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「バザールの羅針盤」・・・旅先で見つけた物語。外国で迷子になった男は。


『バザールの羅針盤』

欧州とアジアが交わる港イスタンブール。
二つの大陸を結ぶ海は、はるか昔から交易のための船が行き交ってきた。

欧州とアジア、過去と現代が交錯する混沌とした場所である。

街の中心にあるバザールを訪れた男は、
世界中から集まってくる品々に目を奪われた。

まばゆくきらめくランプ、不思議な香りを放つ香炉、
エキゾチックな民族衣装。

店を覗くたびに、モザイク模様の色彩がまるで渦のように
目に飛び込んでくる。

男は、数百年続くバザールの歴史を貪るように歩き回った。

やがて、多くの商品に気をとられているうちに道に迷ってしまった。
入り組んだ回廊をどう歩いてきたのか、全く分からなくなってしまったのだ。

だが男は焦らなかった。
慣れない土地では、慌てず、人に聞くのが一番だと心得ていたからだ。

男は、近くのランプ店に入り、立派な髭を蓄えたオヤジに道を聞いた。

ところが、そのオヤジは道を教える代わりにこう言った。

「座って一杯飲んでいけ」

差しだされたのは、琥珀色のチャイだった。

受け取ると、厚手のガラスコップを通して温かさが伝わって来た。

少し渋めの香りが鼻をくすぐる。

オヤジに一礼して、チャイに口を付けてみると、
深い甘さがあせる心を落ち着かせてくれた。

「トルコでは、どんな時でもチャイは欠かせないのさ」

オヤジが嬉しそうに笑った。

焦らずに体中にチャイが滲み込み、緊張が解けていく気がした。

ふと周りを見渡すと、見覚えのある回廊の出口が遠くに見えた。

何のことは無い、落ち着けば出口などすぐに分かるのだ。
男は一杯のチャイが、旅の羅針盤のように思えた。

「旅先で、迷子になるのも悪くないな」

男は、出発前に聞いたトルコの格言を思い出した。

「本当の友情は暗い日に分かる。」

迷い、一歩立ち止まり、考える時、本当に大切な道が見えてくる。

                       おわり

チャイとは、紅茶のことで、バザールの各所にチャイの店があり、
店番で空けられない店主たちにデリバリーしてくれます。

温かいチャイにザラメを入れて、
甘くして飲むのが一般的です。

イスタンブールでは、チャイが良く飲まれ、
中には、一日20杯以上飲む人もいるそうです。

バザールの近くにあるガラタ橋では、若者たちが、
橋の上から飛び込み、度胸試しをするといいます。

アジアとヨーロッパの境界線での飛び込みは
世界に向かって羽ばたくという、未来への思いを表しているのかもしれません。



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