文芸誌「Sugomori」

毎月「暮らし」をテーマに文芸誌を発行。お気に入りの1作を見つけてみてくださいね。

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マガジン

  • Sugomori 2022年9月号

    「暮らし」をテーマにさまざまなジャンルで活躍する書き手たちによる小説やエッセイをお届けします。 毎週月曜・木曜に新作を公開!

  • Sugomori 2022年8月号

    「暮らし」をテーマにさまざまなジャンルで活躍する書き手たちによる小説やエッセイをお届けします。 毎週月曜・木曜に新作を公開!

  • Sugomori 2022年7月号

    「暮らし」をテーマにさまざまなジャンルで活躍する書き手たちによる小説やエッセイをお届けします。 毎週月曜・木曜に新作を公開!

  • Sugomori 2022年6月号

    「暮らし」をテーマにさまざまなジャンルで活躍する書き手たちによる小説やエッセイをお届けします。 毎週月曜・木曜に新作を公開!

  • Sugomori 2022年5月号

    「暮らし」をテーマにさまざまなジャンルで活躍する書き手たちによる小説やエッセイをお届けします。 毎週月曜・木曜に新作を公開! 今月は文学フリマ特別号です。文学フリマで頒布予定の作品を先読みできます!

最近の記事

【小説】柳田知雪「海を斬りに」

「海を斬りに」 ──10年後の大津波で日本は沈没する。  最初は見向きもされなかったSNSでの投稿が、いつしか大きな波紋を呼んだ。  投稿者である科学者の加茂野大地が地震予知研究の第一人者であり、翌日には跡形もなくアカウントごと投稿が消去されていたこと。それと同時に彼が突然行方をくらましたことから、ネット民の中では陰謀論が一気に膨らんでいった。  大津波は事実で、到底日本の全人口を助ける手段などなく、政府は国民を見捨てるつもりなのでは? 事実を知った政府の上層部だけが日

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    • 【小説】小野寺ひかり「昼下がりの人妻たち」文学フリマ特別号

       堪え性のない膀胱なんですよ、とパンツにもらしたわずかな尿に溜息をつく。それはトイレのドアを開けた瞬間だったような気もするし、便座をあげたときでもあり、ズボンをおろした時には確実で。つまり、あ、と思ったときには漏らしているようなものですよ、と誰に言い訳するわけじゃないけど言い訳してしまう。  パート先で用をすませてくればいいのだけど、あいにく潔癖症なんですよ。あの店の裏手でぽつんとした、寒々しいトイレにはいるのは嫌なんですよ。だからといって、尿をもらすのは許されるのかしらん、

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      200
      • 【小説】舞神光泰「テンの団地」文学フリマ特別号

        「久しぶり、フミのお母さんに聞いて番号教えてもらったんだ」 10数年ぶりに聞くテンの声は僕を過去へと引きずり戻した。 テンだけが僕の事を『フミ』と呼んでいた。そんな事ですらどうしようもなく、懐かしくてイヤだった。 「聞いてると思うんだけどさ、オレ結婚するんだよ」  テンの顔を思い出す。髪は天然の茶髪でサラサラしていた、当時の男の子にしては長めでおかっぱと呼ばれていた。目鼻立ちがくっきりしていて、笑うと八重歯が覗いた。サッカー少年で外を駆け回り、色白の肌に入ったソバカスが入って

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        • 【小説】誠樹ナオ「消えた保護犬ずんだを探せ」文学フリマ特別号

          レスキューされた元野良犬「ずんだ」が「当麻動物病院」の保護ルームからいなくなって、四日が過ぎた。 「蓮見(はすみ)、探すの今日も付き合ってくれるか」 「もちろん、いいよ」 いなくなったのに気づいて、私と当麻樹(とうまいつき)はずんだの目撃情報をずーっと集めていた。当麻は団地内にある動物病院の息子で、高校の同級生でもある。保護団体と連携して保護犬のケアやレスキューに力を入れていて、うちは二年前にアールという雑種を家族に迎えた。それから成り行きで当麻の保護活動に付き合わされる日々

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          200

        【小説】柳田知雪「海を斬りに」

        マガジン

        • Sugomori 2022年9月号
          3本
          ¥300
        • Sugomori 2022年8月号
          5本
          ¥300
        • Sugomori 2022年7月号
          6本
          ¥300
        • Sugomori 2022年6月号
          9本
          ¥300
        • Sugomori 2022年5月号
          7本
          ¥300
        • Sugomori 2022年4月号
          4本
          ¥300

