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ルールを考える|2021年2月に読んだ本

ルールって何のためにあるのでしょう?

上手く活用すれば、ルールは「考える」という面倒な過程をスキップして、無意識に楽に過ごせます。だから僕たちは「何のためにルールを守っているのか」という本質をすぐに忘れてしまう。「ルールを守ること」が最優先になって、快適に過ごすためのルールに束縛され、疲れ果てていく。

先月は様々な自分の習慣が崩れがちで焦っていました。自分で作ったルールを何も考えずに守るばかりで、本質や生まれた疑問の解決を忘れていたような気がします。だからなのか、読んだ本はルールについて改めて考えさせられる本ばかりでした。

2021年2月に読んだ本の中で、おすすめしたい本(マンガ・小説含む)を選んでご紹介します。

あとは読んでみてあまり響かなかった本を貶すことなく、気付いたことを書いてみる取り組みをしようか悩んでますね。とりあえず、今回の記事は誰かの選書のヒントになれば嬉しいです。

ガチガチの世界をゆるめる|澤田智洋

ルールで固められたスポーツの概念をほぐして「ゆるスポーツ」を作った作者が、ガチガチな世界の標準をゆるめていく方法を書いています。スポーツ論が続くわけではなく、混沌とした現代をゆるくポップに生き抜くための本です。

作中でも述べられますが、「ゆるい=適当で品質は若干劣る」というイメージを僕は持っていました。作者曰く、それは"ぬるい"あって、"ゆるさ"は既存の定義の硬直したシリアスな部分をちょっと崩して、再編集し、発明を加えて、選択肢を増やしていく能動的な行為だと。

シリアスな部分をゆるめるには、誰でも受け入れるポップな遊び心とユーモアが必要。作者が作ったゆるスポーツを見てみると、確かに「なにそれ(笑)!」と気になってしまうスポーツばかりです。(ハンドソープボールとかイモムシラグビーとか)

今の日本はルールがガチガチで息苦しい社会だと思います。ですが、よく振り返ってみると、クリスマスを祝い、年末にお寺の除夜の鐘を聴き、神社で初詣をして文化をミックスして取り入れるような"ゆるさ"を根底には持っています。このゆるさが変な方向に行くと、ハッキリと決断しないために「空気感」が生まれて息苦しくなる。だから日本の文化である"ゆるさ"を上手に活用していけば、社会をシリアスからポップに変えられると気付けました。

余談ですが、少し前に20代の僕よりもかなり歳上の方と話す機会があったんです。目がキラキラしていて、物事を素直に受け止める、なおかつ説教やマウンティングは全くなく、経験だけに頼らない「頭のやわらかさ」をその方から感じました。ゆるさ、やわらかさを持っていれば、きっと人は生きていけるのだと思ったのです。

しないことリスト|pha

最近、気付いてしまったんです。騙し騙しでやってきたけど、僕ってあんまり頑張りたくない人だなぁと。好きなこと・できることも結構あるけど、嫌いなこと・やりたくないことの方が無限に出てきます。フリーランスだからといって、無理にガツガツ動くことは自分にとって「何のために働くのか?」という根底を見失いそうだと思いました。

自分の中の「頑張りたくない気持ち」に気付いたときに、「だるいできないやりたくない」と発信している作者を知り、気になって著書を読みました。「しないこと」を1つずつ確認していった方が、性に合っていると思ったのです。

「しないこと」と聞くと、なんだかネガティブな印象を受けるかもしれませんが、自分に合った価値観とペースを把握して、「なぜ自分がしないといけないのか」を考えてわからないことはやめる、という能動的な選択です。大切なことは自分で決めた実感なのかもしれません。

発言でも思考でもそうですが、「〜しないといけない」とつい考えてしまいます。でも本当にしないといけないことなのでしょうか。社会のルール?その場の空気?自分の中の気持ち?やはり、何をするのかしないのか自分で決めた方がスッキリするのかなと思いました。

とにかく頑張らない。でも、その頑張らないという考えにも固辞はしない程度にする。この"ゆるさ"は息苦しさを払拭してくれそうです。

棚からつぶ貝|イモトアヤコ

以前、毎週のようにイッテQを観ていたので、作者がどんな文章を書くのか気になって読み始めました。芸人としてではなく、人間性が伝わってくるエッセイです。

作者のように周りの人を素直に大切にできる人には、自然と素敵な人が集まるんですね。関わる相手を「交換価値のある相手」ではなく、「対等な人間」として見ているような印象を受けました。

人間関係を「交換価値のある相手とのコミュニケーション」と考えてしまうと、自分に交換できるモノや能力を持っているうちは良いですが、それらが欠けてしまうと誰でも助けを求められなくなります。だって交換価値がないなら関わる必要がないと自分が思っているのですから。

こちらから交換するモノを差し出さなくても関係性を構築できる人とは、凄く健全で疲れにくく楽しめます。この本を読んで強く思いました。

きっと作者は今ある芸人という肩書きを全て失ったとしても、また新しい場所で人間関係を構築して生きていける、そういうサバイバル力があると思います。まあテレビでの活躍を見ていると、無人島でも仙人みたいに生きていく、別のサバイバル力もありそうです(笑)。

