記事一覧
戻れない過去、見えない未来
他人の金で呑む酒は美味い。気弱そうな同僚を誘っては呑みに行き、毎回支払いを任せている。二件目に行くと女は同僚を置いてカウンターの隣に坐る男に声を掛け、男を持ち上げつつ酒を頼む。男は気を大きくし女とその同僚の分も支払ってくれる。週末になると女はそれを繰り返した。
常連客が居る店に寄ると、必ず隣に坐る。BARのマスターもやれやれという表情は見せるが、女の頼んだ酒の会計を常連客の伝票に付ける。自分の
枯れない愛、心の渇きを癒やして
君の心に一部屋空き部屋がありましたので、僭越ながらお借りさせて頂きました。以前住んでいたであろう方の残した、家具や写真の類が残っておりましたが、何も触らずにそっとベッドだけお借りしようかと思いました。以前此処に住んでいらした方は嘸かし君の事を大切に想っていたのでしょう。棚の上に君と識らない方の写真を見かけました。
思い出の品が君の心の部屋に残っているということは、君もまだその方を想っていらっし
向日葵に凝視められて
深緑の中、心を何処かに置き去りにし、林道の底へと進んでゆく。苔むした地面を両脇に見据え、遊歩道が畝り乍ら男の歩む道を示している。誰が為この地に来たのか。直射日光を遮る木々が仄かな風に揺られ、さわさわとひそひそ話をするかのように囁いている。
途中に細い小川が道を横切り、その上に石で造られた小さな橋が架かっている。湿っていた地面と比べて、その石橋は陽が当たるためか熱を帯びているように見える。蝉時雨