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トピックス(小説・作品)

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素敵なクリエイターさんたちのノート(小説・作品)をまとめています。
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2021年9月の記事一覧

『深い森の入口にあるコテージで』

深い森の入口にあるコテージで 私はひとり 秋の訪れを噛みしめていた この宿は初めてだが なかなか悪くない 豪奢なつくりではないが 大変静かで 物思いに耽ることができるし 食事も豪華とまでは言わないが 味は至高だ 景色は言わずもがな テラスから右手を見れば 林道が山の頂きに向かって伸びており 色とりどりのハイカーたちで賑わっている いっぽう左手は 鬱蒼とした手つかずの森 いわゆる樹海と呼ばれるエリア 壮大な景色が広がっている いったん足を踏み

連載小説|ウロボロスの種

▲ 前回 二日目 翌日、私はひとしきり町を歩き回ったあと、ブランデー蒸留所を訪ねてみることにした。  ところで、昨日から町を歩いてみて、わかったことがある。  この港町は、中心に広場があり、そこから六つの大通りが放射状に広がっている。その形はちょうどЖの文字のようだ。  海と港がЖの下側にあるとしたら、ブランデー蒸留所はЖの左上のほうにあった。  川にかかる橋を渡り、林檎園の中の道を歩いていくと、林檎の木々に囲まれて建物があった。中世の城のような建物だ。  建物の脇では、男

連載小説|ウロボロスの種

▲ 前回 一日目 私は港にいた。  一人の漁師が、濡れてもつれた網を解きほぐしていた。  「網は結ぶことによってこしらえられるのではない。ほどくことによってこしらえられるのだ」  そう漁師は言った。  私は悟った。言葉は紡がれるのではない。ほどかれるのだ。ほどかれることによって、言葉は網となり、広がり、書物となる。  漁師は嘆かわしそうに言った。  「この港町も昔は、ほどかれた網のようだった。街路と街路がもつれることなく、広げられた網のようだった。それが今はもつれにもつれ、

【全文無料】ふくだりょうこ「SDGsへの向き合い方」

文芸誌「Sugomori」9月では「SDGsへの向き合い方」について考えてました。今回の書き手はふくだりょうこさんです。 SDGsって最近よく聞きますけど、結局なんじゃらホイ、というのが最初の印象だった。 SDGs=Sustainable Development Goals Sustainableなら聞いたことがあった。 「サスティナブル」という単語を初めて聞いたのは去年の秋だった。フィランドではサスティナブルに生活することが当たり前なんだよ、という話にシンプルに「へえ

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「お金」が私を、生かそうとしている?

みなさん、こんばんは。禧螺です。 今日もnoteをご覧いただき、ありがとうございます。 9月の最終日は、夏の如く晴天でしたが、みなさんのお住まいの地域はいかがでしたでしょうか? 週末には少なからず、台風が日本列島を通るようなので、お互い何事もなく、穏やかに過ごしたいですね。 私は今、学習や創作の傍ら、フォロワーさんのマガジンを通して、お金に対する意識改革を行っています。 そう、ここまで来るまでに、私が「お金」に対して持っていた気持ちは、 「生きていても、何も生産性

銀河鉄道の夜

 これまで幾度となく宇宙を旅した銀河鉄道。ジョバンニの淡い心情、あどけない鉄郎の成長は言うまでもなく、もしかしたら他にも機関車を飛ばした作品があったかもしれない。  どうも、銀河を駆けるKHであります。  幼少の頃、僕が初めて触れた「銀河鉄道」はアニメ版「銀河鉄道の夜」でした。勿論、主役は戦士の銃を粋に構える星野鉄郎......ではなく何故か猫っぽい耳を生やしたジョバンニ少年。猫っぽい、と言うより猫ですね。可愛いなぁ。 ☟青い身体で独特な服を着こなすジョバンニ  198

全部きっかけにする

とてもつらいことがあって ひどい日々を送っていた いよいよ体調に異変を感じて こわい、と思って 死にたい、じゃなくて まだ死にたくない と思った やりたいこと沢山ある 会いたい人沢山いる 書きたいこと沢山ある と思った だから とてもつらかったことは 今より素敵な未来のための きっかけだと思うことにしました 仕事終わり ぎらぎらした繁華街を歩き 客引きとインタビュアーをかわし 行きたかったからあげ屋さんは 男の人ばかりだったから遠慮し 小さなパスタ屋さんに入っ

