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全裸の呼び声 -13- #ppslgr

 意を決して登戸駅南側に歩を進めた二人を出迎えたのは、筆舌しがたいほどのの悪臭であった。酔っ払いの吐しゃ物のアルコールと酸味、肥溜めの耐え難い排泄物のそれに、どう控えめに評価しても人体に良いとはいいがたい科学産業廃棄物の刺激、しかもそれらはレイヴンがおおよそすぐに理解できたうちに過ぎず、一般的な生活ではおよそ体験することのない形容さえもむずかしい、なにがしかの匂いが多分に含まれていた。

「ウープス」
「これは ひどいね」

 二人はおのおの用意したマスクを身に着ける。黒ずくめは忍者の面貌めいた代物で、教授のそれは襟元のあたりにゆるんでいた筒状の布マスクだ。ただでさえ一般人から浮いた姿の二人だったが、より一層近寄りがたい外観となる。が、この異界と化した登戸駅前では、むしろ地味とさえ言えた。

 駅前では今時珍しい、無地の青ビニールシートを路面に広げた露天商が、得体のしれないガラクタを並べていた。一部の都市では、打ち捨てられた雑誌や、新古品などを拾い集めて転売するような浮浪者が見られる。だが、それに類する物が駅前から続く大通りの両側に、祭りの縁日めいて立ち並ぶ光景は現代日本の景色とは到底思えない。

「まるで戦後の闇市だな、伝え聞いた程度しか知らないが」
「服装もおよそ現代的じゃないけれど、彼らはちゃんと服を着ているね」
「……確かに」

 つい観察のために注視してしまった黒ずくめに、お返しとばかりに露天商達の視線が集まった。やはり、だれもかれもが獲物を見定める肉食獣の眼をしている。

 さて、だれからインタビューすべきか。負けじと品定めするレイヴンの眼に、大通りの向こうから駆けてくる人影がうつる。背は標準程度、やせ型体系の初老の婦人で、何より服をちゃんと着ていてこの界隈の連中のようなぼろ衣でもない。

「たすけてっ、誰か、だれか助けてーっ!」

 老人は年の割にしっかりとした足取りで必死に駆け、駅前に立つ二人の異邦人を認めるとまっすぐにそちらに駆け寄り、助けを求めた。

「ご婦人、落ち着いて。いったい何があったんだ」
「むすっ、息子っ、うちの息子が!」

 二人が交互になだめすかすも、老婆は半狂乱で訴える。

「ハッ……ハッ……朝っ、起きたらね、知らない奴が家の中にいて、アタシャ叫びそうになったんだよ!しかもそいつときたら天井まで背丈があって、薄緑の気味悪いぼこぼこした肌で、アタシをおふくろって呼んで……それが全然知らない声で!」
「息子さんが、まったくの別人みたいに変身していたんですか?」
「そうだよっ!それだけじゃないんだ、アタシの頭ん中になにかが、なにかが入ってきてる!いま、今この瞬間にも!なにかが!」

 老婆はフィーバー中のパチンコ台のように恐怖を吐き出し続け、そうかと思えば突如雷に打たれたかのごとくピンと背筋を伸ばし、白目を剥いて痙攣しだした。

「キエーェッ!!!!!!」

【全裸の呼び声 -13-:終わり|-14-へと続く第一話リンクマガジンリンク

注意

このものがたりは『パルプスリンガーズ』シリーズですが、作中全裸者については特定のモデルはいない完全架空のキャラクターです。ご了承ください。

前作1話はこちらからどうぞ!

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