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『1ON1に悩む管理職必須スキル コーチング思考 チームの強みを引き出すコミュニケーションスキル』第1章・無料全文公開

11月14日発売の書籍『1ON1に悩む管理職必須スキル コーチング思考 チームの強みを引き出すコミュニケーションスキル』から、第1章「コーチング思考の基本」を全文公開!

コーチング思考って何?

近年「コーチング」という言葉が、そこかしこで聞かれるようになりました。
講義を受けに来る生徒さんのなかにも、「コーチングの本を読んで興味がわきました」「実際、自分でコーチをつけています」などといった言葉を聞くことも増えてきました。

一方、私がコーチングクラスをはじめた5年前と、いまクラスに来られる人(私のクラスは管理職・ビジネスマン・ビジネスウーマン・起業家・経営者などほぼ99%ビジネスニーズの生徒さんが来られます)の悩みは、ほとんどといっていいほど変わっていないのです。
その悩みとしては、下記のようなことが大部分です。

●管理職として部下育成に悩んでいる。
●経営者として人材育成に悩んでいる。
●離職率が高いので変えていきたい。
●自分のことだけしか考えない部下が増えてきた。
●部下のモチベーションが低くやる気がない。
●効果的な1ON1をすることでエンゲージメントを上げていきたい。

自分が管理職だったころも同じような悩みをもっていましたが、ほかにいろいろ要素は存在するものの、「人と人とのコミュニケーション」は大きな悩みの種の1つといえます。会社を退職した理由は、2022年のエン・ジャパン株式会社が発表しているニュースリリース※には、「職場の人間関係が悪い」が一番になっていて、その原因は見て取れます。
※「本当の退職理由」実態調査『エン転職』1万人アンケート(2022年10月)

会社にいるほとんどの人が悩んでいる「対人コミュニケーション」。これはまさに社内でのコミュニケーションがうまくいっていない状態、「社内コミュニケーション不全」といってもよいでしょう。平社員だったときはあまり露呈しなかった「社内コミュニケーション不全」は、管理職や経営者になった途端に露呈します。もちろん、管理職や経営者になる人ですから、仕事自体への遂行能力はほかの人より高い傾向にあることでしょう。
話を聞いていると、そのような仕事のスキルに長けた人であればあるほど、「社内コミュニケーション不全」を発生させる率が高そうです。

とすると、部下や社員との「社内コミュニケーション不全」に悩んでいない管理職や経営者であればあるほど、仕事の遂行能力とはまったく違う筋肉を使っているようです。

また、管理職や経営者の置かれている役割は、昔の職人のように自分の仕事だけをただ遂行すれば評価される時代はおわってしまい、どう部下のモチベーションを向上させながらチームで仕事を遂行するかが成果に直接関わるようになってきています。

いまや管理職や経営者には、「部下を動かすコミュニケーション能力」が必須要件となっています。
会社から突然、「きょうから部下と1ON1やってね」と依頼されたものの、その意義や目的について説明を受けていないため、「1ON1の場」がいつもの評価面談の場になってしまっていたり、上司が話すだけの場所になってしまっていたりする例も少なくありません。本来の1ON1は、上司が一方的に話す場ではなく、部下の話を聴く場所であるはずです。

そうならないためのヒントが、「コーチング思考」にあると私は考えています。次節からは、コミュニケーション不全の原因やコーチング思考についてお話ししていきます。

●まとめ
1ON1ミーティングを、部下の話をきちんと聴く場所にするために、
コーチング思考を取り入れてみよう!

そもそもコミュニケーションって何?

これほど皆さんの悩みにもなり、喜びにもなりえる「コミュニケーション」ですが、本来の意味をご存じの方はほとんどいないようです。
そもそも、英語のもとになっている言語であるラテン語では、「コミュニケーション」は諸説あり、ラテン語の「コムニカチオ」から来ているといわれています。

クラスや研修で多くの人に「コミュニケーションの語源であるコムニカチオの意味わかる人いますか?」と聞くと、正解がわかる人はほとんどいません。

皆さんは、どのような意味だと思われますか?

