Anti Int Niche

好きだったものを見つめ直していこうと思う。

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マガジン

  • 戦場痕

    大藪春彦大賞に応募したものの改稿版。ちょっと過激かもしれない。

  • 創作日記

    だいたい千字。たぶん

  • 【小説】濡翼のヴィジリア

    ダークファンタジー・サスペンス。"カーニバル・ロウ"と"The Raven"の影響をバチクソに受けて書いたので、だいぶ史実ネタが怪しいことになっている。 参考資料で作ったほうれん草のパイが大変おいしゅうございました。

  • 【漫画原作】シトラス・バイロケーション

    今さら学園SFもの。青春です。タイトルにドッペルゲンガーを入れたかったけど、どうやっても昭和のロボアニメにしかならないので苦戦した記憶。

最近の記事

戦場痕 2-4

 大島とは駅前で別れた。自宅に戻ってひと風呂浴びるらしい。  私は駅前のパブで一杯ひっかけることにした。  路上駐車したクルマを見てマスターは嫌な顔をしたが、私が義手を見せてやると、しぶしぶビールを出してくれた。 「パクられてもウチの名前は出すなよ」 「その程度の義理はあるよ」  大島が戻ってくる前に、もうひとり訪ねることにした。  殺しのことなら詳しいやつがいる。  電話を入れる前に、ひと息つく。顔の見えない会話は、どうしても部隊間の通信を思い出してしまう。  戦争は強い

    • 戦場痕 2-3

       私が自販機からコーヒーを買っていくと、大島は受け取るなり仏頂面でベンチに腰かけた。 「てんでダメでした」 「ん、良い線行ってたよ。サボらなきゃすぐ上達する」 「でもあなたの時代と違って、今は射撃も趣味なんですよ」  私がわざと選んでやったブラックコーヒーに、彼はさらに渋い顔になった。 「撃てなくても死にはしないんだ。こっから上手くなるには理由が無さ過ぎる」  私にコーヒーを突き返すと、彼は代金の支払いに行った。私はひと口だけ減ったコーヒーの缶をすすりながら、ちらりと置きっ

      • 戦場痕 2-2

         夜になってアパートに戻ると、放置していた携帯電話に留守電がひとつ入っていた。大島の細い声が独自の調査結果を報告するのを聞きながら、パックに残っていたクロキリを湯呑みに注いだ。  エチルアルコールで顔を赤く変えながら、銃を持つ自分を想像した。  外ではパトカーのサイレンが鳴り響いていた。族車を追いかけているらしく、聞いているうちにドップラー効果ですぐに音程が変わっていった。空襲警報よりも音が高いから、神経が昂る感覚はなかった。だが、酒を入れるペースは速くなった。  ときど

        • 戦場痕 2-1

           司法解剖をやったという医者は、夜勤明けでピンポン玉みたいに飛び出た目をしていた。挨拶がてら状況を尋ねると、警察にも百回は訊かれましたよと笑って、私たちが応接室のソファに腰かけるなり、慣れた様子ですらすらと教えてくれた。 「西暦で十八年の六月四日。通院時間になっても来ないっていうんで、家族に見に行かせたら頭を吹き飛ばしてました。銃が見つからなかったので、あのときは結構細かくやりましたね」  窓から見える解剖室の裏手には人間ドックのCT車が停まっていた。「ディーゼル規制に引っ

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        • 戦場痕
          7本
        • 創作日記
          7本
        • 【小説】濡翼のヴィジリア
          9本
        • 【漫画原作】シトラス・バイロケーション
          3本

        記事

          戦場痕 1-3

           次に目が醒めたときには、ICUのベッドの上だった。  カーテン越しにどこかの家族が話し合う声や、廊下で看護師がストレッチャを転がす音が聞こえた。隣のベッドには老人が寝ているらしく、家族が呼びかける声が聞こえる。  逆側に目を向けると大島がパイプ椅子に座っていて、少し分厚くなったファイルを億劫そうにめくっていた。 「おはよう」  と私が言うと、彼はファイルを取り落とした。 「あ、失礼……」 「きみは見舞いに来ないタイプだと思ってた」 「それも一瞬だけ考えたのですが」  大島

