全裸の呼び声 -1- #ppslgr
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全裸の呼び声 -1- #ppslgr

 雨が降っていた。汎人類が未だ目にしたことがない、名状しがたき汚濁の雨が。雨は西欧とも亜細亜とも異なる建物群を、しとどに濡らし汚していた。そしていびつな建物が立ち並ぶ街路を、お世辞にも薄汚いとすら言えない人影がまばらに行き交う。ここは、汚濁の街だった。

 そんな忌まわしい街の道を、白衣の男が走る。名をハカマダという。
 ハカマダの白衣はすでにどどめ色に染まって重くなり、彼のメガネは吐き気をもよおす邪悪な色合いのしずくに覆われて視界をさえぎり、底抜けた革靴が踏み散らす水たまりは玉虫色の油膜でもってハカマダの姿を写し取った。それでもなお、ハカマダには走らなければならない理由がある。

「ハァ……ハァ……ハァ……」

 ハカマダにとってこれほど走らされる事態はいつ頃であっただろうか。所属大学主催の運動会にて、同僚から押し付けられた1キロマラソンの時よりもなお走っている。足がもつれ、息が乱れた。

 もはや歩いていると表現するのも大げさなほどよたついたハカマダは、右手に現れた路地裏にもんどり打って滑り込む。もう限界だった。ハカマダは手をぬらつく石壁について、荒く息を整える。

「畜生……ちくしょう……っ!」

 果たして、何を罵倒すると言うのか。やり場の無い感情を吐き出すハカマダが顔を上げると、水滴に歪められたメガネの向こうに見覚えのある顔が2つ浮かんだ。同僚だ。共にここにやってきた、ハカマダの。

「サギシタ!タナボタ!良かった無事だったんだな!?」

 見知った顔に喜び勇んで駆け寄ったハカマダが、異常に気づいたのは自身の汚れたメガネを白衣の裾でぬぐった、その時のことであった。

二人は、全裸だったのだ。

「ウッ、ウワッ、ウワアアアアアアアアアッ!ゥアアアアア!?」

 おのれの想像を超えた感情に転倒して、かつての同僚を見上げるハカマダに対し、二人は何の反応も示さなかった。二者は白目を剥き、生気がなく、土気色の肌を惜しげもなく晒して、路地裏に立っていた。自我が、感じられなかった。

 もはや立つこともままならず後ずさるハカマダの視線の先。おぞましい色合いの雨煙に曇る路地裏の彼方より、さらなる何かが姿を見せた。

 全裸の、大男だった。

 その風貌は人間離れして歪み、眼球は飛び出気味にぎょろつき、おおよそ既存の生物からかけ離れた骨格を有していた。かろうじて、人型であり、男であることだけがハカマダにも理解出来た。大男が口を開き、鬱蒼とした声色でハカマダを憐れむ。

「おお、哀れな非脱衣者よ。ヌシの仲間は既に露出の祝福を受け……歓喜と共に、我らの同胞となった。そして貴様にも同様に、我らを愛せし大いなる露出者の祝福を授けてしんぜよう」

 大男はそう言祝ぐと、おもむろに節くれ立つ野太い腕を伸ばし、ハカマダの頭部をわしづかみに吊り上げる。逃げる隙さえなかった。必死に大男の腕を掴んで抵抗するも、大木めいてぎしりとさえしない。ハカマダは叫んだ。

「やめろ!やめて!許してくれ!許して!」
「ろーん、ろーん、あらぐ、ねま、ねくまらど……我らが偉大なる原初の露出者よ……これなる哀れなりし非脱衣者に、真なる開放と露出を授け給え……」

 大男が言葉を紡ぐほどにハカマダの身体は幾度となく痙攣し、モリにて貫かれた魚めいてのたうったが、それもすぐに収まる。絞首刑の死体同然に垂れ下がるハカマダ。その身からあらゆる衣服がほどけ、花びらのように舞い散っていった。

 おぞましき雨霧の闇をひかりが切り裂き閃いたのは、その時だった。

【全裸の呼び声 -1-:終わり|-2-へと続く|第一話リンク|マガジンリンク

注意

このものがたりは『パルプスリンガーズ』シリーズですが、作中全裸者については特定のモデルはいない完全架空のキャラクターです。ご了承ください。

前作1話はこちらからどうぞ!

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吉:カタナ
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