帰ってきたヒトラー(上下)|ティムール・ヴェルメシュ

現代のドイツ(2011年)に最後の自殺直後の状態で蘇ったアドルフ・ヒトラーが、再び政権掌握を目指すという、禁断のタブーに触れながらもコメディ要素があって、サクッと読めてしまう問題作の小説。

何らかの要因で蘇ってしまった本物のヒトラーは、現代で「ヒトラーのものまねをするコメディアン」と間違えられ、テレビやYouTubeの出演によって人気者になっていく。本人は真面目に話していることが世間では「ものまね芸人のジョーク」としてウケてしまい、チャンスが巡ってきて政治の世界へ入っていくのです。

歴史のことに詳しくなかったので、ヒトラーが独裁者になった経緯やドイツの歴史的背景はほとんど知りませんでした。現在のドイツでは人前でナチス式敬礼を行うと、民衆扇動罪で処罰されるんですね。ヒトラー関係はそれぐらいのタブーであるわけです。

「ヒトラー=絶対悪の許されざる独裁者」ということは絶対に揺るぎない事実。小説を読んでいて、ドイツ人以外を見下すヒトラーに腹が立ち、本人が真面目に話していることをジョークだと世間に笑われる様を見て、滑稽だと笑っていました。この小説は「いつも通り、絶対悪のヒトラーを馬鹿にして笑うためのフィクションだ」と。

でも、そこまで簡単な物語ではありませんでした。作者の意図によって、作中のヒトラーは魅力的な部分も書かれています。時にヒトラーに共感して、感情移入するようになっているのです。ヒトラーの強い信念には「あれ?意外とまともなこと言ってる」と思う部分もあるからです。この感じは映画「ジョーカー」に似ていると思いました。絶対悪のキャラクターに共通点を感じてしまう構図。

歴史を辿ってみると、認めたくないものですが、ヒトラーは人々を熱狂させて正当な政治的手続きを経て、首相になったという事実があります。その後にやったことが最悪とはいえ、部分的に人々が支持したくなる思想を持っていたというタブーの事実をきちんと書いているのが、この小説の驚かされるポイントです。

絶対悪やタブーは考えることを拒否して、触れられないようにされがちです。でも、物事がハッキリ白か黒かの二択になることはほとんどありません。第3、第4のグレーな境界線であることが多いのです。

何かミスや失敗をするとすぐに責めて炎上して、また次に失敗する人を探す現代の息苦しいサイクル。自分が被害を受けたらそれは怒ったり、抵抗したりするでしょうが、白黒つけない別の視点を持つことは、起こってしまったことに対して「じゃあこの後どうするか?」という、課題を提示できると思います。だから考えることが必要なんです。

ヒトラーを支持したいなどとは全く思いませんが、この複雑な気持ちにさせる小説を読んで良かったと思います。小説は突然終わってしまう感じがあるのですが、映画版は小説のその後まで描いていて、さらにタブーについて考えさせる展開もあるので、読んで面白かった方はぜひ。

ゆるキャン△|あfろ

キャンプが好きになる漫画。山梨県の高校生たちが自分たちのできる範囲で、ゆるくキャンプを楽しむ日常を描いています。ロケ地は実際にある場所がほとんどで、地元の静岡も出てくるので何だか嬉しい。バイクを買って、キャンプツーリングに興味が湧いたことをきっかけに全巻揃えました。

物語はソロキャンプを好むリンちゃんと、転校生で野外活動サークル(野クル)に入った、なでしこを中心に進みます。キャンプは春から秋にかけてが人気のシーズンですが、作中では人の少なく空気が澄んで景色が綺麗な冬キャンプの話が中心です。景色の情景やキャラクターの心理描写が繊細で、癒されます。ただの王道的な日常漫画ではありません。

僕はゆるキャンの人間関係の形が好きで、凄く細かく描かれていると思います。ソロとグループの時間をバランス良く両方楽しむ、「関係性の余白」があるからです。「仲良くしなければならない」強制的な関係性は描かれていません。それが素敵だと思うんです。

リンちゃんはソロキャンプを自分のペースで楽しむのが好きで、野クルには入部していませんが、なでしことの出会いによって時折グループでキャンプをするようになります。

野クルのメンバーもその距離感を尊重してくれる。各自が好きなことをする疲れない関係性。何度目かのグループキャンプの後、久しぶりのソロキャンプでリンちゃんは「さみしさも楽しむもの」と気付きます。

ひとりはさみしいもの。アウトドアだから皆でワイワイと。さみしいことは良くないから。そんな固定概念を払拭するような、まさに「ガチガチの世界をゆるめる」の"ゆるさ"と似ているからでしょうか。だから好きなんです。ソロもグループも両方バランス取りたい人だっているんです。

今ではNetflixでアニメ版も追ってます。キャンプというハッキリしたテーマはありますが、キャラクターたちの心の変化や距離感は、SNSで誰でも繋がりやすい時代に、上手にバランスを取って過ごしていくためのヒントになる作品です。

・・・

僕の中で「ゆるめる」という言葉は、以前から思っていた「頭をやわらかくする」という概念と結び付きました。歳を重ねると自分の中に知見やルールが貯まっていくから、新しいモノや変化を受け入れたくなくなるんですね。今までの自分のルールを壊すのが怖いから否定してしまう。でも、ルールを少しゆるめてみれば、目の前の世界はどんどん広がって生きやすくなる。適度にルールとゆるめるの間を行ったり来たりしてみようと思えました。



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