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食パンの行方05 完「おふくろの味」(連載小説)


今回使うのはサンドイッチの時に切り取っていた食パンの耳の部分。
別の袋に移して保管していたのだが、気づけば食パン2枚分溜まっていた。それは朝食にお手軽サンドイッチを作った昨日、それに味を占めた私はその日の夜にお酒の肴にもう1枚サンドイッチを作っていたからだ。

因みに夜に作ったのは桃のフルーツサンド。勿論、桃を丸々1個買ったり生クリームを作ったりなどしなかった。
代わりに用意したのは桃がゴロッと入ったゼリーと絹ごし豆腐。

ゼリーから桃だけを取り出し、ちょうどいいサイズにカット。豆腐を水切りし砂糖とゼリーを加えかき混ぜる。
それらをパンにサンドするだけのお手軽サンドイッチのスイーツバージョンだ。

その時にも切り取っていた食パンの耳を袋から出し、1口サイズにカットする。それらをほんの少量の牛乳に一瞬だけ潜らせる。
あとはサラダ油で揚げ焼きにして、キッチンペーパーで軽く油分を取り砂糖を塗す。

たったそれだけ。
そう、パン耳ラスクの完成だ。

「いただきます」

ラスクをつまんで口へ運ぶ。
カリッとした食感と砂糖の甘み、そして耳の内側のパンの部分に少しだけ染み込んだミルクの甘みも感じられる。

なんだか無性に懐かしさを感じる。シュガートーストに近い味だからか? いや、違う。
それよりも更に、もっと深いような懐かしさを感じる。

そうだ、私はこれを食べたことがある。
幼い頃にこれと全く同じ甘さを味わっていた。

それは恐らく私がまだ小学生だった頃。私たち三兄弟のおやつにはよくパン耳のラスクが出されていた。
3人で分けなさいと、大皿にドッサリ乗せられた、お母さんが作ってくれたラスク。

最近ではあまり見かけなくなってしまったが、当時スーパーやパン屋さんにはパン耳だけがとても安く売っていた。
それこそサンドイッチを作った時に切り落とした耳をかき集めたものなのだろう。
数十円という破格だったのでお母さんはそれをよく買ってきて私たちのおやつを作ってくれたのだ。

そういえば、揚げ焼きにする前にパン耳を牛乳に潜らせるのは、お母さんから教えてもらったやり方だった。「こうすれば中もしっかり甘いでしょ?」って。

もしかしたら高校時代の朝食のシュガートーストも、この味を探していたのかもしれないな。

「そっか、これが_____」

おふくろの味なんだ。


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