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短編小説・シナリオ集

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短編小説・オートフィクション・シナリオ・詩 etc.. 日常のワンシーンを切り取った世界 音楽からインスパイアされた世界 フィクションとノンフィクションの境にある世界 そんな…
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2022年6月の記事一覧

【短編小説】雨の土曜日/紫陽花と蕎麦と海老のスープと

【短編小説】雨の土曜日/紫陽花と蕎麦と海老のスープと

3日前、私たちの住む地域も梅雨入りが発表された。

発表される前日から毎日雨だ。

しとしとと降る雨は割と好き。

今日は、そんな雨。

そして、梅雨入りをして初めての週末。

夫のまこちゃんが昨日雨の中買ってきてくれた新しい珈琲豆を丁寧に煎っている。
土曜日の朝のこの時間がとんでもなく愛おしい。

私たちは結婚してもうすぐ10年。
子供はいない。
2人で望まず、2人で暮らすことを選んだ。

週末

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【短編小説】すだちをきゅっと絞ったような

【短編小説】すだちをきゅっと絞ったような

梅雨がそろそろ明けるかも、というある日。
蒸し暑いがかろうじて扇風機で過ごせるほどの初夏の陽気の中、生ぬるく重たい空気の漂う部屋の中で小さな電子の画面に向かってぽちぽちと文字を刻んでいた。
その滑稽なさまは自分が一番よくわかっている。

あまりの暑さに冷凍庫のいつのかわからないアイスを取りに行き、何回目かわからない小休憩をする。
じっとりと汗を滲ませていた体にアイスの冷たさが伝わる。

スピーカー

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【短編小説】小さな優しい輪の中で

【短編小説】小さな優しい輪の中で

あ!あいだのじいさんだよ。

あいだのじいさん!

いつもの公園で、散歩途中のあいだのじいさんに出会った。
あいだのじいさんは、私と娘だけの秘密のあだ名。
娘が好きな子ども向け番組に出てくるキャラクターの名前だ。
それに似てるというわけでもなく、娘の中でブレイクワードだった"あいだのじいさん"という言葉がしっくりハマってしまったのだ。

毎日毎日、私たちは公園で遊び、あいだのじいさんは散歩をしてい

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