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古賀コン5参加作品「先輩は言った。ユキオに看取ってもらえたらそれで」
「案外元気そうですね」
先輩はベッドに半身を起こし、手には文庫本を持っていた。それを見て、もう本が読めるようになったんだと思ったのだが、先輩はちょっと居心地悪そうにまあな、と言うだけだった。
「何か心配事でも?」
「うーん……」
先輩が文庫本を閉じてベッド脇のテーブルに置いたとき、検温しますよー、と言いながら看護師さんが入ってきた。
「あらお客さん? よかったわね田中さん」
僕に会釈をして、看護師
古賀コン4応募作品「コンビ解消するときに起きるかもしれないこと」
漫才コンビを解消することになった。俗に言う方向性の違いというやつだ。方向性なんてあって無いようなもので、そう言っておけば体裁が保てるみたいな意味しかない。
ネタは僕がずっと作っていた。それを相方が適当に、超テキトーに演じて僕がツッコミを入れる。相方あってのコンビと言われ、やっこさんすっかり得意になっていたが、僕のネタがなければ何もできない。そう指摘するとぶち切れて、つかみかかってくるのだが
2023年振り返りと2024年への抱負
2023年も大変お世話になりました。たくさん書くことはできませんでしたが、古賀コンには二回応募しました。BFC5と第三回かぐやSFにも応募して、阿賀北ノベルジャムのスピンオフ掌編も書いたりと、それなりに充実していたと思います。阿賀北ノベルジャムをきっかけに始まった『新潟SF』のアンソロジーにも寄稿しました。それなりに、どころかめちゃくちゃ充実してますね。
そして何と言っても金子玲介さんのメフ
岸壁の日曜日(第三回古賀コン応募作品)
どうしてこうなったのか。バスルームで髪を切って、東京タワーあたりをダッフルコート着た君と歩いているはずだったのに。肩で風切って、オッケーよ、なんて言いながら。それなのに、今いるのは2時間サスペンスで見たことあるような崖である。しかも君はいない。もしかしたら最初からいなかったのかもしれないが、考えるのはつらい。とてもつらいのでやめておこう。
それでだ。問題は、目の前に立って僕をにらんでいる女性。
BFC5幻の決勝戦作「許されざる者たち」
あなたは倒れている男を発見する。拘置所に入ってすぐの、守衛所の裏手にある小さな庭だ。刑務官を呼ぼうとして、男が小田嶋悠人だと気づいたあなたは、驚きのあまり左胸に手をやる。家を出たときと同じ膨らみがあり、小田嶋を傷つけたのは自分ではないと安堵する。
あなたは音を立てないよう気をつけながら小田嶋に近づいていく。だが革靴では難しい。自分の革靴が音を立てるたびあなたは顔をしかめる。
小田嶋の腹の辺り
BFC5一次予選通過作品「悪いのは誰?」
自転車の前カゴに紙が入っていた。「K町を忘れるな」。何のことか分からない。紙はその場で捨てた。翌日、また紙を見つけた。そもそもK町なんて知らない。迷惑な話だ。
二日後、K町がニュースになった。死後二週間経つ女性の遺体が見つかったという。事件事故の両面で捜査中だとアナウンサーは言った。被害者の写真に息をのむ。唐川ミハル。十五年前、一緒に過ごしたことがある。私は小学五年生、彼女は中学一年生だった。
イグBFC4応募作品「筋肉は裏切らない」
筋肉は裏切らない。それは本当だ。けれど男は裏切る。これも本当。
守ってあげたくなるのが魅力だと言われていた。でもあまりに非力なので、あるとき助言された。少し筋肉つけた方がいいよ、そうじゃなきゃ共倒れになる。
それは困る。共倒れになったら一緒に出かけられないし、いろんなことを楽しめない。だから筋トレをしようと決めた。
近所のジムの扉を開け、エネルギーに満ちていることに驚いた。熱気にあてられ、
「アメリカの入学式」(第2回古賀コン応募作品)
時雄がそれを言い出したのは、いつもと同じメンツの変わり映えしない飲み会の最中。正確には誰もがお開きにしたいと思っているが言い出せずにいる、そんな時だった。
