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冥竜探偵かく語りき~生体迷宮停滞事件~ 第一話 #DDDVM

あなたは、迷宮というものを体験した事はあるだろうか。
ない?実に結構。迷宮とは、暗く、複雑であり、罠に富んでいて、その上日のあたる世界では存在し得ない怪物達もいる。決して迷い込んだ者を生きては帰さない代物が迷宮だ。その様な危険に縁がなかったのは、実に恵まれています。

あなたが迷宮に縁がなかったのは実に結構なことだが、そうなると今度はこれから起こる事件について説明するのは、少々骨が折れる話になるでしょう。なにせこれから私が語ろうとしている事件の犠牲者は、生きとし生ける迷宮なのですから。

申し遅れました、私はシャール・ローグス。同胞より『冥竜』の冠位をいただく、しがない謎解き屋です。

今回は、私が光栄にも女王陛下より仰せつかった、生ける迷宮の殺害事件、その顛末についてお話しようと思います。どうか、最後までお付き合いいただきたい。

―――――

私の助手であるところの、ワトリア君が掛けている眼鏡越しに見る謁見室は、アルトワイス王国の規模からすれば質素ですらある印象を受けた。
とは言っても、白亜の建材を基礎に金の縁取りが施された室内に、竜の私から見ても上質であることが見て取れる真紅のカーペットは決して安価な代物ではない事がわかる。

そして謁見室ということは当然、この場にいるのは女王陛下にほかならない。陛下はワトリア君の正面に位置する玉座に、年若いながらも一国の長に相応しい威厳と共に座していた。

陛下は落ち着きのある純白のドレスをまとい、豊かな灰銀の髪をシニヨンと呼ばれる後頭部に編み上げる髪型でまとめ、その空色の美しい瞳には大いに憂いをたたえてワトリア君を見つめて……いや、彼女の視線は明らかに眼鏡越しに私の存在を見つめていた。

女王陛下の向かって左側には、蒼銀の装甲鎧をまとい金糸の髪をみつあみにして流した女性の護衛騎士が、右側には慇懃な表情を隠そうともしない、自信家らしき襟高の紅く豪華さの目立つ服装の大臣が控えている。しかし、彼らの他には謁見室には誰もいない訳だが。

「じょっ、女王陛下におかれましてはご機嫌麗しく……!」

よもや謁見の機会など想定していなかったであろうワトリア君は、可哀想に私と初めて会った時以上にカチンコチンにこわばった様子で、大仰な挨拶を述べようとした所を慇懃な大臣に遮られた。

「ああ、ワトリア君だったか?そんな硬くならんで良いぜ。ここにいるのは陛下の他には頭の硬い騎士殿とこの俺、だけだかんな。ハッハ」
「イルギス!いつもの事ですが、陛下の前でその様な言い振る舞いは……!」
「おいおい、それこそ今にはじまった事じゃねーだろ?それに今回は緊急事態ってやつなんだから、客人に硬く緊張される方が話が進まない。違うかい?」
「むぅ……」

イルギスと呼ばれた大臣に口ではかなわないのか、護衛騎士殿は整った顔立ちの頬を可愛らしく膨らませて押し黙る。そんな中、満を辞して女王陛下が口を開いた。

「シャール、私の声が貴方には届いていますか?」

【冥竜探偵かく語りき~生体迷宮停滞事件~ 第一話:終わり|第二話へと続く第一話リンクマガジンリンク

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