        記事

          【小説】フラクタル・アイロニー

           たけるさんが言うには、この世のほとんどすべてのものは同じ形が続いて出来上がっているらしい。パサパサのサンドイッチを咥えながら、たけるさんはよく団地の四角の連続を数えていた。 「ねぇそれ、暑くないの」  プールのにおいを纏わせて、アイスを齧りながら自転車の後輪をカラカラ回す。青春っぽい、と思う気持ちも半分、こんなの青春なんかじゃないと思うのも半分。いつからか“シタ”と呼ぶようになった団地の下の商店で買うミルクバーは、食べ始めは歯が立たないくらいにカチカチなのに、気を抜くと一

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          【小説】フラクタル・アイロニー

          【小説】誠樹ナオ「第一王女は婚活で真実の愛を見つけたい」第6話(後編)

          『仕事』と言われて一抹の寂しさを感じつつ、ふと、気になって私はアスランに聞いてみた。 「アスランはどうして私の婚儀の担当を引き受けたの?普通の政務官が喜んで引き受けるような部類のことでもない気がするけど、ちょっと変わっているんじゃない?」 「まぁ、そうですね」 アスランはすぐには答えず、考える顔になる。私は急いで言い足した。 「ごめんなさい。言いにくい話だったら、無理に言わなくていいのよ」 「いえ、公爵家の内聞を晒すことになるので」 言葉を選びながら、アスランは私が遮るよ

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          【小説】誠樹ナオ「第一王女は婚活で真実の愛を見つけたい…

          【小説】誠樹ナオ「第一王女は婚活で真実の愛を見つけたい」第6話(前編)

          自分の担当のことだけに話が終始し、疎外感を感じて部屋を退出しようとした時── 「ああ、レティ」 お父様に声をかけられて、立ち止まる。 「はい?」 「初等教育の意義については、内外に重要性を見せる必要があると思う」 「おっしゃる通りだと思いますわ」 「近く、トゥワイルから視察団が来る」 トゥワイルはお母様の母国であり、お父様との政略結婚によって平和を取り戻したかつての敵国だ。表向きの関係性は保たれているけれど、特にお母様が亡くなってからの両国は微妙な緊張関係の上にいる。 「トゥ

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          【小説】誠樹ナオ「第一王女は婚活で真実の愛を見つけたい…

          【エッセイ】 『下ネタふられてスベった感じにされたので 少し思い返してみる』小野寺ひかり

          できごとターン4名~5名で飲んでいて、じつはなんと言われたか覚えてないんだが、はっきりとそれは「下ネタ」だった。誘い笑いを取るような。でも笑える下ネタってケーシー高峰氏しかり、かなり高度なワザなので、あ~~、と笑いをとりたい精神を尊重してビールをちびちび飲んでたぶんヘラヘラしていた。  そこに「そういうこといってるとさあ~、ね~、いなくなっちゃうよー」とか「あしたにはいきません、って連絡来ちゃうよ~」って第三者がいさめている。  そして来なくなるかもしれない、と言われているの

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          【エッセイ】 『下ネタふられてスベった感じにされたので …

          【掌編】衣南かのん『遠いひの花火』

           薄いレースカーテンの向こうに映るぼんやりとした赤い光につられて、そっとベッドを抜け出した。  都心の少し端っこ、駅徒歩10分、単身向けの7階建てマンション。  その4階から見える景色なんてそう大したものではないから、ベランダに出ることはあまりない。そういえば、この家のベランダに出るのは初めてかもしれないとふと考える。  初めて立つその場所は、けれど新鮮さなんてこれっぽっちもなくて。どこにでもあるアパートとか、マンションとか、薄暗い道路とか、そんなものしか見えない。  だけど

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          【掌編】衣南かのん『遠いひの花火』

          【掌編】小野寺ひかり『桃と花火』

          セミの声がつんざく。くさのにおいが濃ゆい、夏の夜のこと。 あにの右手では、ゆらゆらと小さな炎が揺れて、こえーぞ、こえーぞ、と語り掛けてくる気がした。導火線に近づくその手前で、あにはわたしの顔をのぞきこむ。 「なにおびえとるんじゃー、桃」 「あにぃ、火ぃ、やめてって、」 「おもしれ。クチがへの字になっちょぉ」 途端に恐怖していた自分があらわになった気がした。 あにがわたしを指さす。 「かかさん、こいつの眉までハの字になりよったあ」 「あらあ。お兄さんなのだから、からかったら

