見出し画像

西瓜の魔法

何をするにも「夏じゃなければ」なんて思う。
ごめんな。夏。だけど、大っ嫌いなんだ。

夜でも窓を開けると風邪をひくほどヒンヤリと
涼しい夜。はやく、札幌の和室に帰りたい。

こんなにもジリジリと、肌を突き刺すような
太陽とは、一生仲良くなれないんだから。

だけど昨日だけは。君と過ごしたあの夜だけは。

「これ、差し入れ〜」

せっせと1時間も自転車を漕いでやってきた恋人が
大きな西瓜を持ってやってきた。

ス、ス、スイカ、、、。

夏の具現化、スイカ。全夏の神様、スイカ。
わたしは、スイカのこともちょっと苦手。

ベトベトになる手も、種を口から出す仕草も、
もう、全部を放り投げたくなる。イヤイヤ!!!

けれど、大好きな恋人がこんなに汗だくになって
持ってきてくれたから。

見て、この達成感溢れる満面の笑み。
絶対に、絶対に、美味しいって言わなきゃ。

ビー玉をポンと落として、ラムネで乾杯。
神社の木陰で、小さく並んで、せーのでかじる。

あ、あまい。え、あま。美味しい。
タネだる、でも美味しい。うわタネ、またタネ。

ぽとん。ぽとん。

私が一口かじる度に、そっと横で広がる白い袋。
気遣って、明後日の方向でラムネを飲む恋人。

口の中でタネを選別すればするほど、スイカの
果肉と果汁が溢れ出してくる。

この無駄が、面倒さがあるから、スイカをもっと
食べたいと思ってしまうのかもしれないね。

気づけば、私のスイカは真っ白になっていた。

「夏、万歳だね」

ほんとうに、そう。

夏のことは嫌いなままだけど、君の隣で過ごす
夏だけは、ちょっと好きかも。

大嫌いが好きになるって、恋の魔法だ。
君の魔法で西瓜を馬車にして、星空を渡ろうか。


君のために着た浴衣。顔が熱いのは、夏のせい。
だけじゃない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?