実は「コムニカチオ」の意味は、対話でもなく話すことでもなく、「共有する」です。

「皆さんは、隣の人と何を共有していますか?」
「皆さんは、部下とどんなことを共有しているでしょうか?」
「皆さんは、社員とどんなことを共有しているでしょうか?」

そもそも、何か1つでも「共有」できていますか?
まるで隣に住んでいる人とまったく顔を合わせない都会のマンション住まいのように、隣に座っている人のことをほとんど知らないのではないでしょうか?

「部下や社員とコミュニケーションを取っていますか?」と聞くと、たいていの管理職や経営者の人たちは、「大丈夫。日々コミュニケーションは取っている」と手をあげられます。
そこで、「では、きちんとお互いコムニカチオ(共有)できていますか?」と聞くと、たいていの人は下を向いて考えこんでしまいます。

でも大丈夫!
たいていの人たちは「赤信号では止まります」よね。「青信号は進む」でしたよね?
これは、小さいころから「ルール」として何度も教えられてきて身についているから、みんなこのルールを守るんですよね?
皆さんのなかにいままで一度でも「コミュニケーション」を習ったことがある人はいますか?
そう、私たち日本人は、ほとんどの場合、いままで一度もコミュニケーションを習ったことがないのです。これほど大切なものなのに。

ほとんど習ったことがないので、そのルールを理解していないのは当たり前ではありませんか? できなくて当然です。

私たちは見よう見まねで一生懸命「世間という学校」の洗濯機のなかで、それこそぐるぐる回されながら、時には涙を流しながら産み出してきたのが、いま各個人が身につけているコミュニケーションスタイルです。

そのうえ、日本には「あうん」の呼吸やら「背中を見て覚えろ」など、相手と真のコミュニケーションを取る前に遮断してしまう「暗黙の遮断装置」がいくつも存在します。

いつも私のクラスではお伝えしているのですが、いまのコミュニケーションスタイルは、いままであなたを生かしてくれた大切なアイテム(武器)です。

いまからお話しする「コーチング思考」は、さらにもう1つの武器を手に入れるゲームのはじまりだと思ってください。

では、はじまりの旅に一緒に出掛けましょう。
きっと、この旅は、いまのあなたをより強くしてくれる旅になると信じています。

●まとめ
コミュニケーションの合言葉は、「コムニカチオ=共有する」です。
ぜひ、意識してみてください。

コーチング思考の必要性

この節では、コーチング思考の必要性についてお伝えしていきます。
コーチング思考はいろいろな場面に使用できますが、コーチング思考によるアプローチは、いままでのトップダウンアプローチとは異なるものです。

トップダウンアプローチは、すべて上意下達・指示命令で成り立っています。
日本は長い間、上司は指示命令する立場、「すべての答えは上司がもっている」という考えを基準として組織運営が行われてきました。

戦後、物がない時代に、「同じ型の白物家電」をつくり、出荷していた時代は、すべて型どおりで仕事をすればよいだけなので、部下の意見を聞く必要はありませんでした。部下も「上司の命令をきっちり遂行する部下」のように、誰に頼んでも大丈夫な「均質的な部下」が求 められていました。このような組織を「軍隊型組織モデル」と呼ぶ人もいます。労働力人口も豊富な時代は、それでよかったのかもしれません。

ですが、いまの世の中は15歳から64歳の労働力人口といわれる人たちは減り続けています。
どれくらいかというと、2020年から2030年の10年間だけで約433万人の労働力人口の減少が見込まれています。

千葉県の2021年時の全人口は約627万人ですが、労働力人口だけで千葉県の約7割の人口が姿を消してしまうのです。これって、なんだか恐ろしくないですか?
つまり、いま採用に苦労している企業は、すぐにでも人が辞めない多様な働き方を認める会社をつくっていくことが急務になっているのです。
いまでこそ、人を1人採用するために、500万円や1,000万円くらいかけている企業もあるくらいなのです。

話を戻します。トップダウン型組織の企業は生き残れない可能性が大きいです。労働力人口が減り続けている現在では、均質な自分と同じような部下を揃えることさえ難しくなります。
時代の変化も非常に早いですよね。以前は、10年ひと昔なんていっていましたけど、いまは3年、下手したら1年、いやもっと早い分野も存在するはずです。

