刀削麺荘 陶家 #AKBDC
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刀削麺荘 陶家 #AKBDC

 残暑を忘れ去ったかのように爽やかな秋風の吹く9月。秋葉原は過疎っていた。大体、疫病禍のせいである。商店立ち並ぶ大通りをまばらに行き交う人こそいるが、以前に比べたら随分と人通りも少なくなったと言えるだろう。

 一時期の名物とされていた客引きエセメイドコス嬢も随分と間引きされ、引っ掛ける相手もおらず待ちぼうけしている有様であった。とはいえ、アキバはアキバ。オタクショップは観光客過疎の逆風にも負けず、しぶとく存続しているのである。

 ホイズゥも、そんなアキバの恩恵に預かりに来た一人であった。

「フゥーッ……まさか期間限定トーナメント優勝賞品が、リーズナブルなお値段で手に入るとは思わなかったぜ」

 手に広げるは、きらびやかな意匠をまとった少女や、その衣装だけが描かれているカードだ。彼がプレイしているアーケードゲームにて提供される物理カードであり、さらに期間限定とかトーナメントバトル優勝とかそういう難儀な入手条件があって簡単には手に入らない物もザラなのである。そのような希少品も、インターネットを除けばまだまだ秋葉原が一番手に入る可能性が高い。

 そそくさと戦利品を厳重なカードファイルにしまい込む。他所であれば不審がられること間違いなしだが、ここ秋葉原においてはそうではない。みんなやっていることであって、不審でもなんでも無いからだ。

「ハッハ、危うく辛い麺予算まで使い切っちまうところだったがなんとか残したぜ」

 彼は自身が出てきた表通りに面するリユース品オタク・ショップから左手にまがると、裏通りへと滑り込む。少ない人通りは、大通りにくらべるとより一層すくなく、観光地めいた華やかな店並びから一点してマニアックな電機品店やパソコン・パーツショップ、レトロゲームショップなどが息をひそめるようにして存在していた。

 裏アキバ。かつての電気街としての面影をいまだ色濃く残すのがアキバの裏通りである。だが、アキバ裏通りにはもう一つ語られるべき顔がある。飲食店だ。

 今でこそ大通りに面する通りにはチェーン店系の飲食店が増えたが、以前はアキバで食事というと、駅ビルのソバ屋だったり、東側昭和通りなどに抜ける必要があった。そしてもう一つの選択肢が、西側の大通りから裏手に入った裏通りの個人経営店である。

 だるそうにチラシを差し出す客引きに手振りでNOを知らせつつ、ちょっと裏を進んだ辺りに、その店はあった。

 ドス黒い赤背景に墨字で陶家と看板を掲げているこじんまりとした店。中は外から見える範囲でもわかるぐらい狭く、L字のカウンターに5人ちょっとしか座れない。そのため、券売機は店の外にほっぽりだされている。

 券売機は上から、麻辣麺、担々麺、汁なし麻辣麺と汁なし担々麺など、いかにも辛い麺の店といったラインナップ。ホイズゥはしばし勘案した後、激辛麻辣麺、大盛り、全部のせ、花椒増しをセレクトした。

「フフンッフッフッフーン」

 新たな辛い麺との出会いに期待して鼻歌歌いながら、カウンターに座って食券をつきだす。特に確認事項もなく、中年の店主は食券を受け取り調理に移る。取り出される麺の塊。およそレンガ一つ分ほどのサイズ感があり、店主の眼の前にはグツグツ煮えたぎる鍋。

 店主は奇妙な薄い鋼鉄の刃を取り出すと、一定のリズムで前後に往復させる。なんと麺を!削ぎ落としているのだ!鮮やかな手付きで練小麦粉の塊から太麺が削ぎ落とされ、煮えたぎる鍋へと射出されていく。程なくして鍋から引き上げられるきしめんより一層平た太い麺。

「ハァイオマチドゥー」

 ドンッ。カウンターに大ぶりのどんぶりがおかれる。赤と茶の入り混じった刺激的朱スープに、鮮やかな緑葉がトッピングされ華やかに彩っている。

「よし、勝負!」

 混ッ!混ッ!混ッ!感謝の混ッ!手にした割り箸によって目の前の辛い麺をガンガンにひっかき混ぜていく。辛い麺メントではおなじみの混ぜ工程。これを行うことによりまだスープ内に偏っているであろうスパイシーな辛味成分をまんべんなく混ぜ込み、麺に染み渡らせるのだ。この工程を行わなければ思ったほど辛くなかったり、かと思うと辛み調味料の塊を噛んでしまって七転八倒する悲劇が起こりうる。

 しっかり混ざった頃合いを見て、あせらず、あわてず麺を食らう。焦りは禁物、未知の辛い麺勝負において大量接種は香辛料が喉を焼き戦闘不能に陥る危険がある。一気にかきこむのはダラダラ食べられないほど辛い時の奥の手だ。

 辛、そしてワンテンポ遅れて痺れ。暑く平べったい、くさび形にして切断面がフリル状になった刀削麺は刺激的な味わいのスープをたっぷり身にまとって襲いかかってくる。

(辛みそこそこ、痺れ強め、合間のパクチーが丁度いいアクセントってことだが、ここの麺は厚ぼったくてスープがしっかり絡んでくるのがイケてる)

 そう、刀削麺の特徴とはその製法による不揃いさ。今では機会式製法によって揃った麺を出す店も日本では増えてきたが、この店は昔ながらの人の手のあたたかみが残る手削ぎ式なのだ。

 この特徴的な削ぎのため、刀削麺は店によって麺の作りが大きくことなり、一口に刀削麺と言っても食感も味わいも大きく異なる。スープも合わせて考慮すれば、全くの別物と感じられることも珍しくないだろう。

 麺をつまみ上げると、ラーメンの極太麺と比較しても比べ物にならない平べったい麺が辛みスープをふんだんにまとって顕現する。一本すすると歯ごたえのあるもっちりとした麺が内なるスープを開放し口の中で暴れ狂うではないか。

 麺をすすり、ボリューミィな煮込み肉を食いちぎり、レンゲで底に残った麺の断片をかっ食らう。どんぶりを傾けスープの最後の一滴まで飲み干すと、ホイズゥは辛い麺スチームタービンと化した。

「フゥーッ、ごっそさん」

 辛すぎず、さりとてぬるすぎず、丁度いいくらいの塩梅に、ホイズゥは笑顔でドンを戻した。

「アリガトーッシター」

 麺物屋特有の感謝の言葉を背に受け、ホイズゥはアキバ裏通りに退出。日はまだ高く、宿に戻るには少々早い。秋の残陽が行き交う人々の影を伸ばしていた。

「ウシッ、せっかくだからジャパニーズ・スーパー・銭湯の実力ってやつをみてやろうじゃん?」

 秋葉原にはゲームもカードもおもちゃも辛い麺も銭湯も、あるものは大体あるが無いものはない。今も昔もそういう街なのであった。

【終わり】

作中の辛い麺店舗のモデル店

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