大地の切れ目がつなぐ縁 京都・大原
京都に住むこと20年の私が
私的京都をブラタモリ的に「書いてガイドする」月一シリーズ。
今回7月編は、京都市内から日帰りで行けちゃう里山
比叡山山麓(京都東北部)の大原をご案内します。
7月旬の大原の特産品といえば、赤しそ!
しば漬け発祥の地でもあり
7/1〜7/20の間、赤しそ祭りの開催される大原
「ティファニー」ならぬ「日曜朝市」で朝食の後
鄙びた苔の寺と密教の「滝」で、日本音楽の「源流」を探し
温泉と赤しそジュースで心と体を癒やすデトックスコースです。
いざ/
【大原までのアクセスについて】
公共の交通機関ではバス一択。(くわしくはこちら)
京都駅から市内中心部を経由すると、1時間以上かかるので
京阪出町柳駅や、地下鉄国際会館駅から乗車すれば時短に。
ことの始まりはこちら↑
大地の切れ目がおいしさつなぐ
朝市で朝一ごはん
京都は断然、朝が面白い!
比較的人の少ない時間に動けば、移動もラクラク
何より普段着の京都が体感できます。
だから一食だけ、外で朝ご飯してみませんか?
歩いて行ける距離の、大原の2つの朝市。
うち、里の駅前駐車場で毎週日曜日6:00〜9:00開催の
「ふれあい朝市」をご紹介します!
大原といえば大原女(おおはらめ)
独特の装束で、大原でとれた柴や薪、農作物などを頭にのせ
京都市街地に売りに歩いた行商の女性のことで
鎌倉時代から昭和初期まで、約800年間続いた大原の風習
ですが、現代は立場逆転。
市内の有名シェフが車で買い出しに出かけます。
そんな野菜のブランド産地としても有名な大原。
小一娘がいるので、いつもギリギリですが
里の駅9:00開店の30分前で、この大行列…!
と、ここで、水色のノボリに注目〜!!
かつお生節・干し魚も売ってます。
…魚? yes …魚!l
京都は海から遠い、海なし盆地。
大原はさらに山手に入った、盆地オブ盆地。
…でも、なんで魚屋さん!?
京都・大原から80km先の福井(若狭)の小浜までは
かつて「鯖街道」(若狭街道)で結ばれていました。
日本海、若狭湾に面する小浜の名産・鯖を加工し
海のない都・京都に担いで運んだのが「鯖街道」。
オバマ元大統領就任時、同じ名前!とファンレターを送った福井県小浜市は
古代、主に日本海の国内外貿易の拠点、海の玄関口として栄えた都市。
江戸時代には、北陸経由での北海道の海産物(昆布など)を供給し
京都の食を支えた、御食国(みけつくに)。
その名残もあって、山の真ん中で海産物販売のミラクル。
鯖街道的な珍味を試してみたいなら
若狭の名物「へしこ」
「へしこ」とは青魚を塩漬けにした後、ぬか漬けにしたもの。
基本、酒の肴でしょっぱいですが、
アンチョビに似た旨味があり、サラダやパスタにもよく合う。
こちらお寿司にしたもの 1ピース = 100円
他にも、焼きたて鮎や
つきたてのあん餅(赤しそ、よもぎ、栃)
ほんとにおいしい!和菓子好き娘もオススメ
古代米でつくった赤米酒粕の甘酒(京都府北部・伊根町から)
天然の甘み+ほんのり酸っぱいスーパーフード
もう一つの朝市、国道沿いの「わいわい朝市」では
冬場になると、ジビエのスープも売られています。
…つまむだけでは足りない…と不安な方へ
胃袋のセーフティネットがこちら。↓
お天気がいいなら
里山を愛でつつ、コーヒーでシメる!
一方、里の駅では、野菜を中心とした生鮮食料品の他
お土産にピッタリな赤しそ酢や赤しそ茶も販売されています。
この時期の赤しそは、生花の横で束で売られてます。
補充されても、お昼過ぎには売り切れる人気商品!