この時代は、上司がすべての答えをもちえない時代です。部下や現場に聞いたほうが、より早い答えがもしかすると見つかるかもしれません。
そのうえ、私たちには世代間格差があります。このあと、詳しく説明させていただきますが、誰にでもアンコンシャスバイアス(無意識の思い込み)があり、20代の人の常識と50代の人の常識は明らかに異なっている場合があります。
そのため、お互い常識が違っていることを前提に、一緒に確認しながら作業を進める時代に入りました。
コーチング思考は、これを可能にするための皆さんの武器になると思います。
相手のなかから気づきを引き出し、相手に心からの関心をもち、モチベーションを上げながら伴走することがコーチング思考であれば可能です。

これからは、いままでのリーダーとは違うリーダー像が求められています。
次の図をご覧ください。

ジョン・コッターのビジネスリーダー論についてお話ししていきます。
管理職や経営職に必要なスキルとして、マネジメントとリーダーシップとマネジメントがあります。どちらも人を動かし組織を運営するために必要なものです。
「本来マネジメント(管理するスキル)とリーダーシップのスキルは異なる能力ですよ」とジョン・コッターはいっています。
マネジメントとは組織のマニュアルに従い組織管理、組織の運営をすることを指し、その目的や機能は、無駄や無駄を排した効率性の向上です。

しかしリーダーシップは、ただ規則に沿って部下のマネジメント(管理)をする、ということだけではありません。新たな事業・プロジェクトをスタートするとき。組織が停滞しお互い意思疎通が図れないでいるとき。自分から積極的に「きちんと部下と適切なコミュニケーション」を取りながら、部下やチームのゴール・目的の設定と共有をすること。ビジョンの設定や共有と浸透がはかれていること。部下やチームのやる気を引き出すこと。これらを引き出せる能力を指します。

コッターは「マネジメントのできる(管理のできる)管理職はたくさんいるが、真のリーダーシップが取れる管理職やマネージャーは、なかなか見つからない」といっています。
リーダーシップの大前提は、「心理的安全性」の担保された職場環境である必要があるのです。管理職や経営者はマネジメント(管理)だけしていればよかった時代は長かったのですよね。
管理だけであれば、効率を考えるうえでも軍隊的な組織が最も適しています。

これからは、もちろんマネジメントの能力も大切ですが、管理職や経営者に求められているのは風通しのよいリーダーシップ、つまり多様性を生かした組織運営を任せられるリーダーシップこそが求められているのです。
コーチング思考での部下や従業員へのアプローチは、管理職や経営者が身につけるべき能力の1つにますますなってきています。

●まとめ
いまこそコーチング思考を使い、
新しいリーダーシップを取り入れてみよう!

コーチング思考の定義

この節では、「コーチング思考」とは何かについてお話ししていきましょう。
コーチングそのものは、コーチングを行う個人や団体の解釈や、その対象によってもさまざまな定義がなされています。
世界最大のコーチング組織である国際コーチング連盟では、次のように定義しています。

〝コーチングとは、思考を刺激し続ける創造的なプロセスを通して、クライアントが自身の可能性を公私において最大化させるように、 コーチとクライアントのパートナー関係を築くことである。〟

一般社団法人国際コーチング連盟 日本支部 HP参照

一般的にコーチングは、クライアントのパフォーマンス向上や目標達成のために使われるコミュニケーションスタイルです。コーチはあくまでもクライアントと同じ立ち位置で上下関係なく、パートナー(協力者)としてコミュニケーションを進めていきます。

通常のパートナーとの違いは、コーチングでは相手にアドバイスや提案を基本しません。
「コーチング思考」とは、コーチングに則した考え方や思考の仕方と思っていただければと思います。
私の考えるコーチング思考を定義するとしたら、悩める部下や管理職を自走(自律)できる部下や管理職に変えるツールです。

コーチング思考を身につける過程で、自分で考える癖がついてきます。自問自答がコーチング思考の本質でもあります。自分で考え、自分のまわりの資源や自分自身の強みをうまく活用できたら、会社人生だけでなく、あなた自身の人生も変化していくことでしょう。

コーチング思考を身につけていただくことで、管理職・経営者としての部下のモチベーションアップや目標設定の明確化、部下指導への応用、部下の自信の強化が図れるだけでなく、考える視点を広げ、コーチング思考を身につける前より目標に対する行動計画の合理的な策定が行えるようになります。それだけではなく、きちんと身につけ、適切に実行することで、部下にも自分のコーチング思考を教えることも可能です。
コミュニケーションツールである「コーチング思考」には、ツールを正しく使い、よりよい効果を上げるための一定の基礎となるルールとコツが存在しています。

