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【書評】三銃士がどうしようもない奴らだった話(A・デュマ「ダルタニャン物語」第一部感想)

※こちらは2021年に執筆した記事を一部加筆修正したものです。


信頼するフォロワーが狂ってたのが気になって、町中探し回って「ダルタニャン物語」(アレクサンドル・デュマ著 鈴木力衛訳)を読み始めた。以下、本作についての若干のネタバレを含みます。


本編は11巻にも渡る大作で、そのうち1〜2巻がかの有名な「三銃士」にあたる部分だ。このパートについては、ご存知の通り書籍化される機会も多く、子供向けの名作枠のような感じでアレンジもされている。

一方で、それ以降の第二部〜第三部にあたる9巻分については、今日では第一部と比べて極端に脚光を浴びる機会が少ないという状況だ。ただし、物語の真髄は第二部第三部にあるので、是非とも読むならそこまで…という具合で、オススメを兼ねてフォロワーから少しだけ情報をもらっていた。

折しも自分の側には、かねてから抱えている(海外)文学アレルギー、特に古典的名作といわれるものへの食わず嫌いを、いい加減にどうにかしないとなという問題意識があった。厳密に言って本シリーズがこのカテゴライズにあたるかは分からないが、それは置いておこう。

そういうわけで、先日舞台「もののふシリーズ」が幕末ものへの興味を駆り立て、「幼年期の終わり」が古典SFの世界への扉を開いてくれたように、本作が未知のジャンルへの取っ掛かりになればという思いもあり、この度手に取ったわけである。


で、一巻「友を選ばば三銃士」二巻「妖婦ミレディーの秘密」と、第一部完結まで読みきったわけなのであるが……


あの、どいつもこいつも、アクが強すぎませんか……?


具体的には、主人公のダルタニャンとその親友である三銃士。こいつらがまあ、よく言えばぶっ飛んでいて個性的、破天荒。悪く言えば……相当な(愛すべき、と付けておこう)クソ野郎ばっかりなのだ。


俺、三銃士ってもっとカタい作品だと思ってたよ。誇り高い銃士たちの話だと思ってたよすごい敷居高いイメージだったんだけど。そんな不安と先入観は、第一巻で早々に雲散霧消してしまった。とにかく、主役たちのかますクズムーブ・畜生ムーブのキレが半端じゃないのだ。


ここで誤解のないようにお話ししておくが、作品自体は19世紀半ばに書かれたものであり、また舞台は17世紀前半頃だ。だから、現代日本の倫理観に照らして人権意識が……などとは極力言わないつもりである。

だが、それにしても、それにしてもなのだ。

それにしても、ちょっと度肝を抜くようなクソムーブが次から次へと展開されるのである。これが当時(の物語)としては当然のものなのか、また作品のトーンとして意識しているのか、それとも作者デュマの性格が表れたものなのかは、未だ自分には判断がついていない。


あらすじを書くと無駄に長くなってしまうので本編第一部について簡単に書くと、田舎から立身出世を志してパリへやってきた青年ダルタニャンが、3人の銃士アトス・ポルトス・アラミスと出会って友情を深め、恋をし、そして陰謀に立ち向かう……という感じになるだろう。

いやいや、それならどこにそんなにこき下ろす要素があるのか、とお思いの貴方。前書きが長くなったが、ここから主役たちのキャラクター紹介と共にその一端をご説明申し上げよう。


ダルタニャン:本シリーズの主人公。第一部時点で20歳。実戦経験がなかったにも関わらず剣の腕前は達人級。主人公であり、地の文で度々その美貌、勇気、気位、知恵などを称賛される……のだが、しばしば繰り出すそのクソムーブもまた規格外「きかんしゃトーマス」のトーマスがクソ野郎なのと同じ感じだ。ある意味では最も本作のスタイルを体現している。

とにかく頭に血が上りやすく、恋にのぼせ上がったり、ブチ切れてすぐ走り出したら剣を抜くような印象があるが、その真髄は敵と定めたものに対するあんまりな残忍さにある。

イギリスへの通行証欲しさからその辺にいた奴に因縁を付けて決闘を吹っかけたりなどは序の口(なんとそいつは黒幕の腹心でした!ラッキー!)。

命を狙われたりした復讐のためとはいえ、女のところへ暗闇に乗じて現れ恋人のフリをして現れ散々いちゃついたと思えば、その翌日には恋人の手紙を偽造して別れを告げブチ切れさせ、そうして弱らせた心の隙間に入り込もうと接近して夜通し抱きまくるという、世にもおぞましい陰湿トリプルムーブを決めている。

しかも相手は絶世の美女のため、その容姿自体にはぞっこん惚れ込んでるというクソデカ下心も混じってるわ、そのために自分に惚れてる召使いの女の子を利用した挙句ポイするわと、まあ控えめに言って高潔さの欠片もない奴である。

一応本筋としてのポイントは彼の初恋にあるのだが、とにかく性欲と征服欲と復讐心のブレンドされたド畜生ムーブの印象が強すぎて、もうどうしようもない。

ポルトス:三銃士の一人。本来であれば「アトス、ポルトス、アラミス」の順番で紹介したいところなのだが、訳あって前後させるのをお許しいただきたい。

三銃士の中でも一番身長が高く、ファッションに気を遣っている美男子。こいつを一言で表すならば愛すべき軽薄チャラ男系クズ。メンバーの中でも一番のお調子者であり、作者公認の見栄っ張り。どうもオチ担当感がある。