若狭へ抜けるこの「鯖街道」
三方・花折断層帯という活断層帯と重なっています。
断層は、天然の凹面
その整備のしやすさから古代道となることが多かったそう。
実は、周りを断層に囲まれている京都。
断層で隆起した部分が山になり、
山に降る雨が集まって川ができたからできあがった京都盆地。
時に地震の原因にもなるけれど
大地の動きのような「遅い循環」も又、人間にとっての恵みの源。
その断層パワーを味覚から堪能できる、大原の朝市ごはん。
早起きは、お得感いっぱい。
スピンオフ京都旅のスタートに、ぜひ!
日本音楽の「源流」を探して
プチトレッキング
さて、赤しそ畑を抜けて
市内のお寺とは一味違う、野趣あふれるお寺へご案内しましょう。
…と、その前に、高野川に寄り道して涼んでいきましょうか!
高野川が見えてきました。
京都市街地を流れる鴨川は、Y字型の合流下流部。
東からが、こちら高野川。
西からが、漢字違いの賀茂川です。
高野川の上流部にあたる大原。
娘が足をつけた川の水はやがて、市街地で鴨川の水となります。
清流の浅瀬をのぞくと
おたまじゃくし!
カエルにバッタ、トンボにカマキリと、自然の宝庫。
河岸も底も整備されていて、子どもにも遊びやすい。
朝散歩の中継地点に!
…ただし、川の両岸共、私有地です!
昨年より、ゴミ、テント、バーベキュー、等のマナーの悪さが目立つため
現在、芝生広場にロープがはられています。(胸が痛みます)
みんなの高野川。どうか、節度をもって楽しんで下さい!
さて、国道を渡ると、三千院や勝林院の山号「魚山」への分岐点が。
呂川のせせらぎを聞きながら
三千院の先を歩くと…
来迎院に到着です!
平安(藤原)時代の創建で、山号・魚山。
天台宗のお寺です。
天台宗とは、現代の私達に身近な
ほとんどすべての仏教宗派の開祖たちが学んだ総合大学
比叡山延暦寺を創建した最澄の開いた宗派。
奈良時代、仏教は国防のツールとして、政治と癒着していました。
そのため、都を京都に移し、政治と仏教を分離しようとした桓武天皇。
比叡山の滋賀県側、坂本の出身だった最澄もまた
山岳修行を通じて純粋な仏教信仰に励もうと、比叡山に入ります。
そして、延暦寺が平安京の鬼門にあたることもあり
国家安寧のため、桓武天皇直属の僧侶に選ばれた最澄。
やがて遣唐使の一団にも選抜され。
最澄の帰国時、病に伏せっていた桓武天皇。
そこで持ち帰った密教の祈祷パワーに注目が集まり、
天台宗は806年、国家公認の宗派として認められるようになりました。
最澄の開いた天台宗の基本は「すべての人が仏になれる」(大乗仏教)
言葉だけではなく
儀式体験を通して仏教を体得するのが密教のスタンス。
さまざまな密教儀式がある中
来迎院と勝林院(大原)の二堂が中心となって
声明(しょうみょう)という仏教声楽を磨き上げました。
もともとインドで起こり、中国を経て日本に伝来した声明は、
平たくいえば、節のあるお経。
声の抑揚や長さが、線でビジュアル化されている譜面が特徴的で
微妙な音で構成された音階は、分類も難しいとのこと。
西洋音楽でいうメジャー(長音階)にあたるものが呂曲
マイナー(短音階)にあたるものが律曲
呂曲:D E F# A B D
律曲:D E G A B D
…この「呂律」という言葉、どこかで見覚えはありませんか?
そう、「呂律(ろれつ)がまわらない」の呂律!
