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革屋と本屋のヨシナシゴト往復書簡011

いいんだよ何が好きでも/革づくりの奥深さ/生き物の最後のメッセージ/命を再起動/命の痕跡/肉を食べる

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新井さん

「The Cell」ですね。怖いの結構すきかも。今度見ます。
芸術の定義もあいまいで難しいですが、
『好き』がたくさんあると確かに人生豊かになるのかも。

『好き』は新井さんがおっしゃるように、色々な体験や環境から生まれてくるのでしょう。

体験格差なんて嫌な感じの言葉も最近聞こえてきますね。(嫌だけど言い得てると思います)

『好き』がたくさんあっても、『好き』を「これが好き」って言える環境ってなかなか作れないかもしれないです。

いいんだよ、何が好きでも。好きは自由。

『好き』を認めて、どんどん『好き』を追求しなよって言えればみんな楽になるのかな。

ところで、革づくりの奥深さに気づいて下さりありがとうございました。

私も、簡単ではないと思っていましたが想像以上に深いです。

どんな業界でも、その道の方にお聞きすると、うわーっていう深さありますよね。

革も本当に深くて、少し勉強しようなんて思っていましたが、池かとおもっていたら海だった、ぐらい甘かったです。

でもあきらめてはいけない。千里の道も一歩から。

そういう気持ちで日々勉強です。わかったつもりになってはいけないと戒めの毎日です。

動物が生きているときにできた傷や虫刺されや、皮膚に近い太い血管や、肉割れの跡、が製造途中(新井さんの見た白い皮の状態)ではいったんわからなくなるのですが、最後に仕上げをするとそれらが見えてくるのです。その時にその生き物の最後のメッセージを感じます。「俺は、私は生きてたよ、確かに生きていたよ」と。とても怖くもあり敬虔な気持ちになります。

一枚の革の上に様々な表情があります。
背中とお腹で『シボ』のグラデーションも違う。


モノを作っているというより、命を再起動する、というような(この表現もどうなのか)という気持ちになります。

クライアントさんの指示はたいてい「キズは避けてカットしてください」なのですが、タンナーさんたちはキズこそ使ってほしいところだよねと、よく呑んでは話しているのです。

皮に傷があるのは自然なこと


また、革がたくさん干されたり重なったりしている工場の光景、その革の持つ曲線はいつも見ても美しいなと思います。

革の乾燥風景(伊藤産業にて)

タンナーさん、縫製の職人さんの飲み会は楽しくて勉強になりますよ。

ではまた!

LEATHER TOWN SOKA Project team
河合 泉 2024 06/04

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河合さんへ

『好き』に出会って、それを大切にしていけることが、もっともっとみんなのものになったら嬉しいですよね。
わたしも別に特別に勉強を極められたという程、環境的にも経済的にも裕福であった訳ではありませんが、苦手なこと(ひとづきあいとか計算とか)が多い分、『好き(絵を描くこととか)』を手放せないような感覚があって、紆余曲折ありながらもそれを手放さないでいられたのは、とても恵まれていたと思います。
そんな人生を送れた分、後のひとに何か贈りたい気持ちがあります。
余裕があるからこそ贈れる、というタイミングは、なんだか永遠にやって来ないようにも思うので、ヨッコラショ!と腰を上げて、何ができるか考えてみたいな。

製造途中で見えなくなった皮の傷が、仕上げをすると見えてくる。
その現象は、河合産業さんや伊藤産業さんで皮革作業の工程を見せていただくことを繰り返して、腑に落ちています。
最初は一面の白だった鹿の皮が、鞣し工程を終えた時に見えてくる様々な革の表情。
鹿の革の床面(皮の内皮)に現れた血管の跡の迫力。

血管の痕跡の残る革もあります


生きている時に雄同士の喧嘩や外敵との戦いで受けたであろう、皮を破るほどの深手の傷跡。
さぞかし痒かったであろう虫喰われの跡、おできの跡。
保存過程で生きたバクテリアに侵食された穴。

バクテリアによる穴


それらは全て『命の痕跡』ですよね。
当店ペレカスブックと草加の皮革工場のコラボレーション製品『害獣という名のブックカバーVermin』では、その全ての痕跡を避けずに仕立てましたが、手にとるお客さんたちに、むしろ1点ものの愛しさとして、受け入れてもらえたのは、すごく嬉しいことでした。
『命の再起動』は、命の先を考えることとして、お客さんの手元に起こること、、、かもとも考えられますね?

鹿の革の部位によって『シボ』の雰囲気が違います。
内革の表情も違う

鹿1頭分のVerminが完売したため、今、次のVerminを仕立て中です。
痕跡を愛してくれるお客さんが本好き界隈にいらっしゃる手応えを受けて、仕立て職人さんと革のダメージを生かした取り都合(革の上で製品のパーツを裁断する都合を調整すること)を考えました。鹿の命の痕跡が見えるユニークな1点物たちが、出来上がってくると思います。

穴の空いた箇所を使ってみる取り都合。

タンナーさん、職人さんとの飲み会、参加してみたいです。
呑みながらクロッキー帳に書き込めることがたくさんありそう! 予定が発生しましたら、新井にも一報いただけます?
呑む・食べると言えば、河合さんはレザレクション林さんとコラボレーションして、鹿と共存することを考えるイベントもしていらっしゃいますけど、そこでは鹿の肉を食べることも、イベントの大切なキーワードのひとつとしてテーマにしていらっしゃいますよね。

河合さんが広報を務めるSOKA_LETHERと
北海道北見で鹿のことに取り組んでいるLETHERECTIONのコラボイベント


『皮革』と『肉を食べる』ということについて、何か思うこと、感じることってありますか?

お返事をください。それでは、また!

pelekasbook
新井由木子 2024 06/09

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河合泉
埼玉県草加にある皮革工場『河合産業株式会社』。
家族が営む同社を手伝う傍ら、草加の皮革「SOKA LEATHER」のPRを努めている。落語が好き。
新井由木子
埼玉県草加市の小さな書店ペレカスブックを営みながら、町の工場と力を合わせて『読書のおとも』を作る。酒が好き。落語も好き!!

草加には革の職人さんが革仕事を営んでいて、こんな看板があちこちにあります。


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