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ずっとあなたがいてくれた第三十一話

 核心をついたつもりだった。でも楢本さんは反応しない。眉すら動かさない。ダメか、と思った次の瞬間、震える声がした。「なぜ、そう思うのですか」大丈夫、いける。
「なんとなく、としか言えません。確たる証拠はないので」「そうですか」 安堵したような声だった。ここが勝負所かも。ゆっくりと深呼吸をして言った。「如月先生はタカシが私を恨んでると言っていました。タカシに尋ねても、そんなことはないと言うばかり。でもーー」「でも?」「さっき確信したんです。タカシは私を恨んでるし、憎んでさえいる。私だけじゃありません。如月先生のことも強く憎んでいます。楢本さん、あなたと同じように」そう言って、私は楢本さんをまっすぐに見た。楢本さんは驚いた顔で口をあんぐりと開け、私を見つめている。
「あなたは如月議員、つまり如月晴馬さんのお父様と仕事をしていたとおっしゃいましたね。晴馬さんは、あなたを協力者だと言っていました」「それが何か?」楢本さんは言った。もう驚いてはおらず、冷静な顔だった。「本来は晴馬さんを監視する役目だったはずです。晴馬さんに、もうこんな仕事はしたくないと言ったんじゃないですか? 車のなかで私に言ったみたいに」
 楢本さんは何も言わない。でも脂汗をかいているのが、離れた場所からでもわかる。「タカシが晴馬さんをはねたのも、あなたの差し金ですね」「な、何を言う! どこに証拠があるんだ!?」ため息をついた。そうであってほしくなかった。でもこんなに取り乱すなんて、やっぱり私の思ったとおりなんだ。
 と、いうことは。「晴馬さんのお兄さんが亡くなったのも、あなたの仕業ですね。お兄さんに私を追いかけさせ、私が足をもつれさせて転んだ隙に後ろからお兄さんを突き落とす。目的は何ですか。如月家の乗っ取り? まさかね。昔のドラマじゃあるまいし」急にヒヤッと寒気がした。いつの間にか、楢本さんが目の前にいる。叫ぼうとしたとたん、口をふさがれた。
「昔のドラマみたいで悪かったな。あいつにはさんざんこき使われたんだ。少しくらい良い思いができなきゃ意味がない」
 私をどうするつもり?と叫んだけど、もちろん声にはならない。どうしよう、このままじゃまた危ない目に遭って、今度こそ母に勘当される! 
 と思ったら急に息がしやすくなった。えっ何、どうなってるの、そう呟く間に楢本さんは病室から連れ出されていく。呆然とする私に声をかけたのはーー「かすみ!」「お、お母さん?!」「何もなくてよかった、本当に......」母は涙ぐみ、私を抱きしめた。私もじーんとして、母の背中に両手を回す。お母さん......聞き分けがなくてごめんなさい。でも、自由にさせてくれてありがとう。感謝してます。
「ああごめん、感動の再会を邪魔しちゃったかな」顔を上げる、と。
「如月先生!」
 涙があふれる。よかった、私の知ってる彼だ。最後に会ったとき、タカシへの怒りから自分を失っているようで、とても心配だった。目の前にいる彼は、高校時代に見ていたのと変わらない、穏やかな笑顔だった。

☆第32話へ続く☆

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