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心と体のリセットそして再会 京都・下鴨

京都に住むこと20年の私が
私的京都をブラタモリ的に「書いてガイドする」月一シリーズ。

すでに秋の気配が漂う9月…ですが
去りゆく夏に待った!?をかける8月編
鴨川の分岐点Yの付け根、「出町デルタ」界隈をご紹介します。

市内中心部・京都御所から、やや北東にある
同志社大学と京都大学のちょうど中間のエリアです。

豪商・旧三井家別邸をスタートした後
ユニークな夏の足付け神事下鴨神社「みたらし祭り」
最後に糺の森の納涼ブックフェアーへとご案内。

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いざ/

ことの始まりはこちら↑


豪商が大切にしていた信仰の跡

今回の旅の起点は、「出町デルタ」と呼ばれるココ。

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京阪電車「出町柳駅」付近で、鴨川の合流部が
三角形の中洲状になっていることから、こう呼ばれています。

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橋を渡るとすぐ、下鴨神社の参道ですが
その前にこちらへ寄ってみましょう。

「旧三井家下鴨別邸」

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2016年から一般公開が始まったため、未だ知名度低く人影がまばら。

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旅に出たくなったら、訪れる場所の一つ。
人の少ない朝方は特に、貸し切り状態のマイ別邸に。

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お抹茶セットの生菓子、この日は「朝顔の露」でした。

三井家とは、旧三井物産、三井銀行、三井生命をつくった三井財閥のこと。
その三井家が大正時代につくった京都の別邸です。

武家からスタートしたというファミリールーツは古く、平安期まで遡る!

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京都から滋賀に移り住み、
織田信長に主・六角氏を滅ぼされた後、伊勢へ流れ
日用品を扱う商家のスタートを切ったとか。

それが江戸時代になり、江戸で呉服を売り始めたのが
後の「三越」となる「越後屋」

京都で仕入れた西陣織を江戸で販売していただけでなく
明治に拠点を東京に移した後も、菩提寺は京都に残したままで
京都との縁が深かったそう。

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お庭にでると、ひょうたん型の池があります。

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この池の水は、下鴨神社を流れる泉川からの水

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呉服商が始まりの三井家。
京都市の西側、右京区にある養蚕の神「木嶋神社(通称 蚕の社)」を信仰し
その神社境内に祖霊社「顕名霊社」を建立し、お祀りしていました。

そして明治42年(1909年)、一家の基礎を作った三井高安の300年忌を機に
木嶋神社の井泉と繋がる(といわれる)下鴨神社近くの一角に
顕名霊社を移し例祭の際の休憩所としてつくったのがこの別邸だそうで。

戦後の財閥解体で、顕名霊社と下鴨別邸は国有化されました。
顕名霊社のあった場所には、現在、京都家庭裁判所があります。

とはいえ、新たにしつらえるのではなく
元々鴨川沿い(木屋町)に持っていた別邸宅を移築し
玄関棟や茶室を増築した、明治・大正期のハイブリッド建築

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ディテールが凝っていて、品もありますが
財閥の別邸としては本当に質素!そこが新鮮です。

新築せず、別敷地にあった邸宅を移築した事実からも分かるように
実際、大変な倹約家だったとか。


「商売は広い意味でのお客様、世間のためになるものでなければならない」
近江の「三方良し」から、財閥にまで登りつめた三井家。

豪商が大切にした信仰心の跡が垣間見られる、瀟洒なお屋敷。
蒸し暑い京都の夏の一休みに。

↓写真は昨年2020年あじさいの時期の二階の様子。

ふだんは一階のみの公開ですが、季節行事(ヨガもあり)で
二階、三階が開放されている場合があります。
スケジュール等、こちらをチェックしてみてください。


「クール」な夏の水神事


さて次は、下鴨神社参道に広がる糺の森を抜け
ユニークな足付け神事「みたらし祭り」へと向かいましょう!

こちら、通称・下鴨神社は、京都で最も歴史がある神社の一つ。
正式には賀茂御祖神社(かもみおやじんじゃ)、世界遺産でもあります。

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7月の土用の丑の日の前後に行われる、このお祭り。
膝近くまで足を浸して、穢れを祓います。

令和3年の「みたらし祭り」は7/22〜8/1の11日間行われました。

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暑い盛りに行われるため、涼を求めに来るちびっこ達の姿も。

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ろうそくに灯りをともし、無病息災を祈ります。

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かつて、土用になると御手洗(みたらし)池の周辺や川の底から
こぼこぼと清水が湧き出た!?
とも。

平安貴族が穢れを祓った、禊祓い(みぞぎはらい)が始まりとされる神事。
一周回って新しい!体感型のお祭りです。

水からあがった後には、冷たい清水をいただき、身も心もすっきり!

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…と、ここまでは、どのガイドブックにも書いてあることなんですが。


気になるのは、京都の西、北野天満宮にも
ほぼ同じ形のお祭りがある
こと。

どちらも橋のたもとから水に浸かって歩いて、献灯するところが共通点

そして名前も同じ「御手洗祭」
でもこちら「七夕祭り」でもあります。

北野天満宮「御手洗祭」は、1週間程度遅い8月上旬に行われます。
写真↓は、2020年の様子。

…と、ここで8月上旬に七夕?の謎ですが
そもそも七夕は、旧暦7月7日の行事
七夕祭りで有名な仙台など、今でも8月上旬に七夕を行う地域があるそう。

一方、お盆は旧暦7月15日前後の行事
だから本来は、一週間違いの行事でした。


そして、一般的に知られている中国由来の七夕のお話。

一年に一度の逢瀬が許された、誰もが知るラブロマンスですが
これとは別に、日本古来のものがありました。

御伽草子にも収録されている天稚彦物語というお話です。

これが「美女と野獣」や
ギリシア神話のプシュケとエロス(キューピッド)とも共通するお話!

