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『君と明日の約束を』 連載小説 第三十四話 檜垣涼

檜垣涼(ひがきりょう)と申します。
小説家を目指して小説を書いています。
よろしくお願いします!
毎日一話分ずつ、長編恋愛小説の連載を投稿しています。
最後までいくと文庫本一冊分くらいになりますが、1つの投稿は数分でさくっと読めるようになっているので、よければ覗いてみてください!
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一つ前のお話はこちらから読めます↓

 無事母親が見つかった後に事情を聞くと、ゲームセンターで遊んでいる途中、母親の気づかないうちにフードコートの方に出てきてしまったらしい。母親はずっと乗り物の中で遊んでいると思っていたらしい。

 僕が戻ると、不思議そうな様子の彼女と目が合った。

「どこに行ってたの?」
「そうなるよね」

 予想通りの反応に思わず笑いが漏れる。

「笑わないでよ」
「笑うよ」

 不服そうに口を膨らます彼女に迷子の女の子の話をしてあげると、「それは笑われても仕方ない」と頷いていた。

「ねえ、日織はどうしてこの小説を書こうと思ったの?」

 ずっと気になっていることだった。一番最初に好きになったものとは違うものを書いているらしいから。

「好きだからだよ」

 前にも言わなかったっけと首をかしげる彼女に続けて訊く。

「いや、そういうことじゃなくって、恋愛小説をってこと」

 彼女はその返答を聞いて、曖昧に頷く。

「ええと、つまり。本を好きになったきっかけって確か……」
「あ、そういうこと。うん、一番最初にハマったのはミステリーだね。読むことが好きになったのはそれがきっかけなんだけど、私が本を書くようになったきっかけはまた別にあって。あ、今持ってるよ」

 言って、彼女はカバンの中から一冊の本を取り出した。

「これを読んで小説を書いてみたいって思ったの」

 彼女が見せてくれたその本は、恋愛小説を読まない僕でも知っているくらい有名な小説だった。

「いつも持ち歩いてるの」と微笑む彼女によると、彼女はいつもその本をお守りとして鞄に入れているらしい。ちなみに彼女は初めて読んだ本も持っていて、見せてくれたその本は、僕が昔からなんども読んだことがある子供向けの推理小説だった。

「これ、僕も好きだった」

 そう言うと、彼女は僕の目をじっと見ていた。

「なに?」
「……いや、やっぱり知ってるんだと思って。推理小説好きな人はほぼみんな読んだことあるって言うよね、これ」

 好きじゃない人でも学校の図書館とかで一度は読んだことがあるかもしれないくらいだ。実際、本をあまり読まない慎一でも昔ハマっていた。

「で、そっちの影響で本を書き始めたってことか」
「そういうこと、しかもこれ見てるだけで頑張ろう! ってなるんだ、あれ」

 彼女はお盆の上のコップを見る。

「入れてくれた?」
「うん」
「何から何まで」
「良いよ、本の話できるの楽しいし」

 彼女は、少し目を丸くした後、何も言わず顔を下ろした。

ーー第三十五話につづく

【2019年】恋愛小説、青春小説

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