新井由木子

だから やっぱり本が好き/新井由木子

 先日、初めて店(ペレカスブック)にいらした方から、 「いったいどうやったら、出版社とお仕事できるんですか」  と急に尋ねられたので、戸惑ってしまいました。  一緒に来店されたご友人は、わたしの連載エッセイのことをご存じだったようですが、彼女はそのご友人から、その場で初めて聞いて知…

娘のお弁当に付ける“荷札”は、親の圧倒的な片思いなのか?/新井由木子

 下準備をして、誰よりも早く起きて、心を込めて作るお弁当。  それなのに肝心の子どもときたらなかなか起きてこないし、何度も呼んでやっと起きてきたと思ったらブスッと機嫌が悪いし。それだけならまだしも、学校へ行く寸前になってなにかが見つからないと騒いだり、今日提出のプリントにサインを…

くどいバス/新井由木子

 バスに乗るのは、いつでもなんだか気持ちが弾みます。  生まれ故郷の式根島にはバスが走っていなかったので、小さい頃に憧れた気持ちが、そのまま残っているのかもしれません。観光バスでなくてもよいのです。路線バスで充分、旅気分、遠足気分です。  車窓に見えるのが、どこにでもある町の風景…

男心はわからない(わかりたくもない)し、女の情報網はすごい/新井由木子

「Aちゃんの彼、浮気してるって聞いた?」  女子二人の間に発せられたこの言葉に、思わず聞き耳を立ててしまったのは、わたしだけではなかったと思います。 「えっ。Aちゃんの彼ってTだよね、同じサークルの」 「そうだよ。Tだよ」  AちゃんもTも、彼女たちと同じ大学で同じサークルらしい。 「浮気…

三本の指で命拾い/新井由木子

 伊豆諸島の式根島に暮らしていた幼き頃、よく家族揃って海遊びに出かけていました。  父と母は食べられる貝類を採り、その間、わたしと妹は海面浮遊を容易にする救命胴衣に似たものをつけさせられて、湾内を泳いでいました。  泳ぎ疲れて水面に仰向けに浮かぶと、視界いっぱいの青い空と、縁取るよ…

絵を仕事にする/新井由木子

 絵で身を立てたいと思っていた20代の頃、様々なコンペティションに挑戦していました。  コンペティションで高い評価を得ることこそ良い絵の証、プロフェッショナルへの道。クリエイターとしてデビューしたいならば、受賞こそが登竜門だった時代でした。  鳴かず飛ばずの数年を経て1999年、ようやく…

ういろうの一本食い/新井由木子

『ういろう』を丸ごと一本食したことがあります。バナナを食べるがごとく、頭からモリモリと、休むことなく最後まで、一気食いです。  その時わたしは真っ暗な高校時代、寮生活を送っておりました。  そこはちょっと変わった学校で、料理(全校生徒の食事を生徒たちが自ら作ります)や、裁縫(卒業…

必ず眠れる子守唄/新井由木子

 幼き頃、伊豆諸島の新島に暮らす祖母が歌ってくれたのは、こんな子守唄でした。 ♪ねんねん、ねこの尻(ケツ)に蟹が這い込んでー ―1匹かと思ったら、2匹這い込んでー ―2匹かと思ったら、3匹這い込んでー ―3匹かと思ったら、4匹這い込んでー  以下、延々と蟹の数が増えていくのです。  …

死ぬ夢と呑気な中学生/新井由木子

『死ぬ夢』を、よく見ます。  ある時は討ち入りの場面におり、抜き身をひっさげ、ときの声を上げて屋敷(多分、吉良上野介の屋敷)に突進する仲間の後に続き走っていました。  勇壮ではありますが、心中は斬られたらどのくらい痛いのかという恐怖でいっぱいです。勘違いでその場に参加してしまった…

ろくでもない思いつき/新井由木子

 世の中にはさまざまな『思いつき』が、溢れています。  人々を幸せにする『思いつき』としては、カツカレーやクリームソーダがあり、わたしたちはその味を口にしては、「思いついた人、天才!」と、心からの賛辞を惜しみません。  しかし残念なことに、この世には『ろくでもない思いつき』という…