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全裸の呼び声 -18- #ppslgr

「バー・メキシコの与太話」

 双方の見解が一致していたことを確認すると、レイヴンは目元に手を当てて天を仰いだ。テーブルに置かれた二人のスマホには、およそ一年ほど前のSNSキーワード検索画面が表示されている。検索ワードは、もちろん「ドブヶ丘」だ。

「およそ一年ほど前に、バー・メキシコの常連が連想ゲームめいた非実在都市の大喜利をはじめた。その中枢部こそが、今俺たちがいるドブヶ丘」
「私も段々と思い出してきた、昭和期のガバガバ環境倫理を土台にああでもないこうでもないと、ろくでもないモノを積み上げ続けた結果出来た集団幻覚的な、存在しないはずの街」
「どいつもこいつも、実在しないのを良いことに片っ端から汚染物質だの産業廃棄物だの、果ては低倫理鼻つまみ者やら突然変異やら、思いついた汚らわしい存在をまるごとぶち込んだ最悪の場所に……俺たちは首を突っ込んだって訳だ。いやはや、これはもうブッダかオーディンに抗議でもしないことにはやってられんな」
「彼らのうち、誰かがこの一帯を作り変えたって可能性はあると思うかい?」
「それについては、きわめて低い方だな」

 まともに呼吸も出来ないとは、これほどストレスフルだったとは。黒ずくめはささくれだつ自分の精神をなだめつつ、問いに答える。

「別世界を作るなら、もっとリターンのある環境も選べるし、人のいない場所も選べた。対してコストとリスクはバカでかい、どちらかと言うと異界化の新技術をテストするに当たって、他所の他人がドブヶ丘妄想を拝借したって方がまだありそうだ」
「確かに」
「もっとも、今回の件は何もかも正気とは思えんから、まともなプロファイルは無理があるのも事実だ」

 この件については、より多くの情報を追うという黒ずくめの提案に、うなずく教授。

「次、あー、んー、アレだ」
「光の露出者?」
「ソレ。アレについては俺はこれっぽっちも耳にしたことがない。なんなんだありゃ」
「彼はおそらく、闇の露出の氾濫を防ぐ使命を背負った裸道流忍術の継承者だよ」
「にんじゃ、裸道流」

 裸道流忍術。
それはかつて……己の武を追求した忍びの者たちが、着衣の限界に至って脱衣による人間の限界能力の逸脱に着目し開眼した後に、歴史に秘された忍道である。

 かつて伊賀、甲賀、風魔など……名だたる忍びの里において、偶然にも同時期に露出の可能性に目覚めた達人たちは、己の露出道を極めるべく抜け忍ののち、志を同じくする者たちと合流。岡山の秘境にて裸道流を開いたのである。

 しかし、忍道でありながらその人外の域に到達した武の極地は、しばしば常軌を逸した殺戮を伴った。ゆえに、その有り余る危険性から裸道流は歴史書に記されることなく……時代の闇の奥底へ封じられたという。

「つまり、アレはドブヶ丘の住人じゃなく、昔からいる現実の存在だと……」
「まあ、そうなるね」
「今日一番のバッドニュースだ。光の露出者VS闇の露出者とか、この世界は一体全体どうなってるんだ全く」

【全裸の呼び声 -18-:終わり|-19-へと続く第一話リンクマガジンリンク

注意

このものがたりは『パルプスリンガーズ』シリーズですが、作中全裸者については特定のモデルはいない完全架空のキャラクターです。ご了承ください。

前作1話はこちらからどうぞ!

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