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【連載ごっこ】榮野ハルの備えあれば無限大。

第1回 備えよう、好きな人が隣の部屋に引っ越してきた時のために。


「備えあれば憂い無し」という言葉があるが、あれは嘘だ。

「普段から準備をしておけば、いざという時何も心配がない」という意味だが、想定外の事が起こり得る人生の中ですべてが完璧に備えられるわけがないし、第一備えておいたとて不安は不安なのだ。だがその上で、何故この言葉が生まれたのかといえば、人間はやはり大きな音がする前には耳の準備をしておきたいし、おばけが出る前には心の準備をしておきたい臆病な生き物だからだろう。それが意味があるかないかは別として。

そんなわけで私は、明日起きるかもしれない出来事についてうじうじと考え、それに応じた準備をしていこうと思う。意味があるかないかは別として。


今日も今日とて暇な私は、朝から自室の勉強机に向かい「明日好きな人が隣の部屋に引っ越してきた時」に備えて、必要なものや対処法についてじっと考えていた。

設定としては私が一人暮らしをしているアパートに高校の時に好きだった彼が引っ越してくるという感じにしよう。


まずマンガやドラマで定番なのは、引っ越しの挨拶でお互いに気付くというシーンだ。二次元では夏っぽい涼しげなワンピースやキュートな部屋着でお出迎えし、久々にあって可愛くなってる&ちょっとラフな感じに彼はたまんねえ。モードになり、軽く一目惚れするのがテッパンだが、実際には家にいる時にコンディションが整っている瞬間というのはそうない。

ピーンポーン→誰か来た→はーい。→インターフォンを覗く→啓くんだ。。え?なんでいるの?


そんな精神も身なりも準備ができていない不意打ちな状況を打破するために、最善な備えとはなんだろうか。まあUberEatsのように手土産玄関配達にすれば話は早いが、それでは礼儀もないしなにより恋が始まるきっかけを失ってしまう。ゲームなら何度でもやり直せるが、実際にはそうは行かないから、真剣に考えていこうと思う。


私は最初に考えたのは、防水部屋着作戦だ。

部屋着に予め撥水加工を施し、ピンポンされたら歯ブラシをくわえ、そのまま風呂場で水を頭からかぶって、拭きながらドアを開ける。これで、今準備してる所なんだけど。と言う風に見せかけられる。タオルを頭からかけて出れば寝癖問題も解決、歯ブラシをくわえながらであればミントの匂いしかしないだろう。

しかし、これには何点か問題点がある。まずは全く可愛げがないということ。

すっぴんで髪が濡れ、撥水加工によって弾かれた水がワンピースから滴っている姿は、もはや幽霊だ。好きな人に悲鳴をあげさせては意味がない。そして歯磨きをくわえているため、口を聞けないということだ。話していて歯磨き粉が口から出て彼にかかるなんて事があったら、私は一生立ち直れないだろう。


それならあれだ。Vtuber作戦をするしかない。

玄関を開けたところにスクリーンを用意しておいて、Vtuberハルちゃんを映す。これで私のおブスな姿を見られなくても引っ越しの挨拶ができるというわけだ。これで彼もメロメロだ!!いやだめだ。私ではなくVtuberハルの方に惚れられたら元も子もない。私ではなく彼女に会いに彼がうちに通うようになってしまったら困るしな。あと面白がって「隣の部屋に住むVtuberに引っ越しの挨拶した結果wwwww」などという動画をあげられるリスクもある。うちが名物ハウスになって地域の子供達がピンポンダッシュしに来るようになってしまったら。そしたら思い切って自宅を「Vtuberハルのお悩み相談所」にし、玄関に入ってきたお客さんのお悩みを聞くという2.5次元テーマパークにせざる負えなくなってしまう。そしたら私自身もVtuberを本格的に目指そう。まあそんな甘い世界じゃないよな。うん。話がそれたが、これは私と彼との恋物語の序章の大切な演出だ。一瞬でも美少女Vtuberに割って入られては、私が霞むじゃないか。これもボツだ。


他にもニホンゴシャベレナイ作戦や近所のおばちゃん作戦など様々な方法を考えてみたが、私は根本的なことに気づいてしまった。私の住んでいる部屋は今、両隣に人が住んでいる。しかもどちらも温厚な老夫婦であるため、転勤で引っ越したりということもなさそうだ。これでは彼が引っ越して来るのを待つ間にババアになっちまうよ。

これは逆に自分が好きな人の住むアパートに引っ越すしかなさそうだな。

今度は自分が好きな人の家に挨拶に行くことに備えておかないと。

えいの・はる
大学生(18)。空想と妄想が趣味。最近占いで「OLだけは向いていない」と言われる。ブレイク時期未定。夢は雑誌連載とANNをやること。

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