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全裸の呼び声 -40- #ppslgr

 ホテル特有の星あかりの乏しい通路を、駆ける、駈ける。駆け抜けるそばから、大木然とした触手が突き出、天井さえも刺し貫く。正確にこちらの位置を把握できていないのが目下の幸いだったが、さりとて立ち止まっていれば一発で木っ端微塵になる程度の誘導性はあった。ついでに闇雲に突き出した一本が進路を塞ぐ程度の厄介さも。

「ええい鬱陶しい!」

 レイヴンがドス黒い剣を振るうたびに、眼にも止まらぬ速度で触手はずるりと滑り落ちて壊死のち、崩壊する。触手を切り落とすたびに後方の触手もまた痙攣して動きが止まり、二人は進路前方に飛び散った汚らしい汁の飛沫を踏み散らかして前へ進む。

「私、気づいてしまってんだけど」
「わかってる!」
「あの太い触手、根本でつながってるよねぇ」

 そう、触手の二種のうち、太い方は明らかに干渉を受けるたびに脈打ち、のたうちまわっていた。もっともあの恐るべきドブ塊の一太刀を受けて骨の髄まで全損しないあたり、ダメージコントロールとして先を切り離す機能もあるようだったが。

「だろうな!だとすれば下に行こうが上に行こうが頃合いを見て本体が出る!」

 左の角を曲がって階段に駆け込むと、切れかけの電灯がちらつく踊り場を数段飛ばしで登る。早回しのツタ植物めいて、その後を触手が埋め尽くしていく。いまや使いまわしのホテルは下から上まで隙間なくのたうつ触手が詰められた押し寿司だ。足を止めればすぐさまもみくちゃにされてすり潰されてジ・エンドだ。

 階段の天井がとどまる、屋上へつながる鉄扉を蹴り破って、都会とは思えないほど輝きに満ちた星空の下へと飛び出した。屋上を何重にも取り囲む触手の檻がなければ、あるいは良い眺めといえたかもしれない。

「こりゃ、いくらなんでも初対面がやるこっちゃない」
「まあ、彼だろう」
「フハハハハハ!そのとーり!復讐するは我にあり!」

 ホテル全体を揺るがす笑い声とともに、巨大な何かが正面にせり上がってきた。小山ほどのまるっこいシルエットの真ん中に、非常滑り台めいた管が取り付いている。そして管の両脇には蠢き正面を注視する水晶玉の目玉が鎮座していた。色が紫紺であることを除けば、そう、巨大なヒョットコである。もっとも首元にあたる箇所から無数に触手を伸ばすさまはおぞましいの一言だったが。

「よくもよくもよくも!昼間は世話になったな腹立たしい狩人ども!先は遅れを取ったが貴様らのおかげで小生、神なる露出に開眼なったならば、もはや貴様ら哀れな非脱衣者など物の数ではない!」
「居たっけこんな奴」
「オク・ダークである!!!あれからまだ一晩もたってないであるぞ!?」

 とぼけられて、巨大ヒョットコタコこと完全露出体オク・ダークは怒りに震え、その余波でもってホテルまでも夜の闇に打ち震えさせた。

「まあよいのだ!ふざけた態度を取れるのもここまで!貴様らそろって念入りに引き裂いてくれる!」

【全裸の呼び声 -40-:終わり|-41-へと続く第一話リンクマガジンリンク

注意

このものがたりは『パルプスリンガーズ』シリーズですが、作中全裸者については特定のモデルはいない完全架空のキャラクターです。ご了承ください。

前作1話はこちらからどうぞ!

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