松下杏奈

元旅行会社員。世界のお酒と旅に纏わるエッセイや、様々なジャンルの小説などを書いています…

松下杏奈

元旅行会社員。世界のお酒と旅に纏わるエッセイや、様々なジャンルの小説などを書いています。お気軽にフォローしてください。小説やエッセイを世界各国のAmazonで販売中です。https://amzn.to/3nMy47W https://amzn.to/3I7pjMp

マガジン

  • 昔語り: 外国語と海外生活

    昭和から平成にかけて、これまで経験してきた外国語との付き合いや、海外生活の思い出を纏めています

  • 短編小説集: 昔語り : バブル期の日本の片隅で

    バブル期という日本が経済的に盛り上った時代。その時代、日本は海外をどのように見ていたのでしょうか。アメリカ礼賛が讃えられ、英語学習が未曽有のブームになったバブルの最後の数年間の事象を、主に学生の目で振り返った短編小説集です。

  • 昔語り:小さなインターナショナルスクールの思い出

    今は昔のさる国のインターナショナルスクールでののんびりした珍道中を綴ったエッセイ集です。

  • 室町芸人シリーズ④ 芸人一座の女達

    室町時代も終わる直前、芸人一座では新作の舞作りに挑戦していた。上手くいかない所に救いの手を差し伸べてくれたのは、遠く京都にいた兄弟子だった。室町芸人シリーズ、最終巻

  • 短編小説集: 月夜を見上げて 【完結】

    仕事や子育てに邁進する人々が時として落ちいる心の隙間。 そこからどうやって這い出すでしょう? 頑張っている人には、いつか救われる時が来る。 平成から令和始めの時代を駆け抜けたカップル達の葛藤を描いた、少しほっこりできる短編集です。

最近の記事

  • 固定された記事

小説:バブル期の日本 : 帰国子女はずるい

あたしは人に負けない。絶対。 小さなころからあたしはアメリカに憧れてた。 昭和の時代、日本はアメリカの情報で溢れていた。 アメリカはやっぱりすごい。 何においてもすべての分野で世界で抜きん出て優れている国。 スケールが日本の何倍も大きくて、自由がある国。 世界一強くて影響力のある国。 豊かで、一流の物が数限りなくある国。 模範にすべき国。 追いつけ、追い越せの国。 素晴らしい国アメリカ。 夢の国、アメリカ。 世界中の人々が憧れてやまないアメリカ。

    • 小説:帰国子女はずるい:子供は絶対バイリンガル

      「キャレン、ノー。ユー プレイ ウィズ ヨゥラ フレンズ ヒアール カレン、ダメよ。こっちのお友だちと遊びなさい」  東京の瀟洒な高級住宅地の一角にあるプリスクール。三歳になった三女のカレンを連れたあたしは、勇んでスクールの中に足を踏み入れた。 シンプルかつエレガントな作りのホールには迎えの先生方がおり、あたしたちは自己紹介をして中の教室まで連れて行ってもらった。 プリスクールの大きな教室には、大きな籠に入ったおもちゃとカラフルな沢山のクッション。テディベア

      • 昔語り:イギリス英語が間違いだった時代

        今から約30年前ほどのこと。 筆者は大学で英語を専門に学ぶ学科に入ったのだが、そこで一か月以内に同級生からかなり厳しい言葉を浴びせられた。 ある同級生が授業の後つかつかと寄ってきて、大声で「あなたの英語は間違っているのよ!」と言った。 大学に入る前、筆者は親の仕事の関係で中学の途中からイギリスで暮らしていた。かの地ではなかなかアメリカ英語に触れることも無く、そのまま地元の発音やスペリングを学んでいた。 ご存じの方の方が多いかもしれないが、イギリス語圏とアメリカ語圏では

        • (詩)十七の君へ

          毎日が目まぐるしくて 細部に気を使えなくて 友達からは「鈍感」と言われ 気が付かないうちに人が離れて行って。 どうして生きているのかなんて 自分がどうして鈍感だなんて 考える間もなく忙しい日々が過ぎて行って。 明日が見えづらくなることもあって。 将来の事なんて漠然とし過ぎていて 自分が何者になるのかぼんやりとしか分からなかった。 大好きな友達 あと一歩で近づけた恋 ただじゃれあっていただけでも幸せだった瞬間 それでも不器用な自分に自信が無くて 前に一歩出る勇気が無かっ

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        小説:バブル期の日本 : 帰国子女はずるい

