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揺れるスパークリングワインと僕


昨日はどこか心持ちが悪かった。
いや、きっともう数日前からずっと悪かったんだと思う。

「俺とは一緒にいない方がいいよ。もう終わりにしよう。」


そう言ってあいつはいなくなった。
これから僕が、どの道を選ぶのか。
早急に答えを出さなければいけないわけではないけれど、ここ数日落ち着かない気持ちだったのはこの先どうするべきなのかをずっと心のどこかで考えていたからだと思う。


あいつが選べと言った未来。
その道を選んでも、おそらくきっとありふれた確かな幸せが待っていて、充実した人生を送れることもわかっている。

それでも、本当にその答えでいいのか。
違う道を選んだ方がもっと楽しい未来が待っているかもしれない。
それが僕の進むべき未来かもしれない。
僕はどこに向かえばいいのだろう。


街は賑わいを見せる中、気分は浮いたり沈んだりを繰り返す。
言いようのないこのもやもやの吐け口を探すかのように行きつけのバーに行き、なんの日でもないのにスパークリングワインのボトルなんか無駄に入れてみたりして、普段飲み慣れない酒を煽った。

ほどほどに酒が回って、その時限りは気分がいい。
いい気分のまま気持ちも緩んで、ついつい自分が甘えられる人を選んで会話を交わす。
きっと受け入れてくれる気がして、酔っているからとちょうどいい理由もつけてくれて、許されたような気になってしまう。
あの時のあいつもそんな気持ちだったのかもしれない。

ぬるま湯のような、永遠のような、刹那的な関係。
だから僕と一緒にいたのだろうか。
でもあいつは、1人それに終止符を打った。


酒で満たされている体には食べ物もあまり入らず、たいした食事もせず調子良く飲んで行く末は、さらに深く酒を飲むだけだ。
何を言ったかも覚えていないくらいなのに、そういう時に限って心の底を吐露してしまう。

そして次の日には決まって後悔するのだ。
もう何度そんなことをして、二度とそんな飲み方をするまいと思ったことだろうか。学ばない自分の何百回目かのがっかりするような翌日。


予期せぬチャイムが鳴り、どうにもこうにもいたたまれないまま、のっそりと体を動かす。
もしかしてなんて思ったけれど、現れたのはあいつではなく友人から送られてきた生鮮の宅配物だった。

「仕事でたまたま石川の方に行ったからさ、2人とも海鮮系好きでしょ?
荷物送っといたよ。」

そういえば数日前にそんなようなメッセージが来ていたのを思い出す。


あいつがいなくなった今、これを1人でやっつけるのはかなり大変だ。
1人じゃ食べきれないからなんてちょうどいい理由をつけて、この後悔と泥のように重い体で1日をやり過ごすことから逃げ、家に人を呼んで、また酒を飲む。

完全に酒が抜けていない体にも、美味しいものは快く入っていき、迎え酒を始める。
この日ばかりは若干のアルコール依存を認めざるを得ない。
飲みたくもない、美味しいとも思っていないのに、また思考が巡るのを遮りたくて心が飲みたいふりをする。


あいつがそうしたように、僕も自分の中で結論というか落としどころを見つけなければいけないのはわかっている。
その結論が自分にとって悪いものではないこともわかっているのに、どうしてこうも足踏みをするのか。

見つからない答えに、酒はずっとそのまま寄り添ってはくれるけれど、決して答えを出してはくれない。
それでも寄り添われることを求めて、きっと人は今日も酒を飲むんだろう。

そして僕も、まだこのなんとも言えない溝の隙間に落ちた気持ちから、答えを出してうまく前には進めそうにない。

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