この基礎となるルールやコツがあいまいだと、せっかくの「コーチング思考」を使いこなすことはもとより、習慣化もできません。

ぜひ、皆さんには確実に「コーチング思考」を身につけていただき、人生の武器として使ってほしいです。本題に入る前に、ルールについて触れていきます。ウォーミングアップ→ルールと心構え→コツの順番でお伝えしていきます。

●まとめ
コーチング思考は、悩める部下や管理職を
自走(自律)できる部下や管理職に変えるツールです。

ウォーミングアップ ~2つの思考方法~

ルールに入る前に、そもそも押さえておくべき2つの考え方についてお話ししていきます。人やチームの目標達成や課題解決の考え方には2つの考え方が存在するのです。
1つめは、「フォーキャスティング的考え方」で「解決思考」とも呼ばれます。
2つめは、「バックキャスティング的考え方」で「コーチング思考」と呼ばれるものです。

私たちは普段、フォーキャスティング的考え方(解決思考)で生活していることが多いようです。これは仕事場でも変わりません。フォーキャスティング的考え方(解決思考)の出発点は「現在」です。
フォーキャスティング的考え方(解決思考)では、現時点で問題が起こったら、モグラたたきのようにそこを潰していき、また問題が起こったらそこを修正していく、この繰り返しです。

毎日やることが多くて忙殺されている3人のお子さんをもつお母さんの場合は、お子さんにご飯をあげる、おむつを替える、泣き止んだらあやす、お風呂に入れる、などとにかく目の前にあることをやっていくだけで1日がおわってしまうことも多いでしょう。
この場合は、未来のことを考える時間もなかなか取れないので、どうしてもフォーキャスティング的考え方になりがちです。
時間や情報がたくさんあってもフォーキャスティング的考え方になる場合があります。

私は仕事の1つとして、実際の中学や高校の授業にお邪魔し、ワークショップをやったり、学生の方々とお話しする機会も多かったりするのですが、私が学生のころより何倍もの情報があふれているのに、いい悪いはないですが、大きな目標をかかげている学生さんは少ないようです。

コロナ禍がはじまる1年前にフィリピンに行ったときも同じことを感じました。
従来の私が描いていたフィリピンのイメージとは違い、50階建ての高層ビルがものすごい勢いで建てられていて、まるで新宿のような街(新宿以上ですが)がどんどん生まれている状況です。
人口ピラミッドでいえば、日本は急速な少子高齢化で高齢者が多い逆三角形の人口分布図ですが、フィリピンは若い人口が多く、人口分布図は見事にほぼ正三角形の形をしています。
私は「若者にとってチャンスがたくさんある街」と感じました。
現地の友人にたずねてみました。
「フィリピンの若者はいいですね~。とっても環境に恵まれているし、街もエネルギッシュでチャンスがあふれていますよね」
すると友人は「いや、ここにいる若者はあまり夢を見ないんですよね。どんどん隣にビルが建っていても、要は他人事なんです。親がゴミを拾っていたら、子どもはそれを将来の職業として夢に見ます」

それを聞いた私は、日本の中学生や高校生の自分の夢についてのコメントを思い出しました。中学生や高校生に将来の夢を語ってもらったとき、約8割の学生さんが「会社員です」と答えたことを思い出しました。もちろん、よい悪いはまったくないですが、世の中に出回っている情報量に比べ、意外にも答えが自分たちの世代と変わっていないことを感じた瞬間です。
そのとき、どの情報が自分に関係している情報で、どの情報が自分にとって使えそうか、など情報を選ぶ力をもっていないと、将来の大きな夢は描きにくいのかもしれないと思ったのでした。

私たち大人も、会社で問題が起こった際には、ほとんどの場合、上司や同僚から「いまどうなってるんだ?」「何が問題なんだ?」と課題や問題点について説明、つまり、「現状の把握」を求められ、「じゃあ、どうするんだ?」「どう解決するんだ?」という「解決方法の提示」を問題が発生するたびに質問されます。

日常生活でも会社でも、フォーキャスティング的考え方(解決思考)ばかりにとらわれているので、私たちはとくに意識しなければ、部下に対しても、社員に対しても、「現状の把握」と「解決方法の提示」2つの質問しかしません。