【箸置き】美しき小さな一品が食卓を彩ります。

自宅での食事機会が ぐっと増えたこの数年。 一日三食つくることに慣れ 少し余裕が出てきたせいか 食卓を華やかにしたいなと 思うようになりました。 そんな時にみつけたのが こちらの箸置き。 ハート型にもみえる 椿の花びらの柔らかなデザインが とても素敵で。 お箸をそっと置きたくなるのです。 陶芸家・酒井智和氏の こちらの作品は、 速水御舟(はやみ ぎょしゅう)の 《名樹散椿(めいじゅちりつばき)》の 絵画をもとに制作されています。 京都市北区にある椿寺(昆陽山地

簡単・おいしい・ちょっと映える!キャンプ飯5選【その2】

一般的に「グルキャン」といえば、家族同士もしくは何人かで集まる「グループキャンプ」のことだが、我が家の「グルキャン」は、酒飲み夫婦が酒に合う料理をひたすら作って、野外でおいしく楽しむ「グルメキャンプ」のことだ。 以前、「簡単・おいしい・ちょっと映える!キャンプ飯5選」という記事を書いたが、今日はその第二弾。 ▼よろしければ、こちらもどうぞ▼ 1)ビールのお供に、ガーリック・シュリンプ 本来なら海老は殻付きで作るのだが、私はちょっと大きめのむき海老を使用。キャンプ場で細

今日の自分は、昨日の自分と違っていい

9月最終日。体調が戻ってきた。最近飲み始めたサプリのおかげか?いや単なる日にちぐすりか。 秋の風は心地よくて、爽快で、人生80年とするならば私はいまちょうど、人生の秋ごろか。 実ったものを収穫し、それを分かち合う時にいるなのだなと、海や風や高い空、流れる景色を見ながら思う。 もう去年までのように、派手にイベントして人前に出ることも、私の人生の一コマとして終幕した感がすごい。今考えるとどうしてあそこまで動けたのだろうか、行政から企業、個人まで、あんなに画策できる行動力があ

片っぽのサンダル

穴の空いたバケツで縁の下を除いたら、サンダルの妖精が顔を覗かせた。 サンダルの妖精はつま先の空いてる部分をパカパカさせながら、つっけんどんに聞いてきた。 『おいおまえ!おれの相方見たことない?』 そのサンダルは、片っぽだけだった。 その顔がなんだか凄く見覚えがあって、でもどうしても思い出せないもんだから暫く黙り込んでいたらまた更に大きな声で怒鳴られてしまった。 右足のサンダル(略してミギサン)は、ある嵐の夜に相方である左足のサンダル(略してヒダリン)と離れ離れになってしま

その人の「声」が聞こえるような対談原稿を作りたい

初めて対談原稿をまとめた時のことである。対談のテープ起こし原稿をもとに、章立てをしてまとめていく本づくりの仕事だったのだが、 私は当時は(も)素直で純粋なフリーランスのライターで、本人が言っていないことを制作上補足するのは「よくないこと」と考えていたので、 テープ起こし原稿から拾った箇所を、できるだけ触らず、そのままの素材を活かそうと考えた。 テーマに沿った内容。本人のそのままの言葉。多少意味をつなげるため順序を入れ替えたが、会話のテンポも再現できている。うん、なかなか

小さな奇跡を起こすのは、いつだって一歩前へ進む勇気。

気づけばフリーライターという仕事を始めて25年が経つ。 ただ、ずっと順風満帆だったかといえば、決してそんなことはない。請け負っていた案件がクライアントの都合でほぼゼロになったこともあるし、仕事量が増えるばかりで自分が書きたいものは書けないと悩んだこともある。 人脈も何もないところからのスタートだったので、最初の頃は「何でもやります!」のスタンスで仕事を請けてきた。 だから、あらゆる媒体でいろんなことを書いてきたが、30代も半ばにさしかかった頃、「いつまでもこんな”なんでも屋

ピンクのカーテン

柔らかくも硬くもない合皮の椅子にボッーと座りながら、総合病院はまるで空港みたいだと思った。 吹き抜けの大きな内装、どこまでも続く大量の座席、目的の診療科へ進む老若男女の患者たち。 自分の行くべき場所を受付で質問し、診療室というゲートへ旅立つ患者には付き添いの家族がそっと寄り添う。 そんな空港、いや総合病院の産科に、今まで大病もせず生きてきた私が2週間から4週間に1度のペースで通院している。 理由は妊娠、お腹に宿った命の安否確認のためだ。もうすぐわたしが呼ばれる番である