パルプスリンガーズ

魂の灯 -おまとめ版- #ppslgr

「書けない……」 乱雑に本が積まれたワンルーム、暗がりの中で呻きが密やかに消えた。 パソコンの前で顔を伏せる、ぼさっとした黒髪に眼鏡の若者。モニターには、テキストエディタが開かれたまま、カーソルバーが虚無的に点滅していた。 「センセイは……どうして、オレを……」 握りしめた両拳をデスク板面に押し付けて苦悶するも、答えが出るはずもなく。問いかけは暗がりにとけゆく。それでも、苦闘の中で、若者の眼だけは死んでいなかった。 「書くんだ……オレは……!」 ――――― エメラ

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全裸の呼び声 -51- #ppslgr

 AI生成悪夢めいた、この世ならぬ街路を進むうちに、いつしか威勢のいい掛け声が空気を震わせる。 「ソイヤッ!ソイヤッ!ソイヤッ!」 「ソイヤッ!ソイヤッ!ソイヤッ!」  色濃くもやのかかる街並みの、見通しの悪さを物ともしない男衆の掛け声。もちろん現実を魔改造したこの異空間で、たまたま訪れた今日が偶然にも地元の祭りの日であるなどと言うこともない。レイヴンは目元を抑えた。 「方角はこっちであっているんだな……?」 「そうじゃが?」 「そうか、合っているか、そうか」  もの

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全裸の呼び声 -50- #ppslgr

 久しぶりに人間性のある食事を済ませた一行を待っていたのは、より一層変質が進んだドブヶ丘だった。あのニューラルネットワークAI描画によって構築されたが如き、ギリギリ人間が意味のとれるような取れないような……そんな曖昧な図形。おおまかな特徴で言えば、昨夜よりも日本の現代都市に近づいていた。だが、それでいて重要な要素は相変わらず抜け落ち、ずれて構築されているとあってとても居心地のいい空間とは言えない。  道路に立ち並ぶ建物が標榜する断片的な文字情報も「あなたがおまえ社員枡カット

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全裸の呼び声 -49- #ppslgr

 レイヴンの声に安堵も慢心も存在しなかった。未知の神性とはべらぼうにめんどくさく、厄介で、ハタ迷惑なモノであり……いくら積まれても関わりたくない存在であったからだ。それが人間の信仰に紐付いたことがないとなれば、一層厄介なのも明白であった。 「本格的に結びつくのもマズい。それはわかってるよな?」 「それはもう、もちろん」 「もしかしてアレか?露出会の連中が狙ってるのも、ここのヌシとの和合っちゅうわけか?」 「十中八九、そうだ。産地が何処か知らんが、ここまで出来る代物を乗っ取れ

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全裸の呼び声 -48- #ppslgr

 アノートは神妙な顔でうなずいた。ことここに至っても自分の置かれた立場にいまいち実感がわかなかったのだ。 「露出会の目的も合わせて状況と、こちらの目的を再設定しよう」 「ほう、ワシからの説明はいらんようじゃな?」 「ああ、おおよそ検討はついた。間違いがあったら指摘してくれ」  レイヴンはノートをテーブルの上に広げるとそれぞれの勢力を書き込む。 「俺たちが現状解決すべき問題は二つ。露出会による強制露出化精神汚染と、得体のしれない日本のドブヶ丘化だ。事象としては別だが、おそ

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全裸の呼び声 -47- #ppslgr

 失われた荷物が戻ってくるだけならおとぎ話めいてありがたいことだが、問題はここがドブヶ丘であることだ。現れ方からいっても、間違っても筋肉ムキムキのネズミが持ってきたというわけでもない。 「……マジか」  レイヴンとアノートはそれぞれ慎重に降って湧いた荷物ににじり寄ると、改めて状態を確かめる。驚くべきことに、荷物にはあの触手が絡みついた痕跡さえ見当たらない。二人が休む直前に封をした状態のまま、二人の目の前に戻ってきた。 「さて、どう解釈するかな」 「なんじゃ、おヌシら荷物

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全裸の呼び声 -46- #ppslgr

「オーケーオーケー、気遣い感謝する。なにはともあれ移動しよう」  レイヴンは、天寿を全うしそうな老人でももう少し覇気があるだろうくらいに億劫な様子で立ち上がると、残った左腕で得物を掴む。ラオ師は奥ゆかしくも一行の先頭に立って先導する。その股間のまばゆいかがやきが闇を照らし出し、屋上からビルにつながる底なし沼めいた階下をおぼろげにあらわにした。 「ついてくるが良い、ワシが拠点としている場所へ案内しよう」 「頼んだ、教授もそれでいいな?」 「ああ。他に当てもないし、ね」  

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全裸の呼び声 -45- #ppslgr

「な!?に!」  もとより人質とは、ニッチもサッチもいかなくなった者の悪あがきではあるが、それでも道連れにしようとした相手が助かったことにオク・ダークは少なからず硬直した。そしてその間は、迫りくる死を前にしてあまりにも致命的であった。チェーンソーのけたたましい駆動音が夜空に鳴り響く。  ギリギリのタイミングで、巨大タコは自身をかばうように触腕を振り上げるも、何もかもが遅かった。高速回転惨殺チェーンソーが、紙すだれを裂くほどのたやすさで触腕を切り飛ばす。紫紺の血しぶきをかい

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全裸の呼び声 -44- #ppslgr

 巨大轢殺マグロすらも串刺し殺出来る巨大銛が、摩天楼にそびえる巨大タコを真正面から刺し貫いた。外観としては即死であろう一撃を受けてなお、タコは空中にとどまろうともがいては果たせず、目の前のビルにすがる。その間輝ける全裸男は器械体操パルクール仕草によって、銛をつなぎとめる鎖の上へと登りたった。 「アガッ……アガガッ……」 「フム、まだ息がある。思いの外しぶとい」  けたたましい金属の擦過音を轟かせ、銛が引かれる。当然のことながら引き込まれるオク・ダーク! 「やめっアガガッ

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全裸の呼び声 -43- #ppslgr

「レイヴン、無事なのかい。自爆したのに?」 「自爆は自殺じゃないから死ぬとは限らない」 「とんだ屁理屈だ」 「まあそうだな、とはいえ……」  アノートの後に続いて隣のビル屋上に滑り落ちた黒いのは、普段の挙動の見る影もなく転倒した。夜闇に紛れていても彼の右腕が欠けているのは明白だった。本来なら、彼はこの程度のダメージを瞬時に修復出来るわけで、損耗が限界に来ているのも事実である。 「本当に手札は打ち止め、後は頼む」 「任されて」  それだけ言い捨てて、レイヴンは仰向けに転が

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