私たちは自分で意識しなければ、「まわりの人が自分にしてきたコミュニケーションスタイル」を知らず知らずに身につけ使っていきます。

一方、バックキャスティング的な考え方(コーチング思考)については、どうでしょうか? この思考方法の出発点は「未来」です。目標であれば、それを達成したあとの姿ですし、課題や困難であれば、それを乗り越えたあとの姿です。

ライザップの有名なコマーシャルを思い出してください。
フォーキャスティング的考え方(解決思考)であれば、「痩せたいんです」と相談に来たお客さんに対して次のような質問をしていきます。

「あなた、なんでここまで太っちゃったの?」(現状把握)
「何が問題なの?」(現状把握)
「どうすれば痩せられると思う?」(解決方法)

これはすべて現在の問題を抱えた状況にフォーカスを絞った質問をしています。

一方、バックキャスティング的考え方(コーチング思考)であれば、目の前のお客さんは、目標を達成できる人、課題を解決できる人として、「達成できたあと」にフォーカスを絞った質問をしていきます。

「痩せたあと、まわりの人から、どんなふうに声をかけられたい?」とか、「痩せたあと、どんな服を着たい?」などです。

この質問で、お客さんは達成できたあとのイメージングをし、その目標をより具体的にしていきます。目標をより具体的ではっきりイメージすることで、合理的に手段を考えていく思考方法です。

たとえば、「いまからミステリーツアーに行きますよ。集合時間は午後3時です」だけだと……

●歩いていったらいいか?
●電車に乗ったほうがいいか?
●飛行機を選んだらいいか?

など具体的な手段はなかなか取りにくいものです。

ですが、「あしたの午後3時、羽田空港のBカウンターに集合ね」といわれたら、皆さんの自宅からいちばん近いルートや手段を使って目的地に向かいますよね。どこに行くかによっては、持ち物も変わってくるかもしれません。

数百メートル離れていて、約束の日時も決まっているのに、目的地に歩いて行こうとは思わないですよね。

現実には、沖縄に住んでいる人があしたの午後3時に羽田空港に集合といわれているにもかかわらず、目的地が明確ではないばかりに、徒歩や自転車で羽田空港に向かって出発するようなことが起きてしまっています。

飛行機を使えば数時間でたどり着くところが、何日かかっても目的地にまだたどり着かないことがありえるのです。

バックキャスティング的考え方(コーチング思考)であれば、目的地を明確化し、全体像を眺める視点をもち込むことで、その手段を確実なものとできるのです。

●あなたのチームはどこに向かっているでしょうか?
●あなたの会社は何をミッションとしていますか?
●上司や経営者であるあなたは、十分に部下や社員とそのことを話し合っていますか?
●何か問題が起こるたびに、現状と解決方法だけ質問していないでしょうか?

バックキャスティング的考え方(コーチング思考)ができない(未来の目標やそのイメージができない)ことについて、部下や社員を非難するような上司や経営者も存在するようです。

フォーキャスティング的考え方(解決思考)も、バックキャスティング的考え方(コーチング思考)も、どちらがよくて、どちらが悪い、ということはまったくありません。状況によって使い分けができればいいだけです。

ぜひ、経営者や管理職の方は、フォーキャスティング的考え方(解決思考)だけでなく、バックキャスティング的考え方(コーチング思考)を身につけてください。それがあなたの従業員や部下との1ON1を導くヒントになります。

●まとめ
2つの思考方法
1つめは、フォーキャスティング的考え方(解決思考)
2つめは、バックキャスティング的考え方(コーチング思考)
をうまく使い分けていきましょう。

コーチング思考を身につけるための3つの心構え

前述のように、コーチング思考はバックキャスティング的考え方を取ります。

未来から逆算して現在地点を確認し、行動を合理的に積み重ねていく方法です。これには3つの心構えが必要になります。

1つめは、「オープンマインドで人の話を聴く」ことです。オープンマインドとは、どのような人が目の前に座っても、どのような話の内容や話題でも、ニュートラルで話を聴けることを指します(人の話をニュートラルで聴くためのコツは後述します)。
当然ながら未来は誰の目にも見えていないものです。まだ物事は起こっていないので形はありません。目の前の人の目標や課題は、ほとんどの場合、まだ形になっていないものです。
ある程度の勝算は事前に検討可能だとしても、本当にできるかどうかはやってみないとわからない状態です。そのようなときの私たちの判断基準は、通常の脳の働きの1つとして、いままで経験した自分の常識や自分の価値観に沿って瞬時にできるかできないか判断を下します。それはある意味、生き残るための脳の癖といっても過言ではありません。