          戦場痕 1-2

           庁舎から出ると、さっそく待ち伏せしていたカメラがこっちを向いた。いかにも内地育ちらしい、肉の薄い顔つきをしたリポータが突撃してきて、「元RAMとして本事件に対する意見をうかがいたいのですが」と尋ねてきたのを、薄ら笑いでかわしながら駐車場のGクラスに乗り込む。  リポータの女からは強いコロンのにおいがした。何度も香水を振り直せるなんて、マスコミのくせにずいぶん暇しているらしい。  シートベルトを肩に回したところで、ようやくほっと息をつけた。  プレス証の無い記者なんて。あん

          戦場痕 1-1

          あらすじ各話リスト 1-1 (当ページ) 1-2 1-3 2-1 2-2 2-3 2-4 1-1.  出版社の打ち合わせから戻ると、留守電が入っているのに気が付いた。 「あの医者、拳銃を渡していた。本当だ。俺、殺されちまう」  福江敦人(ふくえ あつひと)の酒とクスリでぐらついた声が、何度も私の名前を呼ぶ。録音時間の二十秒をまるまる使った元一等兵の鳴き声をBGMに、私は布団に潜り込んだ。  彼がシリアスなのは分かっていたが、かけ直す必要は感じなかった。私は疲れていた

          #7 まずは日本で売るんだからさ…

           昔からアンソロジーというものが苦手だ。  目的の作家のたかが1,2篇のために、残り300数ページのペラ紙を本屋から売りつけられる。  たいがい元から興味のあるジャンルを買うので、そこで収録される知らない作家というのはおおよそ業界で目立ってないわけである。つまるところ実力不足の水増し枠…はっきり言えば、読者目線から見るとハズレだ。  よしんば作家を発掘しても、次回作もどうせまたアンソロジーである。基本的に読者が損をするように出来ている。  そんな中で、ここ数年だと法治の獣

          #7 まずは日本で売るんだからさ…

          #6 そも、文字は読まれるものじゃね?

           プロットコンテストの結果発表が延期ということで、出すアテのない推敲をつらつらと重ねるのもつまらなく、こちらの賞にも参加することにした。  べつに人に見せられるほど彩りのある毎日を送っているわけではないが、日記ぐらいなら帳簿のついでに付けているので、出すだけならカロリーゼロ、あわよくば今晩のメシにひと品足せる程度の賞金(というか掲載料)も稼げる。出し得というやつである。  日記は、読んだ資料の目録を作るのが面倒という理由で学生時代に始めた。たしか事故のときフォーサイスの紛

          #6 そも、文字は読まれるものじゃね?

          【小説】濡翼のヴィジリア【第九話】

           リゾートホテルのロビーでは声楽のコンサートが開かれていた。  パーティの演目らしい。晩餐を終えた外交官がボルドーの注がれたグラスを片手に細君と談笑している。その横で文官たちが分厚い手帳を繰ってスケジュールを確認していた。  ウィルドが電話を借りて部屋にかけるあいだに歌の旋律が変わってタ、タ、タとテノールパートが繰り返し始める。アカペラにしてはおちゃらけてやがると思いつつ横目でうかがうと、カフェの前の黒板に白チョークで描かれたエッフェル塔が見えた。  なるほど、とひとりごち

          【小説】濡翼のヴィジリア【第九話】

          #5 旨いプリンを旨いラーメンに入れようぜという話

           新規のレーベルがプロットコンテストを開くという。色々とレーベル側に不安要素は多いものの、この9月までの新人賞閑散期にただ文字を並べた習作で自己満足するのもつまらないので、久々のラノベで参加してみた。  たまにはハンドルネーム通りニッチ層でも攻めてみるかと募集欄にあったゾンビを題材に取ったが、困ったのが先人の不足っぷり。  基本的にゾンビ物の小説って流行らないんですかね。小説版のワールドウォーZとか売れたけど、言うてアレはモキュメンタリーだし。  バトル多めで人間関係を描

