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(掌編小説)くろねこ春子の日常#004小春の結婚

満月の夜に黒猫に変身する女の物語

小春(35歳)が結婚を意識した彼には、やっぱり秘密があった…


 実は彼氏が出来ちゃった。ロックバンドでギター弾いてる祐也くん。私よりちょぴっと若くて30歳。一応プロのバンドマンだけど、ライブハウスでバイトもやってる。そんな話あるあるだよね。彼は私がいつも行ってるライブハウスで働いてて、そこで偶然知り合った。バンドマンだと知ったのはその後だよ。付き合いだしてから彼のバンドのライブには何度も行ったし、病院の同僚にチケットを買ってもらったりして、バンドが売れるといいなって夢見てた。
 それが彼の話だと今度大きなタイアップがあって、そしたら大騒ぎになるよって。あ、やばいやばい、これは内緒の話ね。まあ私も詳しくは聞かされてないんで、どのくらい大きなことか分からないけど、ドラマとかアニメの主題歌になったら最高だなって思ってるの。

 休日前の夜、仕事も終わってお風呂も入って、のんびりビールを飲みながらボーっと楽しいことばかり考えてた。そんな時に携帯から電話の着信音。電話と言えばお母さん。画面を見るとやはりそうだった。
「こんばんは!小春元気?」
「うん。お母さんは元気そうだね。何?」
「今年はお父さんの法事があるの覚えてた?帰って来れるよね?」
「あ、夏だよね。もちろん帰るつもりだよ。13回忌かあ」
「そう。あんたいくつになったっけ?35歳?」
「そだよ」
「お父さんが亡くなった頃にはもう看護師だったもんね。そう35歳かあ」
 お母さんが何を考えているか、大体分かっていた。結婚とか子供のこととかどう考えているのか?付き合っている彼氏はいないのか?って本当は聞きたいんだよね。でもお母さんはいつも寸止めでやめてくれる。私は聞かれたら祐也くんのことを言いたくてうずうずしてたけど、我慢した。
 お母さんは近所の噂話や会社の愚痴を長いことしゃべりまくって満足したようで、電話は終了。ふう…と一息つく間もなく祐也君からLINE。

〈明日休みだよね?どうしても話したいことがあるから明日会えないかな?〉
 明日!!明日は満月じゃん。ダメだよ!私変身しちゃうじゃん!
〈明日じゃなきゃダメ?来週はどう?〉
 祐也くんのLINEの返信が遅くなった。怒った?いやこんなことじゃ怒んないよね。
〈どうしても明日がいいんだ。大事なことなんだよ〉
 今度は私が考え込んだ。満月の夜に猫に変身する女だということを、ずっと隠したまま付き合えるわけがない。私は未来を夢見た。そう、私は祐也くんと結婚したいんだ。私は思い切って返信した。
〈わかった。だけど家に来て。家に来て話をしようよ。いい?〉
〈わかったよ。ありがとう。急にごめんね〉
 スタンプを打ってLINE終了。ああ、ついに運命のボートは荒波の海に漕ぎ出しちゃったんだ。明日、明日だよ!小春ちゃん!ついにプロポーズ!?

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