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諸概念について

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日常
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#エッセイ

鳥と9歳

鳥と9歳

小学三年の時、夏休みの自由研究に父親にアニメ制作のスクールに連れて行かれた。アニメとは言っても所謂アニメーションではなくストップモーションと呼ばれる粘土細工を少しずつ動かしては撮影し、それを繰り返すという形式のものだ。子供の頃の僕は羊のショーンというアニメが何故かとても恐ろしくてその手のアニメーションは苦手でどちらかというとワンピースなど2Dのアニメが好きだったのだが。後で聞いた話だけど僕が休み時

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Watercolor

Watercolor

数年前の夏休み、僕は美術予備校の夏季講習に参加していた。デッサンもままならなかった僕はまず丸を描くことからやらされたのだが最初の一週間のうちからやらかしてしまった。徹夜で"水彩の惑星"という小説を書いていたため、退屈な静物画デッサンの途中で居眠りしてしまったのだ。すぐさま塾長に個室に呼び出されて説教されるかと思いきやそんな事はなくやんわりと「君はどんな人なの?」ということを聞かれた。塾長はなんでも

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生活音

生活音

夕方、僕はうとうとしていた。遠くで誰かが笑う。街中で暮らしていると大学生くらいの若い大きな笑い声が聞こえて来たりする事はしょっちゅうある。それが僕の耳に入る時の音量が何dbなのか分からないが隣人の悲鳴などよりよっぽど胸を締め付ける。それは恐らく僕にとってああいう風に道端で友人達と笑い合った経験があまり良い思い出ではないからなのだろう。僕の人生はあまり良いものではなかった。まだ四半世紀にも満たない時

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永遠#1

永遠#1

僕は14歳のクリスマスに母と妹を亡くした。それだけの事は世界にとって大した事ではなく学校や父の仕事など何事も無かったかのような日常がただそこに残されていた。喪に服することを躊躇って僕はひたすら取り繕って笑った。冬休みだということもあり友人達とボウリングにも出掛けた。何事も無かったように振る舞う、そうでないとやりきれなかった。ただ、町中の人達が集まってくれた葬式の途中で僕はえぐえぐ泣いた。みんな哀れ

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