          #5 旨いプリンを旨いラーメンに入れようぜという話

          #4 新作構想という体の小休止

           どうも最近の学校では読書感想文に”新書”を指定するところがあるそうで、やはりと言うか、普段から本の山で寝泊まりしているのを買われて適うものを頼まれた。  昔から自分の体感では新書の打率は2割だ。1万程度JPYをつぎ込んで2冊壁に叩きつけずに済んだらオーライの代物で、アタリを探せとはなかなか先生も酷なことを仰るとは思うが、とりあえず直近2ヶ月のものではブルーバックスで良い本があったので、簡単なレクチャー込みで渡しておいた。  ついでに自分でも読んだ。『DEEP LIFE』と

          #4 新作構想という体の小休止

          【小説】濡翼のヴィジリア【第八話】

           レンガ造りの総督府にはまだ聖ゲオルギウスのイコンが飾ってあった。  スラヴァからひと月も経つのに、片付けていないらしい。クリスチャンだらけのここでは、おそらく次の聖ヴァイタスの日になるまで誰も気付かないのだろう。  二階の廊下を通るとき、鉄道局員が執政室から出てきた。目の下に深い隈のある男で、ウィルドを見ると軽く帽子に手を添えてくる。 「また線路でも爆破されたのかね」  声をかけると驚いた様子で、鉄道局員はへへっと笑った。 「いえ。ダイヤの修正で意見を仰ぐことになりまして

          【小説】濡翼のヴィジリア【第八話】

          #3 ジャンルって書く側の役に立ってるか?

           別名義でmonogataryに投稿した短編だったが、転載規約が特に無かったので、こちらでも載せた。要は記事数の水増しね。  中の人含めて架空のヴァーチャルアーティストの立ち上げ企画ということで、つまるところヤマハの初音ミクやギブスンのidoruをもういっちょ再解釈して作ってやるぜということらしい。  で、例によって例のごとく他の応募作を見ると、どうもSFテイストの強いもののウケが良く見受けられたので、自分も倣って二人称の少し無機質な文体で、VRスペースに生きる唯一の主体を

          #3 ジャンルって書く側の役に立ってるか?

          【小説】あるいは落ちる木の葉の不確実性

           文庫小説、三〇〇キロバイト。  読み切りコミック、六〇〇メガバイト。  楽曲ワントラック、四〇メガバイト。  二〇二三年の全世界、一五〇ゼタバイト。  ときおり、きみは開いた手を見つめる。  無数のポリゴンとテクスチャでくるまれたIKボーンの構造物。  押せばたわみ、引っ張ればコンストレイントいっぱいまで伸びる肌は、観測できる限りでは非常に"リアル"だ。うまい具合にディフォルメしている、と思う。  きみは化粧台の前に立ち、ポートフォリオの写真を真似ようとする。  パラメ

          【小説】あるいは落ちる木の葉の不確実性

          【小説】濡翼のヴィジリア【第七話】

           玄関に放られた朝刊には、一面に劇場の事件が載っていた。  拾い上げてぱらぱらとめくる。  急いで作った記事らしく版画は無かった。読み進めて、死んでいた支配人の名前がアレクサンダルというのを初めて知った。ただし犯人は筋骨隆々の男になっており、「法院のベテラン審問官」が事件現場で負傷したらしいと書いてある。 「それ、終わったら貰っていいかい?」  ウィルドがドアを閉めようとすると、毛むくじゃらの手が差し込まれた。戸板の隙間からよれよれになった防衛団の制帽が見え隠れしている。

          【小説】濡翼のヴィジリア【第七話】