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(掌編小説)くろねこ春子の日常#006生きろ!少年
満月の夜に黒猫に変身する女の物語
中学2年生の少年に、小春の心は届くのか?
私はベッドに寝転びながらスマホで動画を観ていた。好きなバンド、シンセピッチャーの動画を観ていると、関連動画で出てきた新人バンド『9月のノクターン』
「ああ、シンセと同じ事務所だったのか。売り出し中だねえ。推されてるねえ」
もう起きなきゃ。今朝は小児病棟の応援の日だ。小児病棟の子供たちはかわいい。かわいいけど、かわい
(掌編小説)猫が好きだから、とっても好きだから…
猫が大好きな鈴木家は、亮介(33歳)、妻(30歳)と娘(5歳)と猫ちゃんの3人と1匹で、なかよく暮らしていた…はずだったのに…
郊外の閑静な住宅地の一角で、かわいくニャーンと鳴く黒猫ちゃん。娘のまどかちゃんが生まれる少し前に、鈴木家にもらわれてきた女の子だ。名前はタマちゃん。まどかちゃんと一緒に育ってきた大事な家族。だけどまどかちゃんは最近外で遊ぶのが大好きで、今日も近所のお友達の家に行ったき
(掌編小説)くろねこ春子の日常#005続・小春の結婚。終わりの物語
満月の夜に黒猫に変身する女の物語
小春(35歳)が結婚を意識した彼には、やっぱり秘密があった。
そして
彼は生きていた…。
午前3時。私は起きたまま天井を見ていた。このまま仕事を休んでばかりはいられない。それは分かっていたけれど、体は思うように動かない。
大好きだった祐也くんがいなくなって半年。もう秋。スマホを離せないまま布団に潜り込む。SNSでは祐也くんがいたバンド「クリームパン」のアニ
(掌編小説)くろねこ春子の日常#004小春の結婚
満月の夜に黒猫に変身する女の物語
小春(35歳)が結婚を意識した彼には、やっぱり秘密があった…
実は彼氏が出来ちゃった。ロックバンドでギター弾いてる祐也くん。私よりちょぴっと若くて30歳。一応プロのバンドマンだけど、ライブハウスでバイトもやってる。そんな話あるあるだよね。彼は私がいつも行ってるライブハウスで働いてて、そこで偶然知り合った。バンドマンだと知ったのはその後だよ。付き合いだしてから
(掌編小説)ごめんね、みいちゃん
心中相手を募って出会った2人。女は部屋に残した猫を気にかけて…
とにかく誰も知らない遠い所へ。かもめさんが運転する車は、私を乗せて北へ北へ走っていた。
心を削るだけだった会社は少し前に辞めた。薬は増えていく一方で、どんよりとした暗い闇は重くまとわりついたまま。
秋とはいえこの辺りはもう寒く、空はやたらと青かったけれど、車の中は色が消えたような会話が交わされるだけだった。
ネットの世界で
(掌編小説)くろねこ春子の日常#003小春の夢はひこうき雲
満月の夜に黒猫に変身する女の物語
「お父さん!あたしのチョコレート食べたでしょ!」
「お父さんは小春のチョコレートなんか食べてないよ!春子だろ?」
「にゃー」
「猫がチョコレート食べるわけないじゃん!ていうか、お父さん生きてた時、春子いたっけ?」
私は目を覚ました。桜も緑の葉っぱがモサモサ茂る季節。だけど今朝は少し肌寒い。なんでお父さんの夢を見たんだろう?春子の夢はよく見るけど、死んだお父さん
(掌編小説)くろねこ春子の日常#002拾われた春子
満月の夜に黒猫に変身する女の物語
ぼーっとしてたら満月の夜。気が付けばくろねこ春子に変身していた。このまま部屋にいても仕方ないにゃん。徘徊するとするか。私は窓から外に出て(いつも少しだけ開けてるんです。本当です)蒸し暑い夏の夜に繰り出した。コンビニの明かりが魅力的だが入る訳にもいかず、うろうろしているうちに公園に。そういえばここには公園があったんだな。あまりなじみがない。とても小さな公園の、ひ
(掌編小説)くろねこ春子の日常
満月の夜に黒猫に変身する女の物語
「黒沢さん。ちょっと聞いてもらえますぅ?」
田中さんはつやつやの髪を午後の陽射しでさらに輝かせながら、きれいな顔を近づけてきた。病院の職員専用食堂のすみでコソコソ話。細身の彼女はナース服が良く似合う。私とは大違いだ。田中さんは24歳位かな?私と一回り位違うわね。
「なぁに?」
私は彼女の顔をのぞき込んで尋ねた。彼女は突然顔色を曇らせると、声のトーンを落としな
(掌編小説)続・すみっこ白猫と小学四年生~君の中の、りなちゃん~
「りなちゃん!学校来れるようになって良かったね!」
アヒル小屋の中で、ほうきを持ちながらあいちゃんは言った。
りなはちりとりに押し込まれる野菜くずを見ながら「うん」と言った。
「田中先生はまだ来れないけどね」
ひまりちゃんはそうつぶやくとため息をついてみせた。りなは何か言われるのかと身構えたけれど、二人はまた違う話題で盛り上がっていた。先生が休むなんて。先生も休むなんて。
放課後。帰り道。りなは
(掌編小説)続・バイクに乗って猫を拾った
バイクで転んで猫に助けられて入院中。現状を説明すれば、なんとも冴えない。でも、もう松葉杖で歩けるようになったから退院が近いようだ。
4人部屋は僕ひとりだけ。白い部屋の窓の外からこぼれる午後の日差しは、僕には眩しすぎる。昨日両親が田舎から見舞いに来てくれて、初めて親のありがたみが分かった。恥ずかしいけれど、32年間生きてきて初めてのことだった。
明るい日差しが陰って夕暮れに包まれる。僕はカーテンを開
(掌編小説)三毛猫のメリークリスマス
忘年会の帰り道。街がキラキラしている。明日はクリスマスイブか。面白くないなあ。実につまらない。私は急ぎ足で電車に乗って自分の駅に着くと、コンビニで安い赤ワインにチーズと唐揚げを買って自分のマンションに向かった。身を切るような風の中、エントランスに滑り込むと私の目の前に小さなサンタクロースが立っていた。いや、サンタクロースに見えた彼女は、真っ赤なコートに白い動物用のキャリーバッグを持った女の子だった
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