          【掌編】小野寺ひかり『桃と花火』

          【小説】柳田知雪『負け犬ギルドの幼馴染』第1話

          ※注意※ こちらは文芸誌Sugomori 初のR-18小説となります。 未成年の方の閲覧はお断りさせていただいております。 ご了承ください。 また、R-18小説へ苦手意識がある方も閲覧をお控えください。 以下より本編が始まります。 注意書きをお読みいただき、 了承いただけた方のみ続きをご覧くださいませ。 『負け犬ギルドの幼馴染 第1話』  私にとってラルは幼馴染で、ギルドの仲間で、家族みたいな存在で……そんな彼が、こんなにも劣情に塗れた男の顔をするなんて知らなかった。

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          【小説】柳田知雪『負け犬ギルドの幼馴染』第1話

          【小説】藤宮ニア『雨後に願う』

           あ、まただ。  すれ違うエスカレーターの人々を眺めながら思う。最近、知らない人の顔にやたらと父親の影を見てしまうことが増えた。  父はもうすぐ70歳になる。70。数字のインパクトを改めて噛み締めながら、今は67だったか、8だったか、とぼんやり考えた。エスカレーターの終わりが見える。仕事終わりの時間に差し掛かる駅構内は、ビジネスマンらしき人やそれ以外でごった返していた。長いスカートの裾を巻き込まないように、広がる人混みにスムーズに紛れ込めるよう、一歩を踏み出す。 『今度、高

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          【小説】藤宮ニア『雨後に願う』

          【小説】千羽はる『ささやかに、色を灯す』

          ろうそく、というと、やはり思い浮かぶのはケーキである。 真っ白なケーキと真っ赤なイチゴ、その間に上手に配置されたひょうきんなカラフルさを持つ細いあのろうそく。 火をつけるときれいなのに、主役はケーキ。 ケーキにろうが垂れる前に素早く消さなければならないが、なかなか消えなくて結構焦るアレ。 しかし、眼前にあるろうそくは、トモエが知っているひょろひょろのぽきっと簡単に折れそうなケーキのろうそくではなかった。 【和ろうそく】と、書かれている。 「はて、何が違うのでしょう

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          【小説】千羽はる『ささやかに、色を灯す』

          【小説】ふくだりょうこ『出会う前から好きでした。』第1話

          最悪だ。 心の中で叫んだ。 会社での飲み会。そろそろお開き、というタイミングで席を立ったら、戻ってきたときには先輩の坂井さんしか残っていなかった。 「あの……ほかのみんなは?」 「もう帰ったよ。僕は君が戻ってくるのを待っていたんだ。誰もいなかったら寂しいでしょ?」 マスクをつけていない酒井の口元がだらしなく歪んだ。 私が勤めているのは小さな派遣会社だ。家庭教師のあっせんをしている。社員は私と、社長と、一応先輩の坂井。あと事務のバイトの女の子が1人。その日は、私たち社員のほ

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          【小説】ふくだりょうこ『出会う前から好きでした。』第1…

          【小説】衣南かのん『シティ・ストレイドッグス』後編

           夜のとばりが下りきった中、小さな街灯だけを目印にするようにリアは真っすぐ家への道を急ぐ。  ニコがやってきてから、1ヶ月。その間に少しだけ、リアの生活は変わった。  帰り道には毎日深夜までやっているスーパーに寄っていくつか買い物をしていくようになったし、その中には肉や、果物や……ひとりのままだったら買わなかったようなものが日に日に増えていった。  ニコは食べることがとても好きらしく、おいしいものを前にすると途端に目を輝かせる。それに気づいてからは、つい、今までは見なかったよ

          【小説】衣南かのん『シティ・ストレイドッグス』後編

          【掌編】ふくだりょうこ『きみと雨の待ち合わせ』

          彼女を初めて見たのは、6月の中旬ごろ。 梅雨入り宣言から数日が経ち、雨にうんざりし始めていたときだった。 雨の日は、白と黒の世界に閉じ込められているような気がしていた僕は、歩道でぼんやりと立っていた彼女の周りの華やかさに足を止めた。 一瞬、彼女の周りにはピンク色の花びらが舞っている気がしたからだ。 しかし、よく目を凝らしてみると、そのピンクの花びらは彼女が持っているビニール傘に描かれたものだった。 昨日、授業の課題を夜遅くまでやっていたから、少し疲れていたのかもしれない。

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          【掌編】ふくだりょうこ『きみと雨の待ち合わせ』