        マガジン

        • 昔語り: 外国語と海外生活
          8本
        • 短編小説集: 昔語り : バブル期の日本の片隅で
          7本
        • 昔語り:小さなインターナショナルスクールの思い出
          2本
        • 室町芸人シリーズ④ 芸人一座の女達
          6本
        • 短編小説集: 月夜を見上げて 【完結】
          3本
        • メルクリウスのデジタル庁の年末 【完結】
          21本

        記事

          連載小説:室町時代劇:龍を探して

          「小雪、今度の舞はお前がやれよ。五頭龍は確かに男役だが、お前以上に舞える奴はいないんだ」 耳にたこが出来そうな言葉。もう一か月以上、吉丸や保名が何度も男舞を舞えと言ってくる。うちは飽き飽きしていた。 舞の主題はうちも大好きな「江の島縁起」。何年も前に絹姐さんや幸兄さん達と一緒に半年かけて相模の鎌倉まで巡業した際、立ち寄った江の島で聞いた伝説だ。 京丹波から半年かけた巡業。東へと向かう先々には傀儡女や遊女、白拍子など旅をして芸を見せる女たちが山の様にいた。 唄に奇術、舞

          連載小説:室町時代劇:龍を探して

          昔語り:エッセイ : 大学がレジャーランドと呼ばれていた時代

          1980年代後半から1990年代の初頭まで、大学はレジャーランドと呼ばれていた。 筆者か通ったのは東京の都心、山手線の中央付近にある私立のミッション校だった。ここは学科にもよるが、筆者のいたクラスはかなりのレジャーランドだった。 授業に出席し、下手すれば教授に提出する出席証を友達に代筆してもらい、授業に出席すれば欠席とはみなされず、下手するとレポートさえ出せば単位がもらえる授業が溢れかえっていた。 一般教養の授業では学生に伝える気も無い授業内容を,マイクも使わず小さな声

          昔語り:エッセイ : 大学がレジャーランドと呼ばれていた時代

          連載小説:室町時代劇:仮面の笑顔

          「花,稽古は進んでいるのかい」 渡り廊下でぐったりしていたあたしに吉丸兄さんが尋ねた。 「ぜんぜん。小雪姐さんにとっくりと絞られてる」 「まあ、小雪も真剣になると癇癪を起しやすくなるからな。それだけお前さんに真剣に向かっている証拠だよ。きっちり稽古しときな」 「でもこのままじゃお披露目にまにあうかどうか・・・」 「まあ、そんなに心配するなって。そろそろ昼餉だ。外の井戸で顔でも洗っておいで」 あたしは疲れ切った体を引きずって外の井戸へ行った。一年を通じて冷たい水が顔

          連載小説:室町時代劇:仮面の笑顔

          昔語り : 英語教育へのプライド:ある北欧の人の例

          今から40年ほど前の事。 初めてその子を見た時、緊張しているのかと思った。 あるインターナショナルスクールに転校した初日、私を含めて三人の生徒が階段の下に集められ、ホームルームの先生の準備が出来るまで待つように言われた。 その子は階段に腰を下ろすと、目も上げず、手を組んで下を見ていた。 まるで周囲から自分を遮断しているかのようだった。 いやな沈黙が流れそうになっていた。 インターナショナルスクールは基本様々な国から生徒が集まっている。 無難な話題をと思い、その子に「

          昔語り : 英語教育へのプライド:ある北欧の人の例

          連載小説:室町時代劇(5):芸人一座の母

          「おふくろ、行ってまいります!」戸口で吉丸の大きな声が響いた。 「行っといで!怪我しないんだよ!」 ここ芸人一座での毎朝のやり取りだ。町の四つ辻で芸を見せるあの子たちは、危険が伴う軽業を毎日の様に見せている。幸い、これまで大きな怪我をした子達はいないが、それでも送り出す側としては、やはり心配は隠せない。 末の息子の吉丸も今年で三十二歳。多分この子がうちの座を継いでくれるだろう。 上の四人の息子たちは、それぞれの一座を立ち上げて忙しくしている。何年かに一度、旅巡業で京丹

          連載小説:室町時代劇(5):芸人一座の母

          コングラボードを頂きました

          今朝noteを開けたら嬉しいお知らせがありました。 ありがとうございました! 読んで頂き、光栄です! 感謝!!! 連載もまだ続きますので、また読んで頂けると幸いです。 今回ボードを頂いた記事はこちらです。