「この人にそんなことができるはずない」
「何をいっているのかしら?」

私たちは「脳の癖」に気がつかなければ、目の前の人が話している言葉をそのまま受け取れず、自分の思い込みや経験値で判断することがほとんどなのです。
自分の判断や思い込みによる話の聞き方はオープンマインド、つまり話を聞いている側が意識して、「心を開き、よいのか悪いかの判断や感覚を一旦もたず、ニュートラルに聴く」という話の聞き方とはまさに真逆の考え方に陥ります。

なぜ私たちは、いろいろな出来事を自分の物差しで判断するのでしょうか? ほとんどの場合、「アンコンシャスバイアス」(無意識の思い込み)と呼ばれるものが作用していると私は考えています。
少しだけアンコンシャスバイアスの説明をすると、これは誰でももっている無意識の思い込みのことをいいます。
管理職研修などで、「今度、転勤してきた鈴木さん」といわれ、男性を思い浮かべた人はいますか? と聞くと、ほとんどの人が手をあげます。「介護している山田さん」といわれ、女性を思い浮かべた人はいますか? と聞くと、同じように手があがる確率が高い傾向にあります。

一見その人にとって「常識」といわれるもので、アンコンシャスバイアスはできあがっています。

たとえば次のように、「○○するのがルールだ」という言葉にアンコンシャスバイアスが隠れていることが多いようです。

「○○するのは当然だ」
「こういう場合は、○○すべき」
「絶対、○○に違いない」

つまり、自分が「常識」だと定義しているものに私たちの判断は偏りがちなのです。

では、私たちの常識はいつごろできあがったものでしょうか?

アインシュタインは常識について次のように定義しています。
「私たちの常識は18歳までにつくられる」

考えてみると、いま20代の人の18歳までの環境や育ってきた背景と、いま50代の人の18歳までの環境や背景は、「デジタルネイティブ(生まれたときからインターネットが浸透していた世代)」かどうかも含め、時代背景にだいぶ差がありますよね。

そのような観点から見ても当然、世代間格差は生まれてきます。そのため今後ますます、いままでとは違うコミュニケーションである「コーチング思考」を取り入れた対話が必須になっていくのです。

アンコンシャスバイアスは脳の情報処理の特性ともいわれています。私たちの脳は、大量の情報処理を毎日行っているため、判断のいらない事柄にはなるべくエネルギーをかけず情報処理をし、それまでの経験則を使います。また、判断が必要なものに対してのみエネルギーを投入して用心深く熱考し判断しているといわれているのです。

脳の特性だから当然アンコンシャスバイアスは誰でももっているもので、自分にもあるのだと気がつくことからすべてがはじまります。
コーチング思考を身につける心構えの1つめは、判断をせず、誰もがもっているであろうアンコンシャスバイアスを意識しつつ、「オープンマインドで人の話を聴く」ことです。
2つめは、「同じ目線の当事者、真の応援者である」ことです。とくに上司・部下間、経営者・社員間、もしくは自分と近い関係の人はとくに気をつけるべき心構えになります。

コーチング思考は、部下の目標達成やスキル向上を支援するためのコミュニケーションツールです。批判者や傍観者の視点ではなく、当事者として、また真の応援者としての心構えが必要です。

常にその場にいる当事者意識を忘れずに同じ目線を保ちながら部下や社員に接することが、コーチング思考自体の方向性を左右してしまいます。課題や問題を真ん中において一緒に解決する目線と姿勢をもつことです。

想像してください。いつも通勤で使っている道を歩く15分と、まったく知らない道を歩く15分では、私たちの気持ちのもちようはだいぶ異なります。
時にはなんだか果てしない道を歩いている気になるかもしれません。ひとりぼっちに感じるかもしれません。
あなたの部下はその道を歩いている可能性があります。あなたの社員もその道を歩いているかもしれません。
ぜひ、「同じ目線の当事者、真の応援者でいる」姿勢を徹底して貫いてください。

