闇が、朝顔には朝が必ず来るのに、待つ、松、そう、私の体のなかはちくちくする松葉で一ぱい。 (近代能楽集 三島由紀夫 160頁 平成十六年五月十五日四十三刷改版 新潮文庫)

こういう発想が私は好き。あと、この後に続く例え話も笑えました。

③「熊野」は物語として面白い!
私はこの作品が一番好きです。誰に感情移入したらいいか、最後の最後まで私の想定を何回も越えて行きました。読んでいて振り回される面白さがあります。

その他の演目なるお話も面白いのですが、ピックアップしたお話も含め全話に共通する読後感として「だから何?」の印象が残ります。この話、どういう事だったの?っていう感想が最初に来ます。この能は私に何を伝えたい?そういうすっきりしない感じです。


4.だから何?
 突然ですが、私が会社に勤めていたときの話です。その会社では始業前か終業後のどちらかに十五分程度の掃除当番が従業員二名ずつ割り当てられていました。一週間交代で違う二名に代わる仕組みです。その二名は主任がランダムに選んでいました。ある日、私は最高に美人だと思っていた人と当番になります。二人で当番と言っても連携についてはかなり曖昧で、どっちかが拭き掃除してたらどちらかは掃き掃除を暗黙の内に行う、を社内の誰もがしていました。
 しかし、私がその美しい人と組みたい関係とはそんなコンビ関係ではなく、ホウレンソウ(報連相)を良い感じにする名目で、その人と密に会話したかった。よって、私から攻性に掃除を仕掛け、初日から弾む会話。お返しに次の火曜日はその人から連携を求められるという幸せしか勝たん展開。
 ただ、水曜日、です。水曜日、なんです。水曜日に起こりました。その日その人は始業前から外出し、その日は私ひとりで掃除しておきました。やらされ感は私のどこにもありませんでした。受付のテーブルや電話機をアルコール消毒したときも、前日その人とここで何を話したかを思い出しながら心中ニヤニヤ、会議室のテーブルをアルコール消毒するときも密室に二人きりだった事実を振り返って恍惚とし、居室のカーペット床に掃除機を掛けているときは初日にこの掃除機を取り合って、お互いが大変な方を担当しようとする幸せ気遣いを思い浮かべてマスクの中でこっそり口角を上げて、掃除を終えます。そして、その人が外出から帰社したときに一番で私は掃除の完了を報告しました。そこでもらうのです。あの疑問を。


「だから何?」


 その人からしたらそうかも知れません。掃除は始業前のイレギュラーな作業です。本業ではない、職場での協調性と清潔感の維持の一環として行う作業です。しかも、するのは始業前か終業後どちらでもいいし、コンビによっては1日おきに交代でひとりだけが行い、最終日だけ二人で掃除するパターンが主流でした。そういう状況からしたらその人の疑問は理解できます。きっと明日はその人だけが掃除をしようと黙示的に思っていたと推測できます。そういう上でのそのセリフ、全然問題ないです。
 けど私には大問題でした。そして解けない。思い悩んで帰宅すると愛犬が尻尾を振って今日のお気に入りのオモチャを持って歓迎してくれました。私は思い切って、愛犬に同じセリフを言ってみました。もちろん通じるはずもなく、大体、同じセリフだけど同じ気持ちで言えていないから、同じ結果にはなりません。
 大好きなその人に、私ひとりでした掃除だけど、あなたを感じながら隅々まで掃除してたから楽しかったの、そういう楽しい思い出をあなたにお渡ししたい、喜んでくれるかなぁという不安と期待でどっちのドキドキが勝(まさ)っているか、どちらかというと混ざっているんだけど、今日のひとりでした掃除が、いつもは何週間かおきの単なるルーティンなのに、その人とのコンビであるだけでこんなにも浮かせてくれた、と伝えたかったんです。
 しかし大問題は、そこではありません。伝えられなかった事ではない。そこは小問題です。大問題とは私がその時点で能の心を知らなかった事です。
 能は即興、シテ(主人公)とワキ(その相手役)、囃子(小鼓などの楽器担当)などに合わせ稽古は基本なく、演じる物語とセリフは昔から同じであるが、相手の声の出し方や間に呼応して、自分の演じ方を変えます。
 また、能は一期一会、同じ演目を連日公演しない、その場限りの芸能です。
 私は当時、その人に何をどう伝えたのか忘れたい。本当は、その日その時その人、松葉さんに


松葉さんでいっぱい、でした。


と言えれば良かった。セリフは三島由紀夫の創作であっても私には発想もなかった。発想があっても言えなければ、そう、人生は一度きり、合わせ練習などある訳がない即興、どんなセリフでも相手の呼吸に合わせて、一期一会の心で自分を表現したら、あのときも面白かった。余韻が今にも続いていた、きっと。


「だから何?」とは、能の演目に今の自分を透かしたい、という好奇心が正体です。


5.備考
①道成寺という作品の原作を調べて見つけた動画、当演目の見せ場である「乱拍子」の動画(YouTubeで閲覧)は観る者に刺激注意!です。
②基本、ほとんどセリフの作品です。恋愛小説としても読めそう。長距離移動のときに読みたい一冊です。論理的な難しさはない。心情を探る難しさ、と能としての原作を知りたくなるはあるかも、です。
③近代能楽集は8作が掲載されています。幻の9作目として、「源氏供養」という作品があったらしいですが、三島由紀夫本人の意思で外され、番外編としてLong After Love(三島由紀夫全集 25)があり、この作品は卒塔婆小町、葵の上、班女のそれぞれの幕間の話になっていて、そのつながり方は面白かったです。



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退職代行で辞めたきみは英雄だ。ボクも鰻を焼く理想を課長に話すよ。チッ

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