「アメリカの入学式っていうテーマがあったとするじゃん」
「おう」
「どうする?」
「どうする、とは?」
「何を書く?」
「それは脚本で、ということ? あるいは別の何か」
「何でも」
何でも。そう言われるのがいちばん困るんだよ。この言葉はなぜ
ずっとあなたがいてくれた第三十一話
核心をついたつもりだった。でも楢本さんは反応しない。眉すら動かさない。ダメか、と思った次の瞬間、震える声がした。「なぜ、そう思うのですか」大丈夫、いける。
「なんとなく、としか言えません。確たる証拠はないので」「そうですか」 安堵したような声だった。ここが勝負所かも。ゆっくりと深呼吸をして言った。「如月先生はタカシが私を恨んでると言っていました。タカシに尋ねても、そんなことはないと言うばかり。で
ずっとあなたがいてくれた第三十話
「いや、あんたの手は借りない。自分で話す」
タカシはふらついて、すぐにうずくまってしまった。
「無理だよ、病院行こう」
彼にスマホを返すよう頼む。「ダメだ、通報はさせない」「救急車くらいいいでしょう? 事故だって言えばいいんだから」
その瞬間、もしやと思った。タカシが言いたいことって、まさか。
「ねえタカシ、あの事故……」
脂汗を浮かべながら、タカシはうなずいた。「ああ、そうだ。俺が如月をはね
ずっとあなたがいてくれた第二十九話
諦めかけたとき、タカシが呻いた。「うぐっ……」そして私を突き放す。不審に思ってタカシを見ると、右肩に矢が刺さっていた。うそ、なんで……。「抜こうとしても左腕じゃ無理だろ」はっとして振り向く。「如月先生!」
タカシは矢を抜こうとしながら言った。「ボウガンは所持することも禁止されているはずだ」「そうだな。だが、誰も知らない」彼がちらっと私を見る。「君たち二人がここから出なければ、警察に捕まることもな
阿賀北ノベルジャム『有限会社新潟防衛軍』スピンオフ掌編『余はいかにしてバッドウーマンとなりしか』 #いぬねこグランプリ(作品本文2256文字)
この作品『余はいかにしてバッドウーマンとなりしか』は阿賀北ノベルジャム2022の作品『有限会社新潟防衛軍』スピンオフ企画に参加している二次創作掌編です。企画の詳細は以下のツイートをご参照ください。
*ここから本文(2256文字)*
岸本真弓は懸命に、真摯に努力してきた。新潟のため、理不尽な要求にも、顎で使われることにも耐えてきた。しかし今、その忍耐は消え去ろうとしている。彼女にもたらされた
落選作を朗読していただきました
BFC4に応募して落選した「ある事件/小田嶋悠人」を朗読していただきました。
Twitterに上がっているもので、こちらから聴いていただけます。作品へのリンクに続けて朗読音声がつながっています。
もしも2回戦に行ったら出すつもりだった「テロリストの肖像」も、続けて朗読していただいてます。
そして、イグBFC3に出した「ムダ毛の話」も朗読していただきました。こちらも作品リンクに続けて、ツリーで朗
テロリストの肖像(BFC4二回戦に進んだら出す予定だった作品です)
ユーリの夢を見た。いつもと同じ笑顔だった。アメリカで、スクールバスの運転手をしていたユーリ。バスジャック事件を起こして射殺されたユーリ。子供の僕は下を向いたまま、ずっと黙っている。じゃあなユート、元気で。ーーユーリ!
大きく伸びをして身体を起こすと、留置管理課の「担当さん」と目があった。
「弁護士の接見だ」
「えっ、この前来たばかりなのに。何かあったのかな」
知るか、と顎で接見室を指し示す。おと
BFC4落選作 ある事件/小田嶋悠人
(BFC4に応募したものの落選した作品です)
居酒屋は混雑していた。十年ぶりの同窓会、そう聞いていたのに、大幅に遅刻してしまった。焦りながら森島を探す。
「おう倉橋、こっちこっち」
ホッとして森島のところへ行くと、いくつもの視線が注がれる。その鋭さにたじろいだ。
「ごめん、急にシフト入ることになって、二時間だけのはずが、なかなか代わりの人が来てくれなくて」
何を言い訳しているのか。誰も咎めてなど