天稚彦物語(大蛇=天稚彦…彦星、末娘…織姫) ざっくりあらすじ

・3人の美しい娘のいる長者のところへ、大蛇がやってくる。
・「娘を嫁にくれ。さもなけばおまえを食うぞ」と脅す。
上の姉たちが拒み、心優しい末娘だけが父のため、蛇の嫁になる

蛇の指示通り、川のそばの小屋で待っている
やってきた蛇が自分の頭を切るようにという
頭を切ると、蛇は美しい男の姿になり「自分は天稚彦である」と告白

・楽しい新婚生活の中、ある日、
天に帰らなければいけないと旅立ってしまう天稚彦。
・約束の日を過ぎても帰らない夫を探しに、天へ向かう末娘。

・困難の末、天稚彦を見つけるも、父親である鬼に無理難題を出される。
・それでもクリアする末娘。
・結局、嫁を認めることになる父鬼が
一年に一度ならと瓜を割って天の川を作り、二人を隔てた。

古来、田植え前に聖なる機織り娘・「棚機女(たなばたつめ)」が
川辺の小屋で神迎えをした風習が、この日本の七夕話の原型
だとも。

神様をお迎えするという日本の七夕の物語は…まるでお盆!

…そう、日本版七夕の逢瀬のお相手は、恋人でなくご先祖さまでした!

一週間違いの七夕は、もともとお盆行事に含まれたもので
身を清めるのは、お盆にお墓に水をかけるのと同じ
神様を迎えるための禊だから。

そして、このみたらし祭りはみたらし団子の発祥とも!

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神事の後に氏子に分け与えられる、このお団子
御手洗池で湧き上がる水泡の姿を模してつくったともいわれますが…

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先端と他がちょっと離れて、人形(ひとがた)っぽくもある!
このあたりからもほんのり、ご先祖感があります。

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そして、ろうそくに献灯するのは、霊魂の供養のため。

京都でいえば、五山の送り火が思い浮かびます。
花火も元々は霊を慰めたり、疫病の退散を目的に始まったとか。

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2020年から、大文字の送り火は「ソーシャルディスタンス」で点灯に。

この元祖・みたらし団子。
お祭りでなくても、すぐの「加茂みたらし茶屋」さんで常時、入手可能!

御手洗祭りは夜間も開催しているので
夕涼みがてら訪れるのも、またよし。


ゆく川の流れは、もとの水にはあらず

それでは、下鴨神社の境内林・糺(ただす)の森を歩いてみましょう。

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並木の木漏れ日やさらさらと流れる小川の水音が、清々しいこの森。
直澄(ただす)がネーミングの由来であるのも、納得。

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そしてその大きさ、東京ドーム約3つ分!

神社をつくるために人がつくった森ではなく
この森があったからこの場所が聖域として選ばれた

紀元前の縄文時代から生き続ける、街中の希少な原生林です。

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かつて鴨川は
「平家物語」で白河法皇が「思い通りにならないもの」に挙げるほど
氾濫を繰り返す、暴れ川でした。

一方、氾濫のおかげで、縄文時代からの植生が保たれてきました。

森が鬱蒼としてくる
→日陰では生育できない常緑樹木が優勢
→氾濫
→光が差す
→落葉広葉樹が復活

このサイクルで、保たれてきた植生バランスが一変したのは
1934年の室戸台風で大規模な洪水の後でした。

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本来、京都市内に自生しない常緑広葉樹のクスノキを多数植樹
+氾濫を抑制するための鴨川の改修工事によって
その植生は、大きくバランスを崩してしまったそうです。

かつてはコボコボと溢れ出していた御手洗池も
この鴨川の改修工事で地下水位が下がったため
今は井戸水から汲み上げているとのこと。


しかし、川の氾濫がなくなったから始まった行事も!

ここ糺の森では(御手洗祭りとは微妙に時期違いですが)
毎年お盆(2021年は8/11〜16)に、古本市が開催されています。

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京都の若手古本屋が運営する『京都古書研究会』の主催で
春・夏・秋の年三回開催される古本市は、2021年の今年が第34回目。

夏の下鴨神社のこの納涼古本市は、
約80万冊!と堂々のラインナップを誇る、国内最大級の屋外古本市で
絶版、専門書だけでなく、時代を感じる版画や児童書なども。

あいにくの雨が続いた今年は、日程すべて消化とはいかなかったのですが
それでも年に一度だけ森に現れる古本屋には
ネットで本を探すのとは、違う楽しさがあります。

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…さて、諸事情により秋と追いかけっこしたので
時期外れの感は否めませんが、いかがでしたでしょうか?

京都は、地下に琵琶湖の水量に相当する地下水があり
その巨大な水瓶に浮くようにできた町です。

市内を囲む山から集まって、中洲に湧き出たこの水脈は
下鴨神社から旧三井別邸を経て
京都御所や二条城(神泉苑)にも通じる、特に重要な水脈
でした。

その水源の周りに聖域をつくり
「心身のリセット」というご利益と紐付けながら
山と水源を結びつける物語(お祭り)で水源を守り育てている
ところが
面白いと思い、ご紹介してみました。

9月・10月は一記事にまとめる予定です。

参考にした本のご紹介:
景観の生態史観 森本幸裕編 京都通信社


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このマイ「文化的」京都ガイドシリーズは、月一回更新予定。

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本業は建築デザインの仕事をしています。ご興味あれば。


最後まで読んでいただきありがとうございます。心から感謝します!