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全裸の呼び声 -33- #ppslgr

 古来より、アーサー王伝説を引用するまでもなく聖剣魔剣のたぐいは引き抜く者を選ぶという。大多数は抜けなかった程度で掴んだ者を滅ぼしたりはしないが、目の前のコレに限っては近寄っただけでも常人ならば発する瘴気に取り込まれ、狂死、あるいは壊死するであろうことは確実であった。

 実際、間近にみれば一層禍々しく、その艶めく黒曜石めいた刀身の根本には、グズグズに崩れた何者かの遺骸が散見される。もっとも崩れすぎて何人犠牲になったかはまるで判然としない。

 そしてこのドブヶ丘の支配者は、掘っ建て小屋の影からひょっこり顔を出してはレイヴンとアノートの間を視線を行き来させ、どう切り抜けるのか見定めていた。

「ええい、やってやるとも!」

 意を決して、このおぞましき刀の柄辺りに手を添え、一息に引く。触れた先から一瞬の激痛が脳裏に走り、それはすぐに無感覚へと移り変わった。辛うじて握りしめた手は青紫に変色し、ほとんど感覚がなくなっていく。

「む……くぅ……っ!」

 じりじりと刀が抜けるのが見て取れたが、まもなく視界も赤く濁った後に途絶し、真なる闇が訪れた。あるいは、意識が残らなければ死とはこんなものかも知れないとさえ思考によぎった。最後に残った聴覚に、けたたましいカニオストロの哄笑が響いてくる。

「シューハッハッハッハ!何をやるかと思えば勝ち目がないと見ての自殺行為、実際哀れ!だが何かの間違いも起こらんようワガハイが介錯してくれようぞ!」

 勝機を見たカニオストロは、アノートの大口径弾を曲線甲殻で受け流しざまに踏み込み、あの恐るべき溶解バブルブレスを放った!一見ファンシーですらある殺戮泡の群れが、死に体の黒い影に殺到!その時であった!

「南無……散ッ!」

 今にも腐れ落ちる寸前だった黒い影は、内側よりどす黒い紅焔を噴き上げ、一喝と共に突き立てられた刀を引き抜く!返す太刀で迫りくる破滅シャボンを一刀両断!黒刀の描く軌跡は禍々しい瘴気をともなって、一斉に泡を飛沫に変える!

「シューッ!?バッ、バカナーッ!?」

 ほぼほぼ死に体だった存在が猛威を振るう姿にカニオストロが硬直した瞬間、廃棄物の大地から多種多様きわまる瓦礫がせり出し、彼を引き倒して拘束したではないか!?その様はまるで地獄の断頭台めいた惨状である!

「露ーッ!?うごか、動かん!ありえん!惰弱な非脱衣者の技に、この、ワガハイが!」
「一度あったら当然二度ある、もっとも三度目はないね、ご愁傷さま」
「ウワーッ!きさまっ、きさまっ、よもや最初から隠し玉を!」

 カニオストロは戦慄した。いかにも有効打と言わんばかりのあの強制着衣攻撃は、注意を引くためのいわば見せ球だった。彼らはカニオストロが手札を出し切るのを待ち構えていたのである。

「ウワワワワッ!来るなッ!来るなーッ!」

 いまやマナイタの上のカニとなって、泡を噴くカニオストロの眼前でどす黒い閃きが弧線を描いた。

【全裸の呼び声 -32-:終わり|-33-へと続く第一話リンクマガジンリンク

注意

このものがたりは『パルプスリンガーズ』シリーズですが、作中全裸者については特定のモデルはいない完全架空のキャラクターです。ご了承ください。

前作1話はこちらからどうぞ!

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