革屋と本屋のヨシナシゴト往復書簡015
動物=ペットと思うと/棲み分け・結界/祈りと呪文
人間関係において偏屈で弱い/目的地に行きたい強欲
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
新井さん、大変良い言葉をありがとうございました。
U-TaaaN LEATHER(*)は「祈り」の1つの形だったのですね。
とてもとても腑に落ちました。
*https://soka-leather.jp/projects/u-taaan-leather/
このプロジェクトを始めたときは、私たちの仕事で社会の課題が少しでも解決できるのであればと、利益云々はともかくとして思い切りで走り出したようなところがありました。
幸い思いを同じくする、いえそれ以上に熱き思いを持って取り組みをされている各地方の方たちとの出会いがあり、現在は事業の理念としても、できた革をみても、我が事ながらとても良い仕事をしていると自負しております。
「野生でのびのび育っている獣がちょっと悪さをするからと言って、殺してしまうのはかわいそう」というのは都会で管理された自然しか知らない人が良くおっしゃいます。
かわいそうです、確かにね。
動物イコールペットと思うとそうかもしれませんね。無理もない。
しかし、自然をコントロールできていると思ったら大間違い。雨だって風だってコントロールなんかできないように、野生の動物もそうそう管理なんかできないでしょう。人間が賢いからってほかの動物を支配することはできないのです。
ただね、生きたいですよ、お互い。
だから棲み分けたり、結界を設けたりしてずっとずっと共生の方法を探りながら生活してきたのです。かわいそうでも、かわいいでもなく、共に生きるためにね。
あら、今米良美一さんの歌声が、、。そう、ジブリアニメの「もののけ姫」のコピーの言葉を借りると「ともに生きよう」なのです。地球上に一緒に生まれたからには「ともに生きよう」。
ただちょっとこちらのルールでやらせてもらうよ、命いただくよ、お肉も皮もいただいて、役に立つように使う、と言ったら軽いけれど。世界中に狩りをする方たちがいると思いますが、独自の祈りがありますね。呪文だったり、しぐさだったり。自然に対しての畏敬の念というのがあると思うわけです。
皮革を扱う私たちも、このことは常に頭の中にあります。
動物の命によって生かされていること。お肉を美味しくいただくように処理加工、調理する。皮を革になめし、良い革を作ることによって命の循環させること、これは草加レザーだけでなく、動物、お肉、皮革を扱う方がみな意識していると思っています。畜魂碑なるものがあって朝夕手を合わせたり、お稲荷さんを祀っている工場もあります。
ところで、話は7月8日の上野鈴本演芸場に戻ります。
新井さんは小腹が空くからとお稲荷さんを買っておいてくださいましたね。確かかわいいサイズ8個入りでしたか。中入りの休憩の時、私がご不浄に行っている間に、半分お食べになって、私が戻ってから「半分食べちゃったよ、手を洗ってくるから、河合さんあとお食べ」と言って折り箱を渡してくださった。
その折りに一膳だけ付属していたお箸を発見。新井さんは最初にいただくときにお箸を使わず私に残しておいてくださったのですね。だから手が汚れちゃったのですね。私も2秒ほど迷って手でいただきました。
かわいいお稲荷さんは美味しかった。
お腹の加減もちょうどよく、後半も空腹に気を取られることもなくしっかり楽しめました。あの日、前座君から、一花さん、正蔵師匠やほかの噺家さん、トリのつる子さんに至るまで素晴らしい高座で、いい心持ちで湯島でハイボールをいただいたのですが、そんな気分になれたのは半分は新井さんの気遣いのおかげだったと思いました。
なぜか数日後にとてもそのことが強く思い出されて、そして「ああ、新井さんとは一生お友達でいたいな」と。
革を買ってくれるからでなく、おすすめの本を教えてくれるからでなく、1膳しかないお箸を残しておいてくださるひとだから。
細かいって?そう折りならぬ重箱の隅をつつくような話ですが、こういうことはね、ずっと刺さっているものなのです。仮にお箸使われててもお友達ですけどね。
また寄席にいきましょうね。今度は私が美味しいおやつを用意していきますね。
ではまた。
LEATHER TOWN SOKA Project team
河合 泉 2024 07/17
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
河合さんへ
上野鈴本演芸場の開演ギリギリに、わたしが先に取っておいた席に転がり込むようにしてやって来た河合さんが、あたかも全力で走り尽くしたリレー選手が繋ぐバトンの様に手渡してくれたのは八天堂のクリームパンでした。
中入りに一緒につまみたいなと、わたしが準備したお稲荷さんと同じ気持ちで河合さんもクリームパンを、長引いた打ち合わせのために差し迫った開演時間に間に合おうと走りながら、きっとあの乗り換え駅の、あの売店で「桃のやつ2つ!」と急(せい)て注文する姿が目に浮かんで、とても温かい気持ちになりました。
