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ないことないこと日記

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日常は面白い(はずがない)。 ※この日記はだいたいフィクションです。
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2022年1月の記事一覧

1/31(月)

次、止まります『私』は帰り道にバスに乗っていた。
日々の疲れにうとうとしていたら、いつのまにかバスはトンネルに入っていた。

長いトンネルだった。
橙色のライトが淡々と並ぶトンネルの中には、対向車も並走車もいなかった。
バスの中を見回すと、何人も黙って座っていた。
淡々とバスはトンネルを進んでゆく。

ずっと続くトンネルに、『私』は家から遠ざかってることを悟った。
慌てて停車ボタンを押す。
「次、

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1/30(日)

E-BOYイズム

『私』が駅前でバスを待っていたら、大きなラジカセを肩に担いだおじいさんが、リズムに乗って歩いてきた。
なんとも古めかしい、平ったいラジカセだった。

おじいさんは駅の出口にたどり着くと、ラジカセを地面に置いて、『北酒場』をテープで流し始めた。
おじいはんは「北酒場』に合わせて、拳をふりながら歌うふりをした。
なんとも気持ちよさそうだった。

「北酒場』が終わると、『まつり』が流

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1/29(土)

ミックス犬たまたま、ふらっと立ち寄ったショッピングモールのペットショップで、『私』は人面犬を見つけた。

人面犬は、カラダはチワワ、顔は金髪碧眼の美少女だった。
残念なことにスペイン語を話していたので、何と言っているかはまったくわからなかったが、小さな体でプルプルと震えている美少女は、やはり愛らしかった。
値段は五十万円。まあ、妥当だろう。

「かわいいですよね、人面犬」
不意に背後から声をかけて

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1/28(金)

黒ずくめの男
昼下がりに「私」の家の近所を歩いていると、電柱に黒い男がしがみついていた。
何だかカブトムシみたいだった。

何やってるんですか、と「私」がたわむれに声をかけてみると、男は
「クワガタごっこです」
と言った。

クワガタかよ、と内心ガッカリしながら「私」は男を見上げながら、いつか電柱に登ったときの独特の爽快感を思い出した。
「電柱に登るの、気持ちいいですよね」
と声をかけると、クワガ

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1/27(木)

涼しいタクシー「私」は急いでいた。
前の予定がかなり押してしまって、次の予定まで時間がなかった。
その理由は、相手のおじさんが、本題が終わったのにずっとペットの猫の写真を見せてきたからだ。
その猫は『すず』という名前の、よく肥えた茶トラだった。
確かに写真の『すず』はどれも愛らしく、おじさんと二人でついつい見とれてしまった。

『すず』のせいで焦っていた「私」だったが、運良くすぐタクシーをつかまえ

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1/26(水)

ずんぐりとむっくり細々とした用事をひと通り終えた「私」は、東京の地下鉄をわけもなくぐるぐると乗り回していた。
何度目かの乗り換えの時に、たまたま座った席の隣にモグラがいた。

モグラ、と書くと、東京タワーで羽化した怪獣のようだが、サングラスなどかけずに目をしょぼしょぼさせている以外は、普通の茶色いずんぐりむっくりとしたモグラだった。

『ずんぐりむっくり』を、自分の名前を言いながらなにがしかの共同

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1/25

悪習慣「私」は晩御飯を作っていた。
玉ねぎ、人参、じゃがいも、お肉を包丁で切る。
玉ねぎはくし切り、その他は食べやすい大きさに。
サラダ油を鍋にしき、玉ねぎを色が変わるまで炒める。
それから肉を入れ、表面に焼き目をつけ、人参と、じゃがいもと水を入れてコトコト煮る。
鍋にふたをする。

歌でも歌いながら、小踊りをする。

具材が煮えたら、火を止めてルーを入れる。
ルーが溶けたら弱火でとろみがつくまで

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1/24(月)


青い顔の男突然のことだった。
「私」が使い古した電気ポットを、たまには、と思ってふきんで拭いていると、注ぎ口から白い煙が出てきた。
もちろん電源コードは外していた。
壊れたかと戦々恐々していると、注ぎ口からおもむろに青い顔の男が出てきた。

まず断っておくが、これは電気ケトルではなく電気ポットで、コンビニのレジの脇とかにある、ボタンを押している間に真下にお湯が出てくるアレだ。まったくおしゃれ要素

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1/23(日)

チャンネルはそのままで日曜日なのでのんきにテレビを見ようと思って、「私」がテレビのリモコンをいじってみると、テレビはうんともすんとも言わなかった。

当たり前だと思うだろう。
テレビは家電だから意思を持って喋ったりはしない。
そういうことではない。
画面がつかず、音も出ない。
不審に思って本体の電源を押すと、今度は囲碁の対局が映った。
淡々と進む白黒の石の交錯に「私」の脳内も白黒になりながら、それ

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1/22(土)

立派な人がすなる日記といふものを凡人もしてみんとしてす「私」は取るに足らない、ゴミみたいな人間だ。
というか、生まれた時からそうだった。
公園の白い金網のゴミ箱に捨てられていたそうだ。
子供の「私」の素行に何かある度にそう言っていたが、
そんな間違いなくゴミだった「私」を、ゴミ箱を漁って家に持ち帰り育てた両親もどうかしている。
桃太郎のおじいさんとおばあさんの方がまだ自然に思える。おばあさんがどう

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