来迎院への道中、その脇を流れていたのが呂川。
その反対(三千院北側)を流れるのが律川です。
呂(メジャー)と律(マイナー)の音階が合わないことから
言葉がはっきりしないことの意味に転じたとか。
西洋音楽の始まりは教会音楽。
一方、和の音楽の始まりはお寺。
縦長で密閉された、明るい石の教会。
残響時間が長いため、演者が直接音を聞きとりにくく
そのため、合唱のよりどころとなったのが、ビート(拍)。
一方、横長でオープンな木のお寺。
残響がほとんどなく、自分の発した音がよく聞こえることから
複雑で繊細な音階が派生したのだとか。
又、暗い空間で横並びに座った僧侶たちは、アイコンタクトができない。
そこで、合唱のよりどころとしたのが息づかい(ブレス)。
それぞれのルーツになった空間の違いを見ると
和洋の音楽の違いがよく分かります。
後の浄瑠璃、小唄、長唄、浪花節、民謡、演歌等に
影響を与えたといわれる、声明。
和の音楽にボーカルが多いのも、声明が日本音楽のルーツだから。
とはいえ、生の声明が聴ける機会はほとんどなく…
…でも、声明を体感できるとっておきの「滝」があるんです!
ちょっと歩きますが、もう少し行ってみましょう!
律川の上流が見えてきました。
この標識が見えたら、あと10分くらい。
到着しました!「音無しの滝」!
ゴゴゴー。
結構な音量にも関わらず「音無しの滝」
…実は、写真マジック!
実際の大きさはこれくらい。(高さ3.4m)
平安時代後期に、良忍上人(りょうにんしょうにん)が
この滝の前で声明の修行をしていた時
一心に声明を唱える余り声と滝の音が一体化して
滝の音が聞こえなくなったことが由来だとか。
(*諸説あります)
声明と一体化のお話にも、思わず納得の
リズミカルな滝の調べに聞き入ってしまいます。
そして、ここでいつも叫びたくなる
マイナスイオン〜〜〜〜〜〜〜〜!(←本当に満ち溢れている)
休日でもほぼ誰にも遭遇しない、穴場中の穴場です。
*聖域につき、マナーを守って!
【大原が初めてならこのお寺!2選】
① 三千院
「京都〜大原三千院〜」の歌にある
天皇ご一家にゆかりのある門跡寺院
広い境内には、瑠璃色の浄土のごとき苔のお庭。
仏様も素晴らしい。
*右の白い矢印をクリックすると、写真が10枚出てきます
8世紀創建。最澄が比叡山延暦寺を開いた時に、
比叡山の梨の大木の傍に「円融房」を構えたのがその起源とされる。
② 宝泉院。
三千院から徒歩2分。
額縁庭園で有名なお寺です。
*宝泉院の写真は最初の2枚のみ
関ヶ原の戦いの前哨戦、伏見城の戦いでの血天井
(血のついた床板を廊下の天井にしてある)がちょっぴりホラーですが
抹茶とお菓子代込みで、拝観料大人800円(2021.7現在)。
いずれも天台宗の密教寺院。
儀式的体験の修行の場である密教寺院は、
建物や庭がシンプルなものが多いですが
ここ大原の密教寺院は、例外的。
特に暑い季節には心身共にリフレッシュできて、オススメです。
山と川、天然のサウンドから、ぜひ密教を体感してみて!
ザブンとしずんで体感の
大地の切れ目 三たび
さて、お腹もすいてきたところで、ランチにしましょう!
私のオススメは、ここkulmさん。
国道を渡って西側。「大原」バスターミナルにも近い
入ってすぐのテラリウムが印象的。
高野川も見渡せる絶好のロケーション
本日のワンプレートランチ(1200円)をいただきます。
他、自家製ピザ 大原産サラダとパルマ産生ハム(1500円)
自家製ピザ 4チーズ&ハチミツ(1000円 サラダ付1300円)
*各ドリンク付きで+300円
一見ボリューミー。
でも、大原の新鮮野菜のいろんな味が楽しく、軽い!
デザートもおいしい!
プリンのようで実はチーズケーキな「プリン風チーズケーキ」(500円)
夏場はお休みのカヌレも。
人気のお店なので、事前に電話予約がベター。
お店のスケジュール等はインスタを↑チェックください。
大原で最も有名な2つの寺院、三千院(東)と寂光院(西)。
2つのエリアが国道をはさんで東西に分かれているので、結構歩く…!
そう、だからこのツアーのシメは温泉!
里山風景を楽しみながら、寂光院方面にもうしばらく歩きましょう!
寂光院周辺には
大原特産の赤しそを使った、しば漬けを売るお土産屋さんもチラホラ。
この「しば漬け」
寂光院に閑居した安徳天皇の母、建礼門院(平 徳子)を想う
地元民レシピ発のお漬物だったって、ご存知でしたか?
壇ノ浦の戦いで6歳の息子、安徳天皇を失った建礼門院。
寂光院で尼僧となり、悲しみに沈みます。
その姿を見た地元の人たちが、高貴な紫色でお慰めしてはどうかと、
特産の赤しそを使った漬物を献上したところから
「紫葉漬け(むらさきはづけ→しばづけ)」と名付けられたのがしば漬け。
交雑しないよう、「自家採種」を徹底することで
800年もの間、原品種に近い高品質の赤しそを守り続けてきた大原!
盆地特有の昼夜の寒暖差と霧で、葉が柔らかくなり
香り・発色・味が良くなるとか。
ビタミンやミネラル豊富で、栄養価の高い赤しそ
(抗菌作用や食欲増進作用、抗アレルギー作用がある和のハーブ)
大原の赤しそは、一味も二味も違います!
…そうこう歩くうちに目的地、大原山荘に到着しました!
温泉民宿なので、日帰り温泉は
ランチとのセットとなっています。(要予約)
飲み物とのセットプランもあり、こちらお得でオススメ!
ビールセット 1500円+入湯税100円
コーヒーセット 1200円+入湯税100円
ジュースセット 950円(子ども850円)TAX FREE
食事セットは、ウェブサイトをチェックしてみてください。
入り口を入って「山のお風呂」の看板伝いに階段を上がると
待ちに待った温泉です。
檜と岩風呂の二種類のお風呂(男女入れ替え制)には
どちらも内風呂と露天風呂があり
100%半かけ流し源泉の約30℃の信楽焼の壺風呂が水風呂的で最高!
杉林の中で、聞こえるのは鳥のさえずりだけ。
熱い温泉、冷たい温泉、また熱い温泉、と永遠ループ。
心の澱も洗い流されるよう…
紅葉の時期の露天風呂 弱アルカリ温泉です。
京都の温泉の歴史は浅く
1995年に大原温泉が大規模掘削したのが始まりだとか。
断層があるから、温泉も。
大原のあちらこちらに、断層の結んだ縁が見え隠れします。
*
さ〜て。
ひとっ風呂浴びて喉もかわいたところで、赤しそジュースをいただきます。
ぐびっぐびっ。ぷっは〜〜〜!!
本当は、クーラーの効いた部屋でグラスで提供されるのですが
勢いのあまり撮影失敗したので、イメージ画像で失礼します。
さて、日帰り大原の旅、いかがでしたか?
鯖街道からの朝市
山から湧き出る清流にインスパイアされた日本音楽の源流
大原の新鮮野菜や、悲しくも美しい物語のあるしば漬け
そして天然温泉
すべては断層から。
切るだけではなく、結ぶこともできる
断層の新たな一面を体感していただけたなら幸いです。
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このマイ「文化的」京都ガイドシリーズは、月一回更新予定。
noteではあっちゃこっちゃ書いてますので、
よければマガジンをフォローください。
今回のツアーは「食文化」に比重を置いて、組んでみました。
フードツアーガイドしてました。
プレゼン(編集)に役立つかもしれないコツについてはこちら。
*
そして期限内に書き上げられませんでしたが、こちらの記事
早記さんから受け取った、バトンリレーの企画記事でもありました。
その早記さんにバトンを渡されたsachiさん
二十四節気の食養生に関する「じぶん薬膳」の記事を書かれておられますが
こちら「赤しそ」をテーマにしたレシピ本の編集にも携わっておられます。
我が家、今年の赤しそジュースは
赤しそ酢にセルフで砂糖を入れる方式に切り替えました。
料理に使いやすく、オススメです。
バトンリレー企画発起人チェーンナーさんです。(遅くなりすみません!)
うっかりバトン落としましたが、チェーンナーさんにお返ししました。
参加?させていただきありがとうございました!マガジン追加お気遣いなく
この記事が参加している募集
最後まで読んでいただきありがとうございます。心から感謝します!