実はわたしは生っぽい乳製品はタイミングによると腹がピーピーになる体質で寄席でそれだと地獄なので、クリームパンは崩れないように、そうっと持ち帰り、冷たく冷やして翌日にいただきました。
美味しいものを分け合って食べる幸せ。なんだかキュンとしましたよ。
一生友達でいたいという言葉は、この先様々な色を塗り重ねていくであろう付き合いの、大切なベースにしていきたいです。心から嬉しいです。ありがとう。
でもまだ河合さんは、わたしが人間関係において偏屈で弱い人間で、そして未来と仕事に対して強欲さを持っていることを知りません。
人と付き合っていくことって、お互いの『引き出し』を引き出し合うようなものって思っています。
わたしは離婚を経験していますが、その時もどちらかが悪者だったり一方だけに落ち度があったということではなく、お互いの悪い引き出しばかりを引き出しあっているって、渦中で発見していました。
また逆に、自分に都合の良い引き出しばかりを差し出せと相手に求めることも、ありますよね。
それは、こちらの苦労をわかって欲しいという寂しいエゴであったり、自分の引き出しの中身だけを相手にぶちまけて大きな空の引き出しで受け入れろと強要するイジメであったり、そこに至ることは単純ではないとはいえ、人間同士の付き合いというのは例外なく、愚かな破局に繋がる落とし穴ばかりに思えます。
そういうことで手放した人生計画やプロジェクトが、わたしにはいくつかあります。
どれほどの強度の理性があったら、あきらめることなく、それらを乗り越えられたのかなあ。
抽象的でわかりにくいかもしれませんが、これがわたしが人間関係において、あきらめてしまう偏屈さと、逃げる弱さを持つ人間だという告白です。
さて、人生も折り返し地点を過ぎまして、もうプロジェクトを手放すレベルの人間関係の失敗について、ちゃんと考えて回避していきたい段階です。
ここからは、もう少し遠くまで確実に行く道を模索しないとヤバく、良き協力者が必要で、自分もその人のためになることをしていきたいです。
ひとりでは行けない到達点に、協力者と、目的地を一緒に観測して目指す。
目的地が少しズレていてももちろんいいし、目的地で手にしたいものも其々に違っているかと思いますが、協力者と一緒に確実に辿り着くことをちゃんと意識していきたい。
具体的には編集者さんと絵本の完成を目指し、わたしを選んで仕事を依頼してくれているクライアントと製品の完成を目指し、家族と幸せな未来を目指しています。
河合さんに往復書簡を申し入れたのは、当初明確な目指したい未来があったからではなく逆の流れで、この人となら今は見えない目的地の観測が出来るのではないかって感じたからです。『この人となら』のところを開くと、U-TaaaN LEATHERを手がけている河合さんの仕事の深さを知りたかったし、革のことも精神的なところから話すのを聞きたかったし、河合さんの物事を断じるのではなくて考えるという姿勢が好きだし、本を読んできたひとだとわかるし、何より言葉が面白いと思った。
ヨシナシゴトなんていいながら、もう少し強く、河合さんを知りたい下心があったんですよ、、、。
まとめると『目的地に行きたい』という強欲がわたしにはあるという自覚で狡(ずる)さがあるので、河合さんの「友達」と言ってくれた言葉に対して誠実に答えるには、この告白が必要だと思いました。
河合さんとのお付き合いは往復書簡16回×10=160日、呑みに行った回数3回です。なんとなくぼんやりと、一緒に行きたい『目的地』が、彼方に見えてきたように思えてます。
祈り、棲み分け、結界、生かされている、生きたい。U-TaaaN LEATHERには心臓にズドンと響くテーマが重なっていることが、河合さんの書簡を読む度に伝わってきます。
生きる生きたいというエネルギーの爆発は、島の生活では「虫」で見られます。
前回島に行ったときには長雨で畑のコンポストが水没し、栄養のある水が土の上に溢れてしまったために何かの幼虫が大発生していたのですが、不思議と気持ち悪くはなかったです。
しかしその後、そこから見たこともないシャープなフォルムのブルーコンポーズ色の美しい羽虫が孵化して群をなしていた時には、祈るのを通り越して「参りました」と平伏してしまいました。
自然というか生命力って、物凄いです。
長くなってすみません。
それでは、また。
pelekasbook
新井由木子 2024 07/20
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
河合泉
埼玉県草加にある皮革工場『河合産業株式会社』。
家族が営む同社を手伝う傍ら、草加の皮革「SOKA LEATHER」のPRを努めている。落語が好き。
新井由木子
埼玉県草加市の小さな書店ペレカスブックを営みながら、町の工場と力を合わせて『読書のおとも』を作る。酒が好き。落語も好き!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?