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12の基本スキル「段取る」:プロジェクト管理(1/2)

「処理する」スキルに続いて、プロジェクト管理を行うための「段取る」スキルに関して、学んだいきたいと思います。


実行計画/行動計画の考え方

次に、「段取る」スキルとはどのようなものなのか、解説していきたいと思います。

習得すべき基本スキルの概論のところで、ビジネスは、「Why」「What」「How」の3つに分解することができるということをお話させていただきました。

Whyは「事業を成功させるために、なぜ、その戦略が必要になるのか」を考えること、Whatは「戦略を達成させるために、どのような施策が最適解なのか」を考えること、そして、Howは「それら施策をどのように実行に移していくべきか」を考えることになります。

この中で、「段取る」は、考えた施策や企画を確実に実行していく「How」の部分で求められる能力になります。

さらに、Howの部分を、施策や企画を具体的に動かしていくための「実行計画」と、それを個人の計画に落とし込んでいく「行動計画」に分けていきます。

実行計画を作成するための手法が「パートチャート」「ガントチャート(WBSとも言います)」と呼ばれるもので、行動計画を作成するための手法が「スケジューリング」になります。

図表で整理すると、以下のようなフレームワークになります。

図表.実行計画/行動計画の位置づけ

逆算して考えると、個人の行動計画をとりまとめたものが部門やチームの実行計画になります。

次に、実行計画は施策や企画を具体的に推進するためのもので、施策や企画は事業戦略から導きだされたものであるという流れになります(右側から左側への流れ)。

事業戦略がきちんと機能し、収益を上げられている組織は、この一連の流れに一貫性があり、個人のタスクレベルまで、何をやるべきかが明確に落とし込まれています。

一方で、収益が厳しく事業がうまく回っていない時は、戦略レベルに問題があるか、戦略は正しいものの打ち手としての施策が間違っているか、もしくは、施策が個人の行動レベルまで落ち切っていないかのどれかに該当します。

色々な企業の支援をしてきて思うのは、戦略(Why)や施策(What)はきっちり取りまとめられている企業は多いと思います。

一方で、「いつまでに、誰が、何を行うのか」といった実行計画への落とし込みが組織レベルで対応できておらず、事業がうまくまわっていない企業のほうが(実は)多いのではないかと思っています。

少し話が脱線しますが、この実行計画への落とし込みができないというのは、事業や施策をやり遂げることができる人材がいないということにも起因していると思います。

特に事業ポートフォリオを大きく組み替える必要のある企業の場合、新しい事業領域に踏み出すための組織や個人のケーパビリティ(能力)が、事業スピードに追い付けていないという問題があるからです。

本書の内容からは逸脱するため、これ以上は触れませんが、機会があれば、「事業ポートフォリオと人材ポートフォリオ」という切り口で、組織能力全体をどう高めていくか、別途、お話できればと思います。

「パートチャート」で業務の全体像を作成する

やるべき施策や企画が具体的になったからと言って、すぐに実行に移せるわけではありません。

業務を分解して、やるべき手順(プロセス)を明確化したり、プロセスに紐づくタスクを整理したりして、メンバーが動けるようスケジューリングしていく必要があります。

この「何をやるか(What)」と「どうやるか(How)」を変換させる手法が、PERT(パート)と呼ばれる手法になります。

PERTは「Program Evaluation and Review Technique」の略になります。
直訳すると「プログラムの評価とレビューテクニック」になります。

PERTは、主にプロジェクトマネジメントにおいて使用される手法で、複雑なプロジェクトを効率的に計画し、管理するために開発されたものになります。

PERT図(パートチャート)は、プロジェクトのタスクや工程を線や矢印でつなぎ、プロジェクトの達成に必要な業務フローをビジュアルで理解できるように表現したものになります。

工程や、工程にかかる所要時間、そして工程と工程の関係性が一目で分かるため、スケジュール管理やリソース配分の最適化に有効な手法です。

パートチャートには、フロー型とアロー型の二つの表現方法があります。

図表.フロー型とアロー型

フロー型では、タスクや工程をタスク間の依存関係を示す矢印でつなぎ、より詳しい作業内容と工程の順序を明らかにしていきます。

一方で、アロー型では、タスクの開始または終了を表す円(マル)を、作業内容を示す矢印で結び、作業の流れを視覚化します。

実際の作成方法ですが、はじめからパワーポイントなどで作成するのではなく、ノートに手書きで作成し、ああでもないこうでもないと言いながら、業務を分解して構造化していきます。

ある程度、形になってきたら、パワーポイントなどのツールを活用して清書していきます。

ガントチャートとの連携も踏まえるとフロー型のほうが表現しやすいため、本書ではフロー型で話を進めていきます。

クリティカルパスを考える

クリティカルパスとは、プロジェクトの全体的な期間に最も影響を与える一連の重要なタスクや作業工程のことを言います。

簡単に言うと、プロジェクトを最短で完了させるために絶対に遅れてはいけないタスクや作業工程のことを指します。

プロジェクトを進める際には、多くのタスクがありますが、その中でもクリティカルパス上のタスクは特に注意が必要です。

なぜなら、これらのタスクが遅れると、プロジェクト全体が遅れてしまうからです。
逆に、これらのタスクが計画通りに進むと、プロジェクトは予定通りに進めることができます。

このクリティカルパスを理解することは、プロジェクトマネージャーにとってとても重要です。
それによって、どのタスクに最も注意を払い、リソースを集中させるべきかが分かるからです。

また、リスクがある場合に備えて、どのタスクに特に注意が必要かを把握するのにも役立ちます。

それでは問題です。先ほど説明したパートチャートのフロー図に、所要時間を入れてみました。
こちらのパートチャートで、クリティカルパスになるのは、どの工程になるか分かりますか。

図表.クリティカルパスを考える

答えは、Cがクリティカルパスになります。
C、D、Eの3つの作業工程(タスク)を経て、Fの作業工程にいきますが、ここに至るのに一番時間がかかるのがCだからです。

DやEのタスクが終了したとしても、Cが終わらなければ、Fの作業工程にうつることができません。

このようにパートチャートを作成すると、業務の全体像を構造的に捉え直すことができ、どこがクリティカルパスになるか視覚的に把握することができるようになります。

「ガントチャート」で計画に落とし込む

パートチャートが作成できた後に実施するのが、ガントチャートの作成です。
パートチャートは、業務を構造的に整理するところまでですが、ガントチャートは、「いつまでに、誰が、誰と、何を、どれぐらいの時間をかけて、どの程度行うのか」を、より具体化していく作業になります。

図表で整理すると、以下のようなフレームワークになります。

こちらの図表は、ガントチャートに盛り込むべき項目になります。全部で6項目あります。

図表.ガントチャートの必要要件
図表.ガントチャートのビジュアルイメージ

こちらの図表が、上記の項目を実際のスケジューリングに落とし込んだアウトプットイメージになります。

パートチャートとガントチャートのつながりは、大項目や中項目になります。
業務が複雑でなければ、タスクベースで組み立てればいいですが、業務が複雑になってくると、膨大なタスク量になるため、通常は、大項目や中項目は、タスクを括ることができるプロセスや作業工程を記載し、小項目レベルでタスクを記載していったほうが管理はしやすいです。

「処理する」のSMARTの法則で学んだように、それぞれのタスクに対して、担当者、期限設定、タスクごとの定量的な評価基準を具体的に記載していきます。

また、業務完了をゴールとすると、そこに至る中間点(これを「マイルストーン」と言います)を設定し、途中経過段階での業務レビューを入れていくことも重要です。

施策、パートチャート、ガントチャートの流れ

 ここで、施策や企画がガントチャートになるまでの一連の流れをおさらいしておきます。

通常、施策や企画を考えると、すぐにガントチャートに落とし込みたい衝動にかられますが、プロジェクトの規模が大きかったりすると、業務が複雑すぎてガントチャートをうまく作成できません。

まず、パートチャートで業務を分解して構造化し、どういう手順を踏んでいくと、最短で業務を遂行できるのか、また、全体の業務の遅れに影響を及ぼすクリティカルパスは何なのかを把握します。

具体的なタスクがイメージできているならば、作業工程ごとにタスクを記載しておきます。
ここまでできると、ガントチャートの作成は、正直、それほど難しくありません。プロジェクトメンバーの納得感も高まります。

図表.施策からパートチャート、ガントチャートの流れ

過去に類似した業務を実施している場合は、それを参考にしてパートチャートやガントチャートを作成すればいいので、作成時間を大幅に減らすことができます。

作業がルーティン化し定型業務になっていくというのは、パートチャートやガントチャートを一から作成しなくてもいいという状態にあるとも言えます。

ケーススタディ

ここで、ケーススタディとして、パートチャートをどのようにガントチャートに落とし込むか、実演してみたいと思います。

取り組もうとしている施策は、新しいサービスを開発し、それを外部パートナーと連携して販売していこうと考えている企業の事例になります。

新規サービスということもあり、まずはトライアルで1社獲得し、サービスの軌道修正をしながら、その後、拡販していきたいと考えています。

パートチャートは、業務プロセスを5つの工程に分解してみました。

まず、全体の業務設計と並行して、提携できる外部パートナーへのアプローチを行い、その後、新規サービスを販売していくためのサービス設計の工程に移っていきます。

サービス設計までのところで販売できる体制を整え、その後、プロモーション活動や新規リードのパイプライン管理を行い、トライアルに参加できる企業を1社獲得して、効果測定を行うまでの流れになります。

図表.パートチャートのサンプル事例

次にガントチャートを作成していきます。

パートチャートで作成したプロセスを業務の大項目に記載し、ボックスの外に記載していた細かいタスクを中項目に記載していきます。タスクごとに担当者や期限を設定します。

また、各プロセスが終了した時点で、中間レビューを行い、進捗状況の確認を行います。

パーチャートで構造化したものが、どのようにガントチャートになっていくか、理解できたのではないかと思います。

図表.ガントチャートのサンプル事例

今までやったことのない業務の場合、どのように業務を分解すればいいか分からないので、パートチャートの作成に時間がかかります。

実務経験が増えてくると、パートチャートも簡単に作成することができるようになり、それぞれのプロセスで、どのようなタスクが必要になるかも理解できるようになるので、少しずつレベルアップを図っていきましょう。



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