          コングラボードを頂きました

          連載小説:室町時代劇(4) 母子の再会

          「座長、ご用事が終わったら家の修繕をちょっと見て下せえ」 一座の若いものが声をかけてきた。 私は文をしまうと、よいっと声をかけながら立ち上がった。 京丹波の正吉さんからの手紙が届いたのはその春の事だった。 座員達と住んでいる長屋がどうにも傷んできていた。長年大家さんに修理を頼んでいたものの、息子の代になっても修繕する気配も無かった。 もう長らく屋根が傷み雨漏りが続き、最近になっては壁に大きな穴まで開く始末。壁の大穴を二代目の大家さんに見せたところ、しぶしぶ建て替えに

          連載小説:室町時代劇(4) 母子の再会

          連載小説(3):室町時代劇:あの人との出合い

          【一つ前のお話はこちら】 「保名、おやじさんがお呼びだよ。子供たちの稽古が終わったらおやじさんの部屋に行っとくれ」 「分かったよ。おい松太郎、いろはを浚っておくんだぞ。終わったら次はお前の名前を書くんだ」 「保名兄さんの意地悪!おれの名前は梅よりも長いんだぞ!」 「兄ちゃん、早うせんと昼餉に間に合わんよ」 稽古が滞りがちな日々を送っていたある日、俺と徳二はおやじさんに呼ばれた。 母屋の南側にある部屋に入ってみると、おやじさんが珍しく寝床から起き上がって俺たちを待っ

          連載小説(3):室町時代劇:あの人との出合い

          短編小説:学校のガールズ・デイ

          目覚ましが鳴っている。もう起きなくちゃ。 カーテンを開けると日差しが目に飛び込んでくる。 今日はガールズ・デイだ。と言っても私達同級生女子にしか分からい内緒の日。 今学期の私達4年生(高校一年生)の金曜の最後のクラスは体育。 といっても、小さな学校なのに体育のスポーツの種類が二つも用意されている。 スクールバスのドライバーのマークさんとジョセフさんが体育教師の免許を持っているので、一グループは近所の公園でサッカー、もう一つはその日に借りられた体育館でできるスポーツな

          短編小説:学校のガールズ・デイ

          連載小説(2):室町時代劇:芸人一座の娘

          「梅、そんなところで何してんだ」松太郎が言う。あたしは慌てて言った。 「しーっ!!兄さん達がしゃべっているのが聞こえないじゃない!」 あたしたちは板壁に耳を付けると,次の部屋で喋っている保名兄さんや小雪姐さんの話に耳を傾けた。 「なあ、小雪。女が男装する舞、どうしてもだめかい?」 保名兄さんが言う。ここのところ、小雪姐さんに何度も言っている話だ。 「あんたも大概しつこいね、保名。あかんと言うたらあかん。うちの一座にはあんたたちが作った女装の舞ならたんとあるではおまへ

          連載小説(2):室町時代劇:芸人一座の娘

          昔語り : インターナショナルスクールの日本人生徒の狭い世界

          その朝はどんよりと曇っており、雪でも降りそうなくらいの寒さだった。 カーテンを開けるとようやく朝日が昇ってくるのがわかる。 昭和61年。一月のロンドンの朝は気の滅入るものだった。まだ朝も明けきらないうちから起き出し、朝食をとる。出かける支度、といっても筆箱と小さいノートとお財布、そしては母が作ってくれたお弁当を入れるだけだ。 「じゃあ行ってきます」 「気をつけてね」 「うん」 そう言って母が送り出してくれた。 その日は語学学校の初登校の日だった。寒くないよう、綿入

          昔語り : インターナショナルスクールの日本人生徒の狭い世界

          連載小説:室町時代劇:我が子

          「絹母ちゃん、行ってきます!」 松太郎が大声で叫んで出かけて行った。今日は四つ辻で軽業を見せる日だ。 何日も稽古に励んで、やる気に満ちた松太郎は、妹の梅を従えると、龍兄さんと私の夫の幸と一緒に出掛けて行った。 私と幸の家に松太郎を息子として迎え入れたのはもう十年も前になるだろうか。 忘れもしない、信長公が京に火を放った年の事。あの時は大勢の人々が京の都から焼け出され、この京丹波まで火傷や傷を負いながらも逃れてきた。 聞く話によると、松太郎は道端で母親と一緒に倒れている

          連載小説:室町時代劇:我が子