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短編小説集: 月夜を見上げて 【完結】

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仕事や子育てに邁進する人々が時として落ちいる心の隙間。 そこからどうやって這い出すでしょう? 頑張っている人には、いつか救われる時が来る。 平成から令和始めの時代を駆け抜け… もっと読む
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短編小説:助けて

短編小説:助けて

私はその年、初めての子供を授かった。元気な女の子。

待望の子供だった。

私たち夫婦は、中学生の時の同級生だった。巧は常に前向きな人で、一緒にいて心地の良い人だ。なんとなくこのまま一緒になるのだろうと思って一緒の時を過ごしてきた。巧もそのように感じてくれていたようだ。

高校後の進路で、私は四年生の大学でフランス語を勉強したいと彼に行った。巧は快諾してくれた。

「弥生がそうしたいなら、やって来

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短編小説 : 家族の形

短編小説 : 家族の形

「パパ、今日は早くおむかえにきてくれる?」

「うん、早く帰ってくるからね。今日も一杯楽しんでおいで」

「うん!じゃーね!バイバイ!」

そう言って長女は保育園の部屋の中へ駆けだしていった。
出席簿に記入し、お弁当を西村先生に預ける。

「新田さん、おはようございます。小雪ちゃん、すっかり元気になって良かったですね!」

「はい、もう熱もすっかり下がりました。今日もよろしくお願いいたします」

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短編小説:同窓会

短編小説:同窓会

今まで沢山恋をしてきたけれど、学生時代の恋は未だに忘れられない。

正也とは大学のディベートサークルで知り合いすぐに意気投合した。偶然にも同じ埼玉県出身ということでも親近感があった。

商学部にいた正也は賢くて明るくてスポーツ万能。知的な会話が楽しめる彼は、私の自慢だった。

大学同士のディベート大会でも常に優秀な成績を収める正也は、皆が一目を置く存在になった。

正也と一緒に帰りたいがために、本

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