3つめは、「自らの感情のコントロールを行う」ことです。コーチング思考はコミュニケーションツールです。私たちは自分から多くの情報を発信しています。もちろん、相手からも多くの情報を受け取ることでコミュニケーションを成り立たせています。
その情報のなかには、バーバルコミュニケーションという相手から発せられる言葉そのものだけでなく、ノンバーバルコミュニケーション、言葉以外のもの(声のトーン、身体のしぐさ、目の動き、表情)など、さまざまな情報から判断材料を導き出しているのです。

1960年代に心理学者アルバート・メラビアンによって提唱されたメラビアンの法則では、人間のコミュニケーションにおいて、言葉自体の意味が全体の意味の7%、声の調子が38%、そして非言語的な要素(主に視覚的な要素)が55%を占めるとされています。つまり、人は話をしなくても、知らないうちに自分の状況を相手に伝えているのです。
あなたの感情が高ぶりを見せたとき、怒りや悲しみはあっという間に相手に伝わります。

知り合いのある面接官は、アナウンサーの面接試験を行う際に、その人が話をする前から合格・不合格を決めているといいます。
私たちも電話でさえ、相手がうなずきながらほかのことに気を取られているなとか、眠そうだなとか、こちらに集中してないな、などの状況がわかってしまうときもありますよね。怒っている人を目の前にして話を続けられる人は少ないです。それは、こちらが口に出さなくてもこちら側の感情が如実に伝わってしまうからです。

感情が安定しない相手とコミュニケーションを取ることはなかなか難しいですよね。話をする上司や経営者側が相手が話しやすい環境をつくるためにも、自らの感情に気を配っていなければなりません。
ぜひ、日常的に、ご自身の状況を確認してみてください。

●まとめ
コーチング思考を身につける3つの心構え
①オープンマインドで人の話を聴く。
②同じ目線の当事者、真の応援者であること
③自らの感情のコントロールを行うこと

*   *   *

第1章はここまで!
続きを読みたい方は、各電子ストアにて11月14日より随時発売になります。ぜひお買い求めください。
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会社から突然1ON1をするようにいわれ、概要の説明は受けたものの、どのような心がけで1ON1に取り組むべきかわからず、もう1ON1の時間が苦痛で仕方ない、管理職って大変すぎる。そのようなあなたに、コーチング思考という成果がでる手法をわかりやすくお届けします。

コーチング思考は、1ON1に悩む管理職や経営者の皆さんにぜひを身につけていただきたいコミュニケーションスキルです。

「1ON1の場を有効に使いたい」
「部下の自律性を育てたい」
「自分のチームをもっとよくしたい」
毎日のように、そのような管理職や経営者の相談に乗っています。

最初は部下とのコミュニケーションに悩んでいた、1ON1に不安を抱えていた管理職・経営者の方から、
「部下の顔がみるみる明るくなった」
「いままでは受け身だった部下が自発的に動けるようになった」
「こちらのコミュニケーションが変わると相手も変化することに気がついた」
そのようなうれしい声を多くいただいています。

自律的な部下を育成したいと考えている管理職や経営者が、いままでのコミュニケーションの殻を脱ぎ捨てて、新しいコミュニケーションスタイルを身につけていきたいと考えているならピッタリです。

これからお伝えすることは、まわりくどく思われるかもしれませんが、確実に成果をもたらしますので、ぜひ、真摯に取り組んでいただけたらと思います。

【目次】

第1章 コーチング思考の基本
第2章 ひあての法則
第3章 コーチング思考を身につける
第4章 コーチング思考を活用しよう

■著者プロフィール

尾澤まりこ

管理職・経営者のためのマネジメントコーチ
大学卒業後、商社などを経て、ベンチャーや大手金融に法人営業職として約15 年勤務。「目の前の人のココロが動くことで商品は売れる」という理念を実践すべく、約2000 人の経営者・起業家と直接対話し、トップ営業としてマネジメント業務に携わる。取締役賞をはじめとする数々の賞を受賞した後、退職。人のココロをもっと知る為に、コーチング、心理学、NLP、メンタルトレーニングなどを専門機関で学び、自己改革を遂げる。現在は、法人経営者として独立し、人のココロに伴走しながらビジネスコーチとして活躍。ビジネスコーチとしてのセッション時間数約1700 時間。その傍ら、講師として、メンターとしてコーチ養成校で約3000 人の生徒と関わる。メディアにも多数出演。

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