しかも強者揃いの仲間内にあって妙に本編での敗戦が目立ち、モブに酒場で喧嘩を売られたと思ったらまさかの完敗を喫し大怪我をした。その上、療養中は宿代医療費を踏み倒して従者に盗ませた酒をかっくらい、訪ねてきたダルタニャンには「俺が圧勝したんだけど足をひねっちゃった」などとほざく始末

また極めつけには、倍も年齢の離れている夫人をメロメロにして金を無心しまくり、その家の金庫を執拗に狙い、挙げ句の果てに老主人が死んだらその遺産欲しさに夫人と結婚してしまった。ここまで徹底しているともはや清々しい。

ちなみに金の扱いについては四人ともてんでダメで、稼いでは豪遊して使いきり、食うに困って女に工面させるみたいな話が繰り返されるのだが、どうも当時の貴族はみんな似たようなものだったらしい。すごい時代だ。

アラミス:三銃士最年少。聖職者を志しており、銃士をいつかやめると言っている。ダルタニャンを含めた四人の中では消去法で最もまともな男。要領がよく、機転が利くタイプで、他の連中のようなドカス要素はなく、恋はしてもメチャクチャな蛮行には及ばない。

聖職者になるために論文書こうとしてたらラブレターが届いてフゥー!人生最高!神学問答も精進料理もクソ!終わり終わり!肉と酒持ってこい!になってしまったという回があったりするが、他と比べたら可愛らしいくらいだ。多分読者女性人気もナンバーワンだと思う。


アトス:三銃士最年長。質実剛健で他の三人と違い女っ気がなく、寡黙ながら貴族としての威厳と気品に溢れる。年長者らしく思慮深く慎重で、他の三人もアトスには敵わないといった様子。

……というキャラクターでブレずに進んでいたのだが、一巻終盤で突如として覚醒従者と共に宿屋の酒蔵に武装して何日も立てこもり、貯蔵してある酒と食糧のほとんどを食らい尽くすというぶっ壊れっぷりを披露。被害額は現在の日本円に換算して700〜800万円

迎えに来たダルタニャンもその狂宴に誘い大いに楽しむが、最後は翌朝6時からギャンブルに行った挙句、連敗して彼のために持ってきてくれた馬やら鞍やらを根こそぎ持っていかれるというナチュラルボーン狂人ムーブをぶちかました。

このくだりをアトスがあまりにも冷静に語る場面は読者としての理解を超えておりしばらく何を読んでいるか分からなくなるほどだった。ヤケクソなのだろうか、それとも二重人格なのか。ほぼ一巻丸ごとを前振りとした超弩級のクソムーブは必見である。

そのくせ二巻ではまた威厳貴族スタイルに戻るのでマジで手に負えない。どんなに格好付けても籠城泥酔破産コンボの汚点は消えることはないぞ。


ミレディー:第一部における最大の敵。主人公格ではないが、とにかく印象的なのでここに挙げる。絶世の美女にして根っからの悪女。その美貌と知謀を武器に策略を巡らせ、ダルタニャン達と対決することになる。

もう二巻はタイトルからして「妖婦ミレディーの秘密」、中身もほとんどがめくるめくミレディー劇場で、主人公誰だっけ?となるほど。デュマも間違いなく楽しんで書いてるなというのが伝わってくる。

名前、身分、国籍、更には信仰までをも偽って男を誘惑する生き様は天晴れの一言。特に、囚われの身となってからの脱出劇には凄まじい文章量が割かれており、これでもかというくらいに熱がこもりまくっている。ダルタニャンと宿敵が三度剣を交えた末に親友となるくだりは数行しかないのに……

それでいて、内心の描写や知略を巡らせる様子などが事細かに書かれているため、悪役ながら読者も身が入ってしまい、ついには応援すらしたくなってしまう。ほぼ一人で三銃士+αを相手に立ち回った女傑であり、間違いなく第一部のMVPと言える大女優だ。


他にもトレヴィル殿、枢機官リシュリューなど数々の印象的な登場人物がいるが、今回の記事ではメインキャストと呼べる四人を挙げるに留めた。


で、クソ野郎だの畜生ムーブだの散々言ってるけど、話全体としてはどうなの?ということであるが、これはもう「突っ込みどころ満載ながらついつい読んでしまう」という感想に尽きる。これもまた、間違いなく一種のエンターテイメントだろう。

堂々たる英雄譚、痛快な大冒険活劇を期待して読むと面食らうだろうが、肩の力を抜いて「おかしいだろ!」「ひっでえ!」と笑い、ツッコミを入れながら読むにはピッタリという感じだ。

登場人物はみな人間くさく、ダメなところも目立つが、どこか憎めない愛嬌があって、目が離せない連中ばかり。そんな娯楽ドラマが三銃士だ。


ただ、ここまで書いてきた通りとにかくアクが強い作品なので、これ世界名作こども文学みたいな扱いでいいの!?とはめちゃくちゃ思った。このイカれ野郎どもを果たしてどう脱臭するのだろうか?

おそらくは勇敢な銃士たちの友情と勧善懲悪を軸にするのだろうが、それは言うなればノンアルコールのウイスキーを作るような所業だと思う。もし児童文学としての三銃士に触れたフォロワーがいたら、是非そのときの印象をご教示いただきたい。


ちなみに現在は、第二部「二十年後」を読み始めたばかりだ。ダルタニャンは40歳かつての仲間とはバラバラになり、フランスには暗雲が立ち込めている様子で、どうも第一部とはガラッとトーンが変わる模様である。

果たしてあのどうしようもない連中は、二十年経ってどうなってしまったのか。

まずはそれを楽しみに、